マンガ

鳥山明逝去、に寄す

● 今こそ、ドラゴンボールを集めに行かねばならん――わが国のみならず、世界中がそう思ったようです。 鳥山明急逝の報がweb環境を介して瞬時にかけめぐりました。享年68。急性硬膜下血腫とのことでしたが、その衝撃は国内もさることながら、むしろそれ以上に…

読み書きと「わかる」の転変

● 最近、おそらくは老化がらみでもあるだろう事案ですが、あれ、これはひょっとしたらヤバいかも、と思っていることのひとつに、「横書き」の日本語文章が読みにくくなっているかもしれないこと、があります。 いや、読むのは読めるんだけれども、腰を据えて…

記録する情熱と「おはなし」の関係

● わだかまっていた厄介事に、とりあえずの決着がつきました。 とは言えその間、2年9ヶ月という時間が、それもおのれの還暦60代という人生終盤、予期せぬめぐりあわせの裡に過ぎ去っていました。 大学という日々の勤めの場が、たとえ北辺のやくたいもない…

「団塊の世代」と「全共闘」㉜ ――大江健三郎、高橋和巳

●大江健三郎 ――三島なんかとは格が違うとは思うんですが、未だに朝日新聞以下、後がなくなってるリベラル陣営の守護神というか貧乏神みたいになっている、大江健三郎はどうでしたか? 大江健三郎は、私たちの頃は尊敬の対象ではなかったし、私も大江健三郎を…

「団塊の世代」と「全共闘」㉖ ――「大学」の衰退、戦後の終焉の風景

●大学という場の磁力、日本人の退嬰化 ――大学自体、そういう「教養」をわが身に紐付けて形成してゆくような教育を、最近はもうしていませんし。 そう、ただ昔から大学は、そういう教育をしていたとしても、それは一般的な教養教育にすぎないんであって、制度が…

さまざまな「いなか」が――石原苑子『祖母から聞いた不思議な話』

twitter.com*1● 主人公というか主な語り手、主な素材供給元であるおばあちゃんは、昭和7年の生まれ。主な舞台は、岡山県北西部とおぼしき土地、おそらくは今の新見市に編入されたムラでしょうが、そういう具体的な地名もまた、まず意味がない。というか、関…

「貧しさ」の語られ方について――「サムライの子」をめぐる〈リアル〉の諸相

*1 ――つねにわたしたちの論拠は〈児童文学〉という限定された、しかも複雑怪奇とまでいわれるほどに特殊な分野であって、そこに生起するさまざまの事象は文学一般の概念規定とはくい違うほどに独自の、偏狭な意味内容をもつ曖昧なことばによって表現されるこ…

マンガの「危機」について

*1 ● マンガが危機? そんなもん20年も前から言われとりますがな。 『少年ジャンプ』がとうとう200万部を切った、確かに四半世紀ほど前の全盛時600万部と言われとった頃からすりゃ三分の一以下、雑誌のみならず単行本も長期低落が止まらず確かにえらいことで…

「こち亀」が愛された理由

*1 1.「こち亀」という漫画が、老若男女に愛された理由は何だと思われますか? 当初から愛されたわけでもなかったんですがね。 連載開始が1976年、当時すでに少年マンガ市場は「青年」読者を取り込みながら右肩上がりを続けて我が世の春を迎えていたとは言え…

「こち亀」終了に寄せて

通称「こち亀」。この短く端折った呼ばれ方こそが、今様読み物文芸としてのニッポンマンガの栄光である。 人気マンガ作品がこのように略して呼びならわされるようになったのは、概ね80年代末から90年代にかけて。『少年ジャンプ』の600万部以下、週刊誌での…

マンガと北海道

● 北海道とマンガ、の関係について考えてみました。これもまた「ホッカイドウ学」の一環です。 去る3月始め、『ホッカイドウ学的マンガ学夜話』と銘打って、札幌市内でトークセッションを行いました。登場してもらったのはNHKの隠れた名物番組『BSマンガ夜…

マンガと大衆文学・再考――吉田聡『江戸川キング』をめぐって

「大衆文学はある日、忽然として誕生したわけではない。それに先行するいくつかの先駆的形態をふまえている。とくに大衆時代ものは講談・人情噺・歌舞伎・祭文・あるいは近世庶民文芸などに材をあおぎ、近くは渋柿園や碧瑠璃園の歴史もの、浪六の撥鬢小説な…

「ホッカイドウ学」的 マンガ学夜話

札幌国際大学 北海道地域・観光研究センター「ホッカイドウ学」準備室Presents 「ホッカイドウ学」的 マンガ学夜話 twitterのハッシュタグは…. #mangagaku_yawa #hokkaidogaku Facebookのイベントページは… http://www.facebook.com/events/270972866304610/…

マンガと若者文化の現在

―全体として、いまマンガはどうなっているのでしょうか。 さて、全体像をとらえるというのは不可能、ちょっと誰にもとらえられませんよ。ただ一時期のような勢いはなくなっていますね。週刊マンガ誌の『少年ジャンプ』が六〇〇万部だった九〇年代からいえば…

いまどきまだ『はだしのゲン』で……

――素直に読むことだ。そして、素直に感動することだ。とってつけたような政治の言葉でそれを説明しないことだ。その時、作中人物に稚拙な政治的言葉しか語らせられない 中沢啓治のもどかしさも感じられるだろう。 呉 智英 ● 毎年、八月十五日を目がけて、わ…

解説・山野車輪『韓国のなかの日本』

韓国のなかの日本 マンガ:韓国・新発見ツアー/日韓国境突入:編 作者:山野 車輪 辰巳出版 Amazon 山野車輪が、韓国という「現場」に降り立った。まず、そのことが今回、この彼の新しい作品について最初に語られるべきこと、なのだろう。 言うまでもなく、あの…

追悼・米沢嘉博

ああ、そうか、漫画評論家、か――そう思った。米沢嘉博の訃報に接した時に、まず最初に抱いた感想はそれだった。そんな肩書きになっちゃうんだな。そうなんだ、やっぱり死ぬってのは、そういうことなんだな。 社会的立ち位置としては、コミケの主催者、という…

対談 vs. 西原理恵子「明日船を出したら」

*1西原理恵子という“漁師”の目線。 あるいは、オヤジの皮かぶったキンタマオンナ、のこと ■ 二二年目の舵 ――**さんは、九三年の年末のNHK『BSブックレビュー』で、その年のベストワンに『怒濤の虫』(毎日新聞社)を挙げてらっしゃっいましたね。その他に挙…

サイバラはブンガク、か?

『ユリイカ』編集部からメイル。かなりびっくり(笑) 原稿依頼なんで、まあ、それはそれ、なんですが……その内容がこんなの。 『ユリイカ』7月号特集企画書(06/4/21) 特集*西原理恵子――うつくしいのはらを目指して 締切=5月25日 発売=6月2…

「お芝居」のもたらした自由――新作能「紅天女」国立能楽堂

*1 「紅天女」を国立能楽堂で、新作能として上演する、という話を耳にした時、正直びっくりしました。そんなムチャクチャ……あ、いや、勇猛果敢で男前な企てを正々堂々やってのけるなんて、という素朴な驚きと共に、ああそうか、そういうこともいまや平然と現…

解説 業田良家『世直し源さん』

● マンガは童話でなくてはならない――かつて、業田良家はそう言っていた。だが、その後何も言っていない。だから、ここであたしが勝手にその先をほどいてみる。 童話、と言い、寓話、と呼ぶ。あたしゃ民俗学者だからもっと端的に「民話」と言っちゃう。フォー…

無法松、あすなひろしの無意識をうっかりと引きずり出すこと

いや、のけぞった。めまいがした。そうか、そういうことだったのか、やっぱり、と、膝を何度も叩きまくった。 今回、あすなひろし公式サイトを管理する高橋徹さんに、この解説を書くための資料として送ってもらったコピーで初めて読んだのだが、あすなひろし…

追悼・永島慎二

おいこら、水島新司じゃないぞ、永島慎二、『ドカベン』じゃなくて『フーテン』の、『漫画家残酷物語』のダンさん、だ、気をつけろい――ネットで訃報を見て間抜けな問い合わせをしてきた若い友人にそんなオヤジ臭い説教かましたのは、こっちもそれだけトシ食…

永井豪インタヴュー

*1 ●今回は映画の実写版「デビルマン」がメインの話題なんですが、せっかくですから、まずは漫画の方からお話をうかがいます。 永井さんは、これまでギャグ漫画、シリアス物、ヒーロー物、ヒロイン物等、かなり幅広いジャンルの漫画を描かれていると思うんで…

書評・斉藤孝『スポーツマンガの身体』

スポーツマンガの身体 (文春新書)作者:齋藤 孝文藝春秋Amazon マンガはすでに日本人の一般教養である。かつての浪曲がそうだったように、戦後の日本人のものの見方、考え方を形成してきたメディアのひとつになっている、それは間違いない。そういう意味で、…

思いっきりおおざっぱな「ラブコメ」・試論

*1 ● ニッポンのマンガ表現において、「少女マンガ」「少年マンガ」という分類が、事実上意味をなさなくなったのは、おおむね1980年前後のことでした。 具体的には、『タッチ』『みゆき』に代表されるあだち充の一連の作品あたりから顕著になり、高橋留…

追悼・青木雄二という身体

● 青木雄二について述べる。 最初に会ったのは、雑誌のインタヴューだった。今は亡き『マルコポーロ』の企画。当時すでに『ナニワ金融道』が大ブレイク、あの型破りの絵とおはなしとで、小うるさい能書き並べるマンガ読みはもちろんのこと、使い捨て読みっぱ…

マンガと「伝統」

さて、いまどきのマンガはいったいどうなっておるのか! ……なあんて見栄切ってみたところで、特に何も始まらないんですが、昨今の出版不況はマンガにもよそごとでなくて、小学館、講談社、集英社と少なくともマンガでその屋台骨を支えている版元のどこもが、…

ニッポンマンガとナショナリズム――『クニミツの政』『突撃!第二少年工科学校』

*1 マンガってのはすでにエイジカルチュア、つまりある世代にとっては重要なメディアだけれどもそれ以外にはどうも……てな代物になりつつある、というのがここのところのあたしの持論。いや、だからマンガはダメだ、って言ってるわけじゃなくて、メディアのラ…

コミケについて

*1 「サブカルチャー、カウンターカルチャーというが、40万人も集まる場を指してサブカルと評すこと自体が間違い。70年代の幻想を引きずっているだけ」とコミケを断じる大月隆寛氏。規模はメジャーであるのに、それを認めずサブカル的であろうとするところに…