書評

書評・橋爪大三郎『政治の教室』/加瀬邦彦『ビートルズのおかげです』

*1政治の教室 (講談社学術文庫)作者:橋爪大三郎講談社Amazon橋爪大三郎『政治の教室』(PHP新書) *2 とにかく、新書ラッシュであります。このオーバーヒートは近い将来、ミソもクソも一緒くたの新書市場大崩壊を招くでありましょう。具体的には、目先の…

マンガと「伝統」

さて、いまどきのマンガはいったいどうなっておるのか! ……なあんて見栄切ってみたところで、特に何も始まらないんですが、昨今の出版不況はマンガにもよそごとでなくて、小学館、講談社、集英社と少なくともマンガでその屋台骨を支えている版元のどこもが、…

草刈場のガクモン――菊池暁『柳田國男と民俗学の近代』

柳田国男と民俗学の近代―奥能登のアエノコトの二十世紀 作者:菊地 暁 吉川弘文館 Amazon 出世するぞ、こいつ。 いや、皮肉でも何でもなく、マジメにそう思うんだわ、ほんと。 菊地暁の『柳田国男と民俗学の近代』なんてタイトルの本が出ていたもんで、ほんと…

書評・勝海舟『氷川清話』『海舟座談』

戦争がおっぱじまっちまいましたな。 いくら本の話題中心に何か、という注文のこの欄でも、こりゃ何か言わねば格好がつかないだろう、というわけで、多少は能書きというか感想めいたことなど。 今回、例の「同時多発テロ」から始まる一連のできごとからわれ…

ネット書評の価値

*1 もしかしたら、と、これは最近ずっと思っていることなんですが、あのお、新聞や雑誌その他の紙と活字の媒体よりも、今やインターネットにアップされる書評の方が、ずっとボリュームがあるんじゃないですかねえ。 もちろん、ネットの書評は書き手が基本的…

書評・林房雄『大東亜戦争肯定論』/火野葦平『陸軍』『革命前後』

いまさら言うまでもないことですが、世の「構造改革」の大波は、「エラい」にあぐらをかいてのほほんとしてきた活字と本の世界にも、ガンガン押し寄せてきております。 零細生産者であるこちとらもの書きや版元の事情はひとまずおいておくとしても、小売りで…

「キャラ」ということ――小池一夫・編『キャラクター原論』

キャラクターはこう創る! (小池一夫の漫画学―スーパーキャラクターを創ろう)作者:小池 一夫小池書院Amazon キャラ立ち、というもの言いがあります。 主としてマンガ業界から発したものだと思いますが、連載マンガなどで登場人物のありようがいきいきとしてき…

書評・川村湊『妓生』 菅野聡美『消費される恋愛論』

妓生(キーセン)―「もの言う花」の文化誌作者:川村 湊作品社Amazon川村 湊『妓生――「もの言う花」の文化誌』(作品社) こういう本が日本の学者(一応)から出るようになったことは、まず喜ぼう。大方は「キーセンパーティー」でしか知らない、かの「妓生」の…

書評・柳田國男『明治大正史・世相篇』/コロナブックス編集部・編『日本を知る105章』

明治大正史 世相篇 新装版 (講談社学術文庫)作者:柳田 國男講談社Amazon明治大正史作者:柳田国男平凡社Amazon柳田国男『明治大正史・世相篇』(中公クラシックス) *1 新書市場の拡大と好調に引きずられたのか、かつての文庫のラインナップからピックアップ…

週刊誌書評の愛情

う~ん、えらいこっちゃ。なんか知らないけどちょっとゆっくりあたりを見回してみたらあなた、今やそこら中で書評なんてのはどんどん消えてってるじゃないですか。 新聞じゃ確かにまだ書評欄がしっかりある。でも、週刊誌なんか気がついたら書評の居場所なん…

書評&追悼・『いつだって一期一会――テレビカメラマン新沼隆朗』

どういう具合に取り上げようかと、柄にもなく逡巡していた本がある。 400字書評でやるのももったいないし、何より抱き合わせで引き立つその他の本もなかなかない。特集でやらせてもらっている民俗学概論大月流の方で、とも思ったけれども、それだと本自体の…

中沢新一『フィロソフィア・ヤポニカ』

フィロソフィア・ヤポニカ 作者: 中沢新一 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2001/03 メディア: 単行本 購入: 1人 クリック: 6回 この商品を含むブログ (18件) を見る *1 一連のオウム事件A級思想戦犯中沢新一、堂々の非転向宣言、であります。ほれ、この通…

「知られざる人生」十冊

いきなり逆説的な言い方になって申し訳ないけれども、「知られざる人生」などは、実はもうない。少なくとも、これまでのような形ではもうあり得ない。異形探し、貧乏探し、悲惨探し、逆境探し、といった陳腐化したベクトルで、それら自伝や評伝といったジャ…

日本という自意識

ここのところ韓国やら中国やらから、なりふり構わぬ抗議が続いていて、ただでさえ悪役になっているところへ、なおのこといらぬ注目を集めている「つくる会」教科書。まずは歴史の方がやり玉にあがりがちだけれども、公民の方も成り立ちとしては一蓮托生、こ…

CLAMP『ちょびッ』

*1 動物を擬人化して描くのはマンガのお約束。『ジャングル大帝』や『ライオンキング』のような、およそ生態系を無視した代物ができたりするが、もはやそんなもんで驚いてちゃいけない。二一世紀はパソコンまでヒトになっちゃう。 CLAMP『ちょびっッ』…

書評・中沢新一『フィロソフィア・ヤポニカ』草稿

フィロソフィア・ヤポニカ 作者: 中沢新一 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2001/03 メディア: 単行本 購入: 1人 クリック: 6回 この商品を含むブログ (18件) を見る *1 一連のオウム事件A級思想戦犯中沢新一、堂々の非転向宣言、であります。ほれ、この通…

書評・『三島由紀夫VS.東大全共闘 1969-2000』

三島由紀夫VS東大全共闘: 1969-2000作者:三島 由紀夫藤原書店Amazon*1 存分に笑わせていただきました。いや、ほんとに。 表紙の惹句からしてすごい。「伝説の激論会“三島VS.全共闘”(1969)、そして三島の自決(1970)から三十年。『左右対立』の図式を超えて両…

書評・中村とうよう『雑音だらけのラヴソング』(ミュージック・マガジン社)

雑音だらけのラヴソング (とうようズコレクション)作者:中村 とうようミュージックマガジンAmazon 音楽を語る、論ずる、という作法が衰退して久しい。 音楽だけじゃない。映画やマンガ、いやいや、見たり聞いたり読んだりしたら何か能書きを言いたくなる表現…

文庫と新書の矜持――古島敏雄『子供たちの大正時代』(平凡社ライブラリー) 阿部謹也『「教養」とは何か』(講談社現代新書)石澤康治『日本人論・日本論の系譜』(丸善新書)

*1 最近、文庫のシリーズがあちこちで新たに創刊されている。はっきりとしたペーパーバックの伝統を持たないわが国の出版市場の中で、文庫本というのはマンガ本と共に、言わば日本版のペーパーバックの役割を担ってきたと言っていいと思う。 ただ、新たな文…

掏摸・巾着切りの近代――本田一郎『仕立屋銀次』(中公文庫)

「明治時代」とひとくくりに言います。文明開化の、陸蒸気の、鹿鳴館の「明治」。富国強兵の、自由民権運動の、征韓論の「明治」。けれども、その同じ「明治」という時代の中に、いつの時代もそうであるようにゆっくりと経過していったふだんの暮らしに即し…

「空襲」がこわかった――野坂昭如『一九四五・夏・神戸』(中公文庫)

「空襲」がどれだけこわいものだったか、という話がある。天変地異の新たなヴァリエーションとして、戦後半世紀の間、さまざまに語られてきたはずの「空襲」。 けれども、その「空襲」というひとことの向う側に、具体的にどのような暮らしの詳細があり、どの…

「歴史」の回復のために――生方敏郎『明治大正見聞史』(中公文庫)

「歴史」というもの言いがあちこちで取り沙汰されるようになっています。 この四月から採用される中学校の歴史教科書の中に、いわゆる「従軍慰安婦」についての記述が入るようになる、そのことについての議論がひとつのきっかけだったことは間違いありません…

書評・与那原 恵『物語の海、揺れる島』(小学館)

物語の海、揺れる島作者:与那原 恵小学館Amazon *1 阪神大震災の直後、被災地を中心にレイプが多発している、という噂が広まった。ボランティアの若い女性が瓦礫の中に引きずり込まれて暴行された、車で遠く連れ去られて強姦された……各メディアはこぞってこ…

書評・Y・ラズ/森泉弘治・訳『ヤクザの文化人類学』(岩波書店)

ヤクザの文化人類学: ウラから見た日本 (岩波現代文庫)作者:ヤコブ ラズ岩波書店Amazon 今から十年ばかり前、こちとらがまだ三流大学院生だった頃、イスラエルからやってきた文化人類学者だというひょろっと背の高いガイジンに紹介された。どこかのスパイか…

活字の本領、この状況でなお――稲垣尚友『密林の中の書斎』(梟社) 永瀬唯『肉体のユートピア』(青弓社) 安原顕『ふざけんな人生』(ジャパンミックス) 『日曜研究家』

紙の上に刷り込まれた活字によりかかりこの世のご正道から足踏み外す病いがある。その一方で、おのれの体験だけを後生大事になで回し続けてうっかり歳を食ってしまう無残もある。とかく知性ってやつはめんどくさい。 ただ、いずれそのような活字を切実に読み…

書評・板橋雅弘『裏本時代』(幻冬舎)

「上質の小説や映画のような体験がどんな人間にも生きているうちに一度や二度はふりかかるものだ。/僕にとって一九八二年から八三年にかけてのあの個人的体験はまさにその一度や二度の貴重なものだった。/そして金ピカの八〇年代を予感させるあの時期を描…

書評・佐野真一『旅する巨人』(文芸春秋)

● 宮本常一とその仕事について語らねばならない時、どこか口ごもってしまう自分がいる。 同じ民俗学に携わる人間でも、柳田国男について語ろうとする時にこのような躊躇はないし、南方熊楠や折口信夫についてもまず同じだ。けれども、宮本常一にだけはどこか…

書評・湯浅 学『人情山脈の逆襲』(BIプレス)

人情山脈の逆襲作者:湯浅 学ブルースインターアクションズAmazon ベースはひとまず音楽。ロックからブルースとR&Bへと黒くなり、同時にインディーズ系へも淫していった経緯が推測される。これにお笑いと芸能とプロスポーツ。さらにマンガや映画やアートや…

書評・C・ギアーツ/森泉弘治・訳『文化の読み方/書き方』(岩波書店)

大学院生の頃、ギアーツを原書で読めたら一人前、とよく言われた。ひとつのセンテンスが異様に長い。文意がとりにくい。あいつは『ヌガラ』(ギアーツの大著)を三日で読んだ、といったいかにも八〇年代的な秀才伝説の培養基になったりしたのもそのためだ。…

書評・今川勲『犬の現代史』間直之助『馬の表情』オバタカズユキ『ペットまみれの人生』

*1犬の現代史作者:今川 勲現代書館Amazon かつて、板倉至という軍人が.いた。軍用犬研究班の主任で陸軍大尉。一九三一年九月、関東軍が軍事行動に出た柳条湖事件の時、日頃から訓練していた三頭のシェパードを軍用犬として連れて前線に立った。 「『那智』『…