書評

マンガとナショナリズム――『クニミツの政』『突撃!第二少年工科学校』

マンガってのはすでにエイジカルチュア、つまりある世代にとっては重要なメディアだけれどもそれ以外にはどうも……てな代物になりつつある、というのがここのところのあたしの持論。いや、だからマンガはダメだ、って言ってるわけじゃなくて、メディアのライ…

中沢新一『フィロソフィア・ヤポニカ』

フィロソフィア・ヤポニカ 作者: 中沢新一 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2001/03 メディア: 単行本 購入: 1人 クリック: 6回 この商品を含むブログ (18件) を見る *1 一連のオウム事件A級思想戦犯中沢新一、堂々の非転向宣言、であります。ほれ、この通…

「知られざる人生」十冊

いきなり逆説的な言い方になって申し訳ないけれども、「知られざる人生」などは、実はもうない。少なくとも、これまでのような形ではもうあり得ない。異形探し、貧乏探し、悲惨探し、逆境探し、といった陳腐化したベクトルで、それら自伝や評伝といったジャ…

日本という自意識

ここのところ韓国やら中国やらから、なりふり構わぬ抗議が続いていて、ただでさえ悪役になっているところへ、なおのこといらぬ注目を集めている「つくる会」教科書。まずは歴史の方がやり玉にあがりがちだけれども、公民の方も成り立ちとしては一蓮托生、こ…

日本という自意識

ここのところ韓国やら中国やらから、なりふり構わぬ抗議が続いていて、ただでさえ悪役になっているところへ、なおのこといらぬ注目を集めている「つくる会」教科書。まずは歴史の方がやり玉にあがりがちだけれども、公民の方も成り立ちとしては一蓮托生、こ…

書評・中沢新一『フィロソフィア・ヤポニカ』

フィロソフィア・ヤポニカ 作者: 中沢新一 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2001/03 メディア: 単行本 購入: 1人 クリック: 6回 この商品を含むブログ (18件) を見る *1 一連のオウム事件A級思想戦犯中沢新一、堂々の非転向宣言、であります。ほれ、この通…

文庫と新書の矜持――古島敏雄『子供たちの大正時代』(平凡社ライブラリー) 阿部謹也『「教養」とは何か』(講談社現代新書)石澤康治『日本人論・日本論の系譜』(丸善新書)

*1 最近、文庫のシリーズがあちこちで新たに創刊されている。はっきりとしたペイパーバックの伝統を持たないわが国の出版市場の中で、文庫本というのはマンガ本と共に、言わば日本版のペイパーバックの役割を担ってきたと言っていいと思う。 ただ、新たな文…

掏摸・巾着切りの近代――本田一郎『仕立屋銀次』(中公文庫)

「明治時代」とひとくくりに言います。文明開化の、陸蒸気の、鹿鳴館の「明治」。富国強兵の、自由民権運動の、征韓論の「明治」。けれども、その同じ「明治」という時代の中に、いつの時代もそうであるようにゆっくりと経過していったふだんの暮らしに即し…

「空襲」がこわかった――野坂昭如『一九四五・夏・神戸』(中公文庫)

「空襲」がどれだけこわいものだったか、という話がある。天変地異の新たなヴァリエーションとして、戦後半世紀の間、さまざまに語られてきたはずの「空襲」。 けれども、その「空襲」というひとことの向う側に、具体的にどのような暮らしの詳細があり、どの…

「歴史」の回復のために――生方敏郎『明治大正見聞史』(中公文庫)

「歴史」というもの言いがあちこちで取り沙汰されるようになっています。 この四月から採用される中学校の歴史教科書の中に、いわゆる「従軍慰安婦」についての記述が入るようになる、そのことについての議論がひとつのきっかけだったことは間違いありません…

書評・与那原 恵『物語の海、揺れる島』(小学館)

*1 阪神大震災の直後、被災地を中心にレイプが多発している、という噂が広まった。ボランティアの若い女性が瓦礫の中に引きずり込まれて暴行された、車で遠く連れ去られて強姦された……各メディアはこぞってこの「被災地にレイプ多発」をニュースとして報道し…

書評・Y・ラズ/森泉弘治・訳『ヤクザの文化人類学』(岩波書店)

今から十年ばかり前、こちとらがまだ三流大学院生だった頃、イスラエルからやってきた文化人類学者だというひょろっと背の高いガイジンに紹介された。どこかのスパイかといぶかるほど日本語が達者で、白人の自由人特有の不遜なところもあったけれども、冗談…

活字の本領、この状況でなお――稲垣直友『密林の中の書斎』(梟社) 永瀬唯『肉体のユートピア』(青弓社) 安原顕『ふざけんな人生』(ジャパンミックス) 『日曜研究家』

紙の上に刷り込まれた活字によりかかりこの世のご正道から足踏み外す病いがある。その一方で、おのれの体験だけを後生大事になで回し続けてうっかり歳を食ってしまう無残もある。とかく知性ってやつはめんどくさい。 ただ、いずれそのような活字を切実に読み…

書評・板橋雅弘『裏本時代』(幻冬舎)

「上質の小説や映画のような体験がどんな人間にも生きているうちに一度や二度はふりかかるものだ。/僕にとって一九八二年から八三年にかけてのあの個人的体験はまさにその一度や二度の貴重なものだった。/そして金ピカの八〇年代を予感させるあの時期を描…

書評・佐野真一『旅する巨人』(文芸春秋)

● 宮本常一とその仕事について語らねばならない時、どこか口ごもってしまう自分がいる。 同じ民俗学に携わる人間でも、柳田国男について語ろうとする時にこのような躊躇はないし、南方熊楠や折口信夫についてもまず同じだ。けれども、宮本常一にだけはどこか…

書評・湯浅 学『人情山脈の逆襲』(BIプレス)

ベースはひとまず音楽。ロックからブルースとR&Bへと黒くなり、同時にインディーズ系へも淫していった経緯が推測される。これにお笑いと芸能とプロスポーツ。さらにマンガや映画やアートやテレビやその他もろもろのサブカルチュアへのとても常人の及ばぬ…

書評・C・ギアーツ/森泉弘治・訳『文化の読み方/書き方』(岩波書店)

大学院生の頃、ギアーツを原書で読めたら一人前、とよく言われた。ひとつのセンテンスが異様に長い。文意がとりにくい。あいつは『ヌガラ』(ギアーツの大著)を三日で読んだ、といったいかにも八〇年代的な秀才伝説の培養基になったりしたのもそのためだ。…

書評・香月洋一郎『山に棲む――民俗誌序章』(未来社)

*1 言葉が「地方」の現実を描けなくなって久しい。日本全国が“東京”と化したからだ、と嘆く声が聞こえる。だが、それは確かに事実であっても、そのさまざまに“東京”化した中での「地方」もまた必ずある。問題は、その必ずある現実を描きだす手立ても志も、共…

「男前」の存在感――解説・岡本嗣郎『男前』

山本集さんと初めて会ったのはもう何年か前、確かどこかのホテルのロビーだった。 同席していたのは、ルポライターの朝倉喬司さんと、この『男前』を最初に単行本として刊行した南風社という小さな出版社の社長Hさんのふたり。Hさんが岡本嗣郎さんの筆で山…

書評・稲垣尚友『十七年目のトカラ・平島』(梟社)

*1 七〇年代のおわり、それまでの十数年におよぶ奄美・沖縄の島々をめぐる旅の果てにたどりついたトカラ列島の小さな島、平島。「原初」の生活にあこがれ、文明にどっぷりひたった自分から逃れようと棲みついたのだが……。 島の暮らしを記録し、本にしたこと…

書評・『ドキュメント 綾さん――小沢昭一が敬愛する接客のプロフェッショナル』(新しい芸能研究室)

ここで小沢昭一さんが話を聞いている「綾さん」は、早い話がトルコのお姉さんです。今はソープランドって言いますが、彼女が現役で売れっ子だった六〇年代は、サービスの内容がマッサージからスペシャル、そして本番へと移行してゆく時期。売防法で行先のな…

書評・宮台真司『終わりなき日常を生きろ』(筑摩書房)

*1 宮台真司は、今どきの「論壇」まわりでは福田和也と並ぶ“いじめられっ子”らしい。 だが、僕は案外買っている。しなびたお勉強屋ばかりで世間離れした言葉を弄して恥じないこの国の社会学者の中で、動機はともあれひとまず身体ごと現実と取っ組みあわねば…

野口武徳『沖縄池間島民俗誌』のこと

沖縄池間島民俗誌 (1972年)作者:野口 武徳メディア: - 恩師とその本について述べます。 名前は野口武徳。今から一〇年前、僕が大学院最後の年に亡くなりました。享年五二歳。舌癌で下顎切除までした壮絶な死でした。 その野口先生がまだ院生の頃に行なった…

書評・井上章一『狂気と王権』(紀伊國屋書店)

まず著者に一言。もっとしっかり胸張りなって。 「本文中に引用した文献類でも、私自身が発掘したものは、そんなに多くない。たいていの資料は、すでに誰かが先に紹介してしまっている。私の本は、セコハンのデータをかきあつめた、やや概説的なしあがりとな…

「ムラによって違う」の底力――赤松啓介vs.上野千鶴子『猥談』刊行に寄せて

「そらあんた、ムラによっていろいろ違いがありますわぁ」 こちらのつたない問いかけに対して、実に人のいい顔をしてにっこり笑いながらつるりと頭をなでる、そのしぐさがいつも眼の底に深く焼きついた。 「呵々大笑」というもの言いにそのまま実体を与えた…

解説・赤松啓介×上野千鶴子『猥談』

● いやあ、長かった。 やろう、ということになってからなんと五年。別にサボっていたわけではないことは、 版元である現代書館と担当編集者の村井三夫氏の名誉のために言っておきたい。結構早い うちにゲラにはなっていた。そのいざゲラになってからが長かっ…

書評・村井 紀『増補改訂・南島イデオロギーの発生』(太田出版)

柳田“悪人”説に傾く柳田論の系譜というのがある。柳田陰謀史観とまでは言わないが、もの言いの歴史として見れば、桑原武夫あたりに始まる牧歌的で「文人」主義的な柳田評価の文脈が戦後の言語空間において一般化し、さらに柳田没後、より水増しされ強固な神…

書評・山口昌男『「挫折」の昭和史』(岩波書店)

不良の書いた歴史書である。 イデオロギーに縛られたまま身動きとれなくなり、どんどん世間離れしていったそこらの歴史学者たちとは根っから育ちが違う雑食性の知性。「近代日本の歴史人類学」という“いかにも岩波”なオビの惹句も、その知的不良の身のこなし…

民俗学者(上)――赤松啓介さん

「路上の達人たち」というタイトルで、永らくこの誌面をお借りしていろんな人の話を聞かせてもらってきた。 バナナの叩き売りの北園さんから始まって、「人間ポンプ」の安田さん、個人タクシーの坂口さん、鯨とりの川崎さん……などなど、移動する仕事、言わば…

解説・赤松啓介『神戸財界開拓者伝』

神戸財界開拓者伝作者:赤松啓介メディア: 単行本 民俗学者赤松啓介の最良の仕事は何か、と問われれば、迷わずこの『神戸財界開拓者伝』を推す。 初版は一九八〇年七月、神戸市長田区の太陽出版から出されている。箱入り六五九ページの布装。色はなんというの…