芸能

「うた」と言葉について

「木綿のハンカチーフ」にしても「ウエディング・ベル」にしても、未だそこまで自分の内面、やくたいもないこのココロの銀幕に鮮烈な印象を残しているらしいのは、単にその「歌詞」、言葉としてそこで歌われている言葉の意味内容においてだけでなく、それが具…

「カバー」ということ

「カバー」という言い方がある。特に音楽の、個々のうたや楽曲について言われるようになった印象ではある。元のうたや楽曲があって、それを元の歌い手やバンドとは別の人が歌ったり演奏したりする、そのことをさして言う言い方ではある、一応のところは。辞書…

「うた」と「うたう」の現在

「うた」というもの言いがある。 「歌」でも「唄」でもいいし、場合によっては「詠」や「謡」、「唱」なども、表記にせよニュアンス的にせよ、そのカバーする意味あいのうちに含まれてきたりする。不思議なことにそれらの一部はまた、「よむ」の方にもひっかか…

「馬鹿」と「純情」――山田洋次『馬鹿まるだし』と戦後の民衆的想像力における「無法松」像の変貌

*1 *2 ――小説を映画化するということは、その小説からエッセンスだけを抽出して、そのエッセンスをもう一度、映画として豊かに再展開して行くことですから、言ってしまえば、エッセンスが濃厚でありさえすれば、原作の小説がくだらなくたってつまらなくたっ…

「恐妻」とその周辺・ノート 

● 「恐妻」というもの言いがあった。昨今ではもうあまり使われなくなっているようだが、敗戦後、昭和20年代半ば過ぎあたりから、当時の雑誌やラジオその他のメディアを介してある種「流行語」になっていたとされる。 この種のもの言いを糸口に何か考察を始め…

政と桃ちゃん、寺山のつむいだ「競馬」

スシ屋の政、と、トルコの桃ちゃん。この名前にさて、そこのあなた、聞き覚えがあるだろうか。耳にした瞬間、ああ、と思わず口もとがかるくほころんじまうような感覚が、まだ身の裡に残っているだろうか。 別に映画やドラマってわけじゃない。だからどこかの…

さらば、朝青龍

「木でつくった家、紙で貼った座敷にくらす間は人間の気持が穏やかでもありのんびりもしてゐた、相撲だって晴天九日のために其都度組み立てる丸太細工の小屋の間は、めいめいの稽古場から土俵へ、土俵から相撲茶屋へやがて花柳界のお座敷へとゆく先々にこわ…

山田洋次の「晩節」

*1 ――ぼく自身、大衆の側に立って映画を作りたい。それを忘れたから、だんだん映画というものをみんなが見なくなったのじゃないか、と思っています。ぼくは、そういう立場で映画を作り続けたい、と思っている人間だし。 ――貧乏に耐えて、歯を食いしばって一…

「観光」と〈おはなし〉の間――「五寸釘の寅吉」をめぐって

*1 *2 ● 五寸釘の寅吉、の譚である。 「五寸釘の寅吉」、本名西川寅吉。明治時代の犯罪者で、何度も脱獄を繰り返したことで知られる。特に北海道の樺戸や空知の集治監から数度にわたって脱獄したことで、「有名」になった。単に全国的にメディアを介して知ら…

大相撲、あるいは北の湖理事長の、孤立無援について

大相撲はショーだ。だからきびしいしごきによって、あらゆる技能を身につけ、危険を克服してから、それを見せるものにしているんだ。その見せる相撲をまねるから、あぶないものになるんだ。 ● いま、相撲は気の毒である。 あらゆる意味で損な役回りに追い込…

大正初期浪曲雑誌の一動向――『正義之友』から『駄々子』を素材に

*1 *2 *3 ――この間初めて一席ぶっ通して聞いたがね、妙なもんですな、浪曲って奴は。なんとなく憎めない駄々っ子といった感じですな。古い浪曲の範疇に属する語り手なんだろうが文句なんか相当デタラメが多い。それでも糞ッと思えない所がなんとも妙だ。 *4 …

「ブスかわ」の謎

「ブスかわいい」と呼ぶんだそうな。青木さやかに森三中にハリセンボン、いずれそのへんの、主にお笑い系な最近の「十人並み」ご面相女性タレントたちのこと、である。 「エロかわいい」というのもすでに周知。倖田來未とかエビちゃんとかそのテをさすらしい…

浪花節がつくった日本の近代

浪花節。浪曲。日本人のメンタリティーを語るとき、必ず語られる一方で、古臭いものと否定されることも多く、今は耳にする機会も少ない。しかし、四月から札幌国際大人文学部現代文化学科教授を務める民俗学者大月隆寛さんは、浪曲こそが日本を国民国家にし…

飯島愛をめぐる都市伝説

飯島愛が「引退」か、というので騒がしくなってて、【サイバッチ!】界隈もこの手のネタにしては珍しく食いつきがいいようですが、あたし的には、ちと別の感慨があります。 というのも、AVできたないまんこさらしてた彼女がいつしかテレビに進出、そうこうし…

「七光り」の精神史を

青島幸男が、くたばりました。 全盛時クレイジーキャッツの傑作の作詞をものした才能として最大限敬意を払いつつ、いや、だからこそ、晩節汚しまくりだったよなあ、というのが率直な感想であります。 例によってテレビ以下、表のメディアは「元東京都知事」…

松本竜介=チャボ、逝く

*1松本竜介が逝った。享年四九歳。脳溢血で倒れて一週間ほど。あっけない死だった。いまのお笑いブームではない、かつてのMANZAIブームの頃の紳介・竜介のはじけ方を同時代で見知っている者にとっては、やはりある種の感慨がある。 漫才コンビ紳・竜の…

松本竜介=チャボ、逝く(草稿)

松本竜介が逝った。享年四九歳。脳溢血で倒れて一週間ほど。いまのお笑いブームではない、かつてのMANZAIブームの頃の紳助・竜介のはじけ方を同時代で知っている者にとっては、やはりある種の感慨がある。 漫才コンビ紳・竜の当時の姿は、逝去を機にい…

太田光、のスカ

芸能人やタレント、歌手、スポーツ選手……何でもいいのですが、そういう稼業の人たちが、何か政治的な発言をしようとする、という局面があります。当人が望んでやっている場合もあれば、周囲が商売として、営業としてやらせている、という場合もあるでしょう…

「戦国自衛隊」という記憶の大きさ

まずおさえておきたい。半村良原作『戦国自衛隊』の第一部、というか本編は、小説としてよりも、79年、あの角川映画による映画化で最も世間に広く知られるようになった。 演習中にタイムスリップに巻き込まれ、歴史に翻弄される伊庭三尉率いる一隊の物語は…

「芸人」文化人の横行

*1 意外と知られていないことらしいのだが、文化人、評論家などの中に、芸能プロダクションに所属している御仁がいる。 先鞭(せんべん)をつけたのは、確かホリプロだったか。文化人枠とかいうのを設定し、当時人気者だった栗本慎一郎などを所属タレントと…

「芸人」文化人の横行(草稿)

意外と知られていないことらしいのだが、文化人、評論家などの中に、芸能プロダクションに所属している御仁がいる。テレビや雑誌、その他マスコミへの露出が最近やたら多いな、と思ったら、疑っていい。個人事務所でもご同様。たゆまぬ「営業」の成果なのだ…

マツケンサンバ・考(コメント)

*1 マツケンサンバの人気については、まあ、いろいろ言われてますが、基本的には、パラパラやランバダなど、これまで近年、いくつか流行った「踊り」系身振りと若干異なり、その人気を支えているのがどうやら中高年層、ないしはもっと敷衍すれば「オトナ」で…

ネット言論、という新たな情報空間

*1マスコミは「ボケ」、ネットは「ツッコミ」 普通の国民が生活の中でインターネットの環境を享受できる度合いはここ七、八年の間に急激に高まってきた。それは、携帯電話というもうひとつのIT革命と並んで、おおげさに言えば日本人の情報生活環境にとって…

バスガイドという仕事

バスガイドという仕事の「語り」って、民俗学の視点から見るとどうなるんだろう。窓の外を流れる風景が、ガイドの「語り」を補助線として全く別の意味を車中の空間に立ち上がらせてゆくわけだけど、「観光」という意味の付与された空間の立ち上がる場、とい…

人生最高の映画、とは――『竜二』

*1 「人生最高の映画」なんて大風呂敷には、『独立愚連隊』だの『仁義なき戦い』だの『ガキ帝国』だの、まあ、それ系の男前な作品をあげることが多いんですが、今回は『竜二』を。www.youtube.com 作品自体もすでに評価が高い映画ですけど、実はこの脚本&主…

昭和文学会、コヨーテアグリー、Fast Car……

● ども。先週お伝えした昭和文学会での講演も、何とか無事にこなしてきました。 なにせ、このところ棚落ち著しい文科系のガクモンの、それも一番役立たずな近代ブンガクなんてもんの専門の学会ですから、会場にいらっしゃってたのもセンセイ方と元気なさげな…

ギターがくれた「自由」

● ギターが、「自由」だった。 「エレキ」と称された電気ギターではない。「フォークギター」とひとくくりにされたアコースティックの、そしておそらくはスチール弦のギター。60年代ならばPPMやジョーン・バエズ、ウディ・ガスリーやボブ・ディランの画像と共…

書評・沖浦和光『幻の漂泊民・サンカ』

「サンカ」と聞いてピンとくる人は、ある意味要注意。さらに「漂泊」「異人」「異界」「周縁」「闇」なんてもの言いにもうっかり眼輝かせちまうようならなおのこと。そういう性癖を持っている向きにいきなり冷水をぶっかけるような本、なのだ、ほんとは。 山…

TV評・「TVタックル」

田嶋陽子は「バカ」である。これはすでにニッポンの常識である。なのに、選挙で四十万票も獲得して今や国会議員。これもまた事実である。その「バカ」が先日の国会代表質問で「バカ」全開、ビン・ラディンを捕まえるな、話し合え、と吠え、あげくは「笑うな…

書評・中村とうよう『雑音だらけのラヴソング』(ミュージック・マガジン社)

雑音だらけのラヴソング (とうようズコレクション)作者:中村 とうようミュージックマガジンAmazon 音楽を語る、論ずる、という作法が衰退して久しい。 音楽だけじゃない。映画やマンガ、いやいや、見たり聞いたり読んだりしたら何か能書きを言いたくなる表現…