音楽

「カバー」ということ

「カバー」という言い方がある。特に音楽の、個々のうたや楽曲について言われるようになった印象ではある。元のうたや楽曲があって、それを元の歌い手やバンドとは別の人が歌ったり演奏したりする、そのことをさして言う言い方ではある、一応のところは。辞書…

「うた」と「うたう」の現在

「うた」というもの言いがある。 「歌」でも「唄」でもいいし、場合によっては「詠」や「謡」、「唱」なども、表記にせよニュアンス的にせよ、そのカバーする意味あいのうちに含まれてきたりする。不思議なことにそれらの一部はまた、「よむ」の方にもひっかか…

マツケンサンバ・考(コメント)

*1 マツケンサンバの人気については、まあ、いろいろ言われてますが、基本的には、パラパラやランバダなど、これまで近年、いくつか流行った「踊り」系身振りと若干異なり、その人気を支えているのがどうやら中高年層、ないしはもっと敷衍すれば「オトナ」で…

昭和文学会、コヨーテアグリー、Fast Car……

● ども。先週お伝えした昭和文学会での講演も、何とか無事にこなしてきました。 なにせ、このところ棚落ち著しい文科系のガクモンの、それも一番役立たずな近代ブンガクなんてもんの専門の学会ですから、会場にいらっしゃってたのもセンセイ方と元気なさげな…

ギターがくれた「自由」

● ギターが、「自由」だった。 「エレキ」と称された電気ギターではない。「フォークギター」とひとくくりにされたアコースティックの、そしておそらくはスチール弦のギター。60年代ならばPPMやジョーン・バエズ、ウディ・ガスリーやボブ・ディランの画像と共…

書評・中村とうよう『雑音だらけのラヴソング』(ミュージック・マガジン社)

雑音だらけのラヴソング (とうようズコレクション)作者:中村 とうようミュージックマガジンAmazon 音楽を語る、論ずる、という作法が衰退して久しい。 音楽だけじゃない。映画やマンガ、いやいや、見たり聞いたり読んだりしたら何か能書きを言いたくなる表現…

忘れられた「タフ (tough)」――浪曲と日本の近代

*1● 浪曲は忘れられた芸能です。 今日、日本人のほとんどは浪曲のことを知りません。若い世代はもちろん、大人でさえも浪曲のことを忘れています。浪曲のことを話して、あるなつかしさと共に応えてくれるのは、70代から上の老人たちばかりです。かつてはど…

書評・湯浅 学『人情山脈の逆襲』(BIプレス)

人情山脈の逆襲作者:湯浅 学ブルースインターアクションズAmazon ベースはひとまず音楽。ロックからブルースとR&Bへと黒くなり、同時にインディーズ系へも淫していった経緯が推測される。これにお笑いと芸能とプロスポーツ。さらにマンガや映画やアートや…

CD市場、退潮の気配

SWEET 19 BLUESアーティスト:安室奈美恵エイベックストラックスAmazon この不景気な時代にわが世の春を謳歌しているかに思われている音楽CDの売り上げだが、どうやらこれがひと頃に比べて落ち込み始めたという噂が飛び交うようになっている。 「アムラー」…

「アジア」の純真

先週文句を言った尖閣列島の問題の続き。その後、香港にある日本の通信社が抗議船に乗り込んで撮影していた映像がテレビ放映された。でかした。こういう足腰がないとニュースは面白くならねえ。 あの抗議団体ってのが実はほとんど何の準備もないままで、しか…

安室奈美恵というフォークロア

● 安室奈美恵のニューアルバム『SWEET19BLUES』のセールスは、五〇〇万枚を突破しそうな勢いという。五〇〇万枚。見当すらつかないが、ひとまず豪気な話だ。 だが、商品音楽の市場がこういうとんでもない広がりを獲得し始めたのは何も今始まった…

CD評・広沢虎造『広沢虎造浪曲全集――清水次郎長伝』(コロンビア COCF-13516〜23)

石松三十石船道中 本座村為五郎 荒神山の血煙り(一)(二) 荒神山の血煙り(三)(四) 大瀬の半五郎(一)(二) 大瀬の半五郎(三)(四) 大瀬の半五郎(五)(六) 大瀬の半五郎(七) 清水の三下奴(一) 清水の三下奴(二)(三)名人芸! 清水次郎長全集(二…

どこかの誰かと“デキる”力を宿せる場

*1 民俗学者という看板を出して世渡りしている以上、これはもう避けられないこととあきらめているが、こいつは絶対にこの「祭り」というやつに何かひとくさり能書きを言えるはずだ、という世間の視線に遭遇することが多い。これが実に困る。 専門的には「民…

野放しの「趣味」のたよりなさ――尾崎豊「一周忌」、その他

*1 ● 先日、尾崎豊の一周忌にあたってさまざまな催しがあったらしい。お定まりの追悼集会はもちろん、酩酊状態で素っ裸の彼が庭先で倒れた民家にまでファンが押しかけたというし、墓地は墓地で今や半ば名所化しているという。 ただ、自称ファン、あるいはそ…

「歴史」をほどく耳――解説・平岡正明『耳の快楽』

*1 平岡正明オン・エア 耳の快楽作者:平岡 正明メディア: 単行本 初対面は品川駅の構内、京急デパートの一角にある喫茶店だった。慶応の学園祭でのDJ形式の講演会の評を、仲間うちに向けた小さなニューズレターに書いた。それをどこからか手に入れた『サン…