朝日にも五分の魂

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 少し前、仲間うちでほとんど嘲笑の対象となったある新聞記事があった。

 朝日新聞である。論説委員のそれも署名記事だったと記憶する。アフリカはケニアに高級ロッジだかペンションだかをおったてて、子どもの頃の『少年ケニア』の夢を追い求める、という内容。そして、その賛同者としてユーミン景山民夫などいずれそれっぽい方面の連中が名前を連ねて紹介されていた。単なる報道記事ではなかった証拠に、末尾にはその企画をでっちあげた事務所だかなんだかの連絡先までがしゃあしゃあと書かれていた。

 なんなんだこれは、と思っていたら、とある業界事情通曰く、「ああ、それってマガジンハウスにいた某って編集者が代理店まがいに走り回ってカネ集めしてた話でしょ。」

 おいおいおい、いつから編集者はブローカーや馬喰まがいの仕事に平気で手を出せるようになったんだよ、と言うと「いやぁ、マガジンハウスにいた連中なんてほとんどそのノリだよ。みんな背後に代理店の連中が食い附いててさ、利権になってるらしいよ」とのこと。なるほどね、ホント、この業界(言葉本来の意味での、だぞ)も広いもんだわ。最近、KUSUKUSUとかいうちょこざいなバンドのツラとプロモーションヴィデオ(こいつらアフリカをナメとんのか!!!)を見て久々に血圧が急激に上がったものだが、その上がり方にも近いものがあったぜ。論説委員なんつ~たらどうせそれなりの品の良いオッサンなんだろうけど、いずれどこかのパーティーかなんかでタチの悪い業界ブローカーにちょろまかされた程度のことじゃなけりゃいいけどなぁ。

 だが、つい先日、アフリカ在の現地記者長谷川某氏の囲み記事がこの醜態を懸命に相対化していた。少年ケニアの夢もヘチマもあるか、現地の論理はどうせ日本の資本力しか見ていないんだぞ、という当たり前と言えば当たり前の内容ではあった。あったがしかし、現場に足つけたことばの片鱗というのはこれほど当たり前であるがゆえに貴重なのだ。

 この記事のことを電話で即座に教えくれたのはライター某氏だったが、同じ社のエラいさんの醜態をものともせずに現場の論理一発で渾身の囲み記事をキメた心意気には、すがすがしいものがあった。とりわけ、全く足腰きかなくなった大新聞の中でもその地盤沈下のひどい朝日だけに、その感動はひとしおだったぜ。

 ここのは気前よくほめるぞ。朝日新聞記者長谷川某氏よ、遠くニッポンの空よりさらなる健闘を祈る!

*1:『俄』054 「前線からの1,200字」欄掲載 「天野 梓」名義