井田真木子の大けが

 人間、向いていないことをいきなりやると大けがをします。文春の月刊女性誌『クレア』で始まった井田真木子さんの連載コラムが、まさにそういう大けが。一読者として診察する限り、このままだと出血多量で失血死しかねないような瀕死の重傷です。

 「みんなのお顔」という題で、有名人の顔つきからその人となりまでを洞察して論評するのですが、こういうハイパー印象批評とでも言うような今どきの雑誌コラムは、筆者の他人へのまなざしや感受性といった部分の容量が恐ろしいほどくっきり現われるもので、いくら作家でも何の準備も稽古もなくいきなり片手間に書けるようなものではありません。

 あたしだってこういうの書けるのよ、と言いたいのはわかります。しかし、才能というのは残酷なものです。同じ誌面のナンシー関町山広美といった面々の筆の冴えを前にしては、勉強もよくでき先生にもかわいがられる学級委員が、「あたしだって煙草ぐらい吸えるのよ」と体育倉庫裏にのこのこ現われたような媚びた見苦しさがありあり。こういうコラム系にあまり強くない『クレア』の誌面でこれですから、『SPA!』や『宝島』といった“本家体育倉庫裏雑誌”では読者からタコ殴りにされるでしょう。ノンフィクション作家として名のある賞を総なめにし、若手実力派と目されているお方と聞きますが、このように人の顔から内面を見抜くことのできない眼力のなさがバレてしまっては、取材が命のはずの本来のお仕事にもさしさわるのでは、と余計な心配までしてしまいます。それとも、ノンフィクション文壇の総元締めらしい文春のこと、多少のけがは覚悟の上で、今のうち芸域を広げさせて今後息長く使い回そうという深遠な親心なのでしょうか。

 最近もうひとり、よく似た大けがをされた方がいます。『サンデー毎日』の連載対談で西原理恵子にいいようにもて遊ばれ立ち往生した小宮悦子さん。ま、何にせよお大事に。

(羽)