『日経ネットナビ』編集長 桜井敏昭さん

 いやはや、猫も杓子もインターネットである。雑誌の世界でもインターネットの専門誌が続々創刊されているとか。中でも、小室哲哉を起用したCMで話題になっているのが『日経ネットナビ』。こちとらパソコン音痴にはどの雑誌も同じにしか見えないけれども、それなりに反響を呼んでいるのだという。今回はその編集長である桜井敏昭さんに話を聞きに行った。

――インターネットの専門誌というのは今、どれくらい出てるんですか。

桜井 うちも含めて確か八誌くらいじゃないですか。うちなんかもう先発じゃなくて後発の部類ですね。

――そういう中で後発の『日経ネットナビ』のウリというのはどのへんに?

桜井 やっぱりビギナー向けということですね。先進ユーザー向けのものはすでにあるけど、今年に入ってから急激に広がったビギナーユーザー層をメインにした雑誌はまだなかった。だから、創刊号でも「どうやってつなぐの」というところから特集を作ったんです。ただ、これもひとつの賭けですから将来またどう変わってゆくか、正直言ってわからないんですけどね。

――創刊号の実績はどれくらい?

桜井 実売で十一万くらいですか。インターネット人口がすでに百万だ二百万だと言われるけど、会社や学校からつないでるんじゃない自宅からつないでる人はせいぜい三十万くらいでしょうね。その三人にひとりが買ってくれたとしても十万前後。そういう環境の中では、おかげさまで結構順調だなとは思います。

――でも、インターネットは普通の人の役に立つようなメディアになりますかね。

桜井 なりますね。少なくとも英語が読めればこんないい情報源はないわけで、ホームページも一時は企業ばかりでしたけど、最近は個人のものでも使えるページが出てき始めてますし、どこに何があるのかという的確な情報を教えてあげれば、普通の人にも十分使えると思いますよ。

――とすると、インターネット雑誌というのは将来的には情報源についての情報がメインの雑誌になるわけですか。

桜井 本質的にはそうですね。どんな番組がどのあたりにあるのかを教える、言わばテレビガイド的なものになるんじゃないですか。ただ、今はテレビと違って使い方から教えなければならない段階ですから、アンテナの立て方からやってるということなんです。

――でも、今テレビは衛星放送だ何だとチャンネルばかり増えてソフトが欠乏してるい状況ですよね。インターネットもそうなる危険性はありませんか。

桜井 テレビはカネをかけすぎなことと、最大公約数的な番組しかできないという問題がありますよね。でも、世界中で数人しか興味を持たないことでも発信すればつながりができる、そこがインターネットの面白いところですね。テレビ番組を作ったり本を作ったりするコストよりはるかに安く、手軽に自前のメディアが作れるんですから。

――今は確かにそういうことが起きている。でも、みんな飽きませんかね。

桜井 飽きてもまた別に何か見つけるんじゃないですか。たとえば同人誌の詩集を売るのは渋谷の街角に立ってしか売れないかも知れないけど、世界中を相手に売れるわけですから読者と出会える可能性も広がりますよね。

――でも、なんでこんなくだらんものをカネ使って世界中に見せんならんねん、というのがあるんですが。

桜井 それはやりたい人がいる以上仕方のないことですよね。それと、大月さんの見たいものに対する欲求の度合いに比べて、現在インターネット上で供給されている商品がまだ見合っていないということでしょうね。

――紙と鉛筆で蓄積されてきた情報の検索すらうまくできなくなっている状況で、電子メディアの世界を検索してゆけるだろうかという根本的な疑問が僕にはあるんですよ。

桜井 それはインターネットの問題ではなくて使う側の人間の問題ですよ。カード破産が増えたからといってクレジットカードという制度がけしからんということにはなりませんよね。

――でも、そういう訓練というか慣れの過程での問題点を指摘することさえ、今はまだないですよね。

桜井 それはないですね。バイオの時なんかはまだあったけど、でもそれも開発をやめましょうではなくてどうやったら安全に導入できますかという前提での議論でしたからね。それに、すでにインターネットは一部の専門家の手を離れてしまってますから。

 三八歳。もとは『日経ビジネス』の副編集長。情報通信関係のメーカーの担当だった由。さらに前は『ニュートン』の編集部にいた。八〇年代の始めだ。「その時に富士通のオアシスが入ったんですが、一台三百万円くらいしてましたね。グリーンの画面で八インチフロッピでね。ワープロの特集号で画面を撮影するのはどうしたらいいか、とかいろいろ工夫しましたよ」

 聞けば早稲田の政経出身。政治関係のサークルで丸山真男を読んで議論をするような学生時代だったという。「老後はどうしたいですか?」という問いには「穏やかに暮らしたいですね」と苦笑した。その穏やかな老後にインターネットが役立つことを祈りたい。