O-157=カイワレ騒動のこと

 O-157をめぐる騒動でカイワレ大根がとばっちりを食っている。厚生省が「感染源がカイワレ大根である可能性は否定できない」と発表したことでものの見事に店頭から締め出され、売り上げは激減。実際にまだ感染源が特定されたわけでもないのにただ可能性があるというだけで悪者扱いしたものだからこんな大損害をこうむった、どうしてくれる、というわけで、カイワレ生産農家の組合は怒り心頭。その後の調査でもカイワレ自体に問題は認められないままで、ことと次第によっては厚生省に損害賠償を求めかねない状況になっている由。

  なにせ商売ものの死活問題だからカイワレ組合の抗議は激しかったようだ。それは気持ちとしては当然だと思うし、その限りで彼ら自身の身振りも、また報道の文法も「被害者」モードにならざるを得ない。そんなわけでこの一件、「はっきりしないのにカイワレの名前を出すなんて、やっぱり厚生省って不用意だよね」というニュアンスで世間に理解されていったように思う。

  ただ、どうなんだろう、こんなこと言うとまたヘソ曲がりと言われるだろうけど、カイワレ組合があれだけ強硬に「カイワレはシロだ」と抗弁していたにも関わらず、もしも調査の結果やっぱりO-157の感染源だったことが判明したとしたらその時は果たしてどんな対応をしたのか、僕はそのこともまた同じように気になってたりする。

  それこそ、今どきはやりの「情報公開」をやかましく主張するような立場からすれば、手持ちの調査データからはまだ感染源は特定できないけれども今の段階ではここらがあやしいかも知れませんよ、というとりあえずの見解を早めに発表したこの厚生省の態度はそんなに一方的に不用意とばかり言えないようにも思う。エイズ薬害の問題ではおよそ考えられない対応の不手際と往生際の悪さを見せて醜態をさらしたのに比べれば、進歩と言えば進歩。「カイワレ」という名前が出れば何もかもカイワレのせいにしてしまうのは、あっという間にカイワレを売らなくなった大手スーパーなども同じこと。役所であれ企業であれ、誰であれ判断を間違ったとなればその場で潔く非を認めてその後の対応を考えればいいだけの話だと思うけれども、ただ、メディアがらみの世間はそんな能書き通りに動いてはくれない。いったん語られる文法ができあがってしまえばその後の事態の変化にこの世間がどれだけ対応できないものかは、松本サリン事件の時の“冤罪”などでもすでに示されている。でも、だから名前を出すな、というのでは、それこそ「情報公開」をよしとする立場と矛盾してないんだろうか。「情報公開」を言うリスクは“官”にも“民”にも同等にかぶさってくるはずだ。