640万円のテディ・ベア落札

 ロンドン発共同電によれば、「世界中を最も多く旅行して回ったテディ・ベア」をある日本人が六四〇万円で落札したという。テディ・ベアというのは、要するに熊のぬいぐるみですな。まあ、どんなに重箱の隅をつつき倒すような分野にでもそれなりのコレクターなりマニアなりがいらっしゃってしまうような種類のかなり平等な「豊かさ」をわがニッポンは今や実現してしまっているわけで、すでに世界的にもコレクターの多いテディ・ベアなどはまさに格好のターゲット。さぞやオークションの場を盛り上げて値段をつりあげるためのいいカモにさせられたのでなければいいのだが、なんて心配はいらぬおせっかい。聞けば、買ったのはおもちゃ販売会社の社長で伊豆にテディ・ベア博物館を開いた人とか。すでにそれなりの鑑識眼を持った人ということなのでしょうな。

 何にせよ“もの”の値段というのは真呵不思議なものだ。テレビでも最近は『お宝探偵団』から『ハンマープライス』に至るまで、そういう“もの”の値段の不思議を売り物にした番組がいくつもある。なんでこんなものにこんな値段がつくんだろ、と半ばあきれながらもつい見入ってしまったりするから情けない。先日たまたま見ていた『ハンマープライス』では飯島直子の膝枕で耳かきしてもらう権利というのがあって、こりゃかなり心ときめいたのだが、結局落札価格はなんと八〇万円。でも、せり落とした人は実に幸せそうな顔して耳かきしてもらってたっけ。

 ともあれ、美術品にせよ骨董品にせよ、はたまたブランドものにせよ、とにかく日本人はゼニだけは持っているというので世界中から食い物にされているようなフシがある。馬の世界も同じで、先日来テレビや雑誌などでも盛んに報道された三十億円のタネ馬ラムタラなんて、はて、内国産の競走馬がまるで売れなくなっちまってるこのご時世に本当にそれだけの投資額を回収できるんだろうか、というのは日高の馬産地ですら首をかしげる人が少なくない。だって、三十億ってのはあなた、ひとチームまるごと清原で揃えられる額なんだもんねえ。

 “もの”の本当の値打ちがわからないからいいカモにされかねないこの情けなさを乗り越えるためには、今のカネをとことん授業料に注ぎ込んで眼をこやしてゆくしかない。だが、その境地にたどりつく前にカネが続かなくなる、その程度にそこそこ平等なのが今の日本の「豊かさ」だったりするから、やっぱり世界を向こうに回すだけのコレクターやマニアの類は日本には出にくいんだと思う。そう言えば、バブル全盛期にはそこらのOLまでが投資と称して絵を買いあさったりしたもんだけど、あの絵は今、どこでどうなってるんでしょうかね。