「郵政大臣官房総務課課長補佐」中村伊知哉さん 後編 

 「郵政大臣官房総務課課長補佐」中村伊知哉さんの後半戦であります。世間からうかがい知れない中央官庁の仕事について、話は佳境に入ります。

中村 私の机の上には、私の決裁を待ってる法律案やら稟議書やらの間にマッキントッシュコンパックがポコンと置いてあって、そいつらはかわいいんですよ。でも、一緒に酒呑もうや、とか、遊ぼうや、という感情生活のニーズは満たしてくれない。だから、まだまだ子供みたいなものですね。

――そういう感情生活の部分を機械に要求する感覚って、人間に対するのとまた違うもんなんですか。

中村 うーん、私の場合はあまり変わりませんね。それにコンピューターは親であるこっちを追い越してくれる可能性が高いでしょ。そういう期待は持ってますね。

――でも、逆にそれはヤバいという感覚はないですか。

中村 もちろんヤバいですね。でも、その制御きかんメディアと人類の相克の場に立ち会いたいという欲望が私にはあるんですね。

――それは個人として? それとも官僚として?

中村 (きっぱり)個人として。バーチャルがバーチャルを無限に生んでゆくとか、脳ミソをダウンロードしてネットワークに流してしまう、とか。そんな技術はひょっとしたら近い将来、突然出てくるかも知れませんからね。ひとりの人間としてそれを見てみたい。

――でも、今みたいな仕事をしてたら、その事態に何か対応しなければならない。喜んでる場合じゃないでしょう。

中村 そうですね。ひょっとしたらその時には国家の側でそいつらを締め付ける立場にいるのかも知れんし、もっと過激にイケイケ言うてんのかも知れません。けど、少なくともそういう時代まで生きていたいですね。まあ、引退してからの方がいいんかな(笑)。

――確かに、仕事としてその瞬間に立ち会わざるを得ない可能性は、同じ郵政省でも四十代から上の人たちよりはありそうですよね。でも、やっぱりまた同じことを聞いしまうんですけど、そういう話は省内で通じますか?

中村 (苦笑)いやあ、目先に処理すべき問題が一杯たまってるんでねえ。

――よく評論家なんか「役人は仕事をしていない」って言いますよね。ああいう“批判”はどう思います?

中村 時間的にも拘束されてるし、中央官庁の役人つかまえた場合には事実としては当たらないと思います。でも、中央官庁の役人が朝から晩までそういう風に仕事をしているのがいいことかどうか疑問ですね。郵政省の役人のくせにテレビも見る時間がない、とかね。

――監督官庁だもんなあ。先のTBSの事件などにはどのような感想を?

中村 そうですねえ……担当してたからそのへんは難しいですねえ。ただ、現状では日本ほどテレビの規制がゆるい国はないと思いますよ。たとえばフランスなんか地上波も衛星放送も国家機関が監督していて、おかしな番組があったら打切り勧告できるんです。

――へえ、やっぱりパン・オプティコン(一望監視装置)があるわけだ。そういう外国のメディア政策事情ってあまり知られていませんよね。

中村 そうですね。そういうのに比べると日本は、法律上はこういうことはせんといてくれというのはありますが、国は表立って介入するわけやない。放送会社が自分で自分をきっちり管理してくれ、とそれだけなんですよ。

――そういう政策傾向はコンピューターに関しても同じなんですか。

中村 コンピューターはテクノロジーの発達や普及の速度が爆発的で、制度の側がついていけてないのが現状ですから、まだいろんな意見がありますね。ただ、役所の方針とは別に個人的には、いかに自由や自在性を保つかが今のテーゼだと思ってます。もちろん、誰にとっても便利ということは悪者にとっても便利ということですから、ネットワーク全体の自由を保つために一部「コラッ」と言わんならんかも知らん。でも、それは一部であってテーゼ全体に相反するものではない。国によっては、シンガポールみたいにインターネットの検閲官がいて世界中のホームページ見まくって国境のところで入ってこないように止めてる国もあれば、ドイツみたいにネオナチという特有の問題を抱える国はそこのところは厳しくやろうとかいろいろですが、一般的にはこれからネットワークの自由が広がれば広がるほど、国の介入は避けて通れないと思います。

 どこか食い倒れ人形のような、はたまた田中康夫のような“造りもの”系。打てば響く回転の良さも、仕事に直接関わるビミョーなあたりになると、サーッとバリヤーが張られる。ま、当然ですな。個人としての想いと官僚としての責任感とをどう折り合わせてゆくか、これからが大変だろう。でもこの人、ある日突然役人なんかポンとやめてメディア関係のベンチャービジネスやらかしてても不思議はないと思う。うーん、こういう才能を活かし切れないままだとニッポンのお役所もほんとにアウトなんだけどなあ。