フェミニズム、ってのがありまして……


 かつて、フェミニズム、ってのがありました。

 ました、って過去形にしてるのは、もう実態としては「イズム」なんて代物じゃとうになくなっちまってるってことを前提にしてるんですが。

 ニッポンのフェミニズムってのは、基本的に「オヤジ」とセットで考えるべきものだ、ってのはあたしの年来の持論ですが、悲しいかな、フェミニズムにハマるオンナのシトの多くはそういう「オヤジ」を自分との関係で穏当に位置づけ、語る言葉も足場も持ってない、いや、持ってないどころかそういう立ち位置から初手から逃げちまった手合いがほとんどでありますからして、良くも悪くも「オヤジ」で支えられてきたこのニッポンの世間とは正しく関わることができないまま、なのでありました。

 「オヤジ」とは社会的ニンゲンのデフォルトであった、と。だからオンナのシトにとって、社会的な文脈で何かものを言う時に必然的にオヤジのもの言いしかなくて、そりゃもう構造的なストレスである、と。それはわかります。だもんで、オンナであること、を正当化できるもの言いに依拠しようとする、と。それもわかる。以前ならばどうやって「オヤジ」のふりをしてゆくか、が、オンナのシトが社会化してゆく時の道筋だったわけで、だから「働くオンナ」の成功例ってのはどこかオヤジに近くなってもきたし、オトコ以上にオヤジになってもきた。もちろん、さすがにそういうのはなんだかなあ、という感覚もあるわけで、そういう時にフェミニズムのもの言いってのは一番うまくハマるものだったわけです。

 けれども、ならばその次に、そういうオンナという立場を、それまでデフォルトであり続けてきたオヤジとの関係で現実のものにしてゆこうとする手立てがないといけないはずで、ならばそういう手立てとしては、たとえばそれまでの「良妻賢母」というかったるいひな型からでも何らかの知恵は引き出し得たはず。なのに、フェミに足とられた手合いはそういう間口の広さは考えの外、オヤジデフォルトの世間の中で生きてきたその他大ぜいのオンナたちの歴史や来歴から切れたところでしかおのれが生きられないように選択肢をどんどんせばめて自ら勝手に不幸になってきた、と。思えば難儀なハナシです。

 けれども、「イズム」として生き方にきっちりからんだ立場がない分、カタチだけのもの言いや身振りとしてのフェミニズム、ってやつは、逆に蔓延している。 

 たとえば、アナウンサーとか新聞記者といった商売に就いちまったオンナのシトたちに典型的ですな。それって言い換えれば、オヤジ的世界観の中で立身出世しちまった立ち位置にいるオンナのシトたち、ってことですが、でも、本来はオヤジがオヤジとして磐石でないところではこのカタチだけのフェミ――「フェミ風味」の身振りやもの言いも効きが悪くなるわけで、で、今やたいていの局面でそのオヤジの側がかつてのように根拠なく自信満々でもなくなってきてますから、フェミニズムのもの言いや身振りもカタチだけの単なるぶりっこ、ただのフェミ風味でしか存在し得ない、と。

 きちんとしたオヤジの存在しないところでのフェミ風味が、どれだけ傲慢でマヌケなものか。たとえば、お嬢サマ学校の女子高校あたりでのフェミってのを考えて下さいまし。それは全く実存とからんでいないからして、ものの見事にヴァーチャルでハイパーなものなわけで、そんなもの、かつてのお茶やお華の嫁入り修業アイテムよりも役立たずですが、しかし、このオヤジ腰砕けな世間にうっかり社会化させられちまったオンナとして「勝ち組」ダンナとつがいになって生きる時には、案外役立つモードだったりもする。メディアの舞台でそういうフェミ風味ばらまく手合いの背景洗ってみれば、かなりの割合でこういう「勝ち組」だったりしますから、こりゃもうカネ持ちの子弟ほど革命に走ったかつてと構造自体はあまり変わってない。いや、それどころか、いまどきのこういうフェミ風味の「勝ち組」はおのれの社会的立ち位置やその既得権益に全然無自覚ですからそれより悪い。こりゃやっぱり革命しかないな、と、あたしゃ改めて思うんでありますよ。

 田嶋陽子なんて醜悪な物件が国会議員になり、先日なんぞは国会を『TVタックル』扱い、支離滅裂な質問で場を荒らしたあげくに、逆ギレして「黙れ、塩爺」なんてタンカをきるご時世であります。ニュースキャスター系のオンナのシトたちも、何か口を開けば紋切り型のフェミ風味が漂うのがデフォルトのようで、それを何か「アタマいいこと」の証明みたいに考えてるバカもそこら中に転がってる。モデルや女優あがりで――ということはつまりオヤジの視線に対して身振りやもの言いをなめらかに制御することで食ってきた手合い、ってことですが、そういう手合いがこれまでの反動からか、にわかに社会や政治にものを言いたくなった時にも見事にこのビョーキにかかる。意識してるのかしてないのか、東ちずるなんて最近それが露骨ですし、あ、そうだ、関西生産じゃ遥洋子なんて珍物件もありましたねえ。あんな代物はお願いですから箱根の山からこっちに輸出しないでください、ほんとにもう。