高橋がなり 聞き書き

経済活動は利潤追求が第一義なのは紛れもない事実。

でも、ちょっと待ってほしいのだ。ただ目先の利益を

追求して金儲けさえできれば、それでいいの……!?

破天荒な企画と低価格販売でアダルトビデオ業界の常識を覆した男と

民衆文化を幅広く、独自のリアルな目線で描写し続ける男が

いまどきの”商い”について、あえて疑問を投げかける

繰り広げるのは、「損して得取れ」式商売術なのだ

  • ”いい人”がズルさを覚えることに価値

● 初めまして。正直言って高橋さんは、企画モノの妙なセルビデオを話題性だけで売ってる新興メーカーの社長、という色眼鏡で見られることが多いでしょう。でも、いまどきのこういう市場環境、情報環境での「商い」の手触りみたいなものって、実は高橋さんのような方がいちばんリアルに感じ取っているんじゃないかと思うんですよ。

高橋 う~ん、僕は単純に好きななだけなんです、商売が。みんながいちばん真剣に戦っているゲームだし、まずは参加したいなって。

● でも、参加してさらに儲かっちゃってますよね、実際?

高橋 ええ(笑)。僕は松下幸之助さんの影響をかなり受けていて、”商売人にとって儲けることは正義だ。儲かってない商いは罪だ”みたいな考え方が大好きなんです。やる以上は儲けなきゃなと。

● いまどき、松下幸之助の影響を受けて、と正面から言える人は貴重だなあ(笑)。実は、例の『マネーの虎*1で初めて高橋さんを見たとき、「ああ、この人はほんとにタニマチの顔してるなあ」って感動したんですよ。あたしは地方競馬の世界をずっと見てきていますが、最近、昔ながらのタニマチ気質は馬主の世界でさえもなくなりつつある。なのに、いまどきそんなタニマチ顔した高橋さんが何を考えて金儲けしてるのか、ものすごく興味があったんですよ。

高橋 いや、自分自身はすごく甘ちゃんで、凡人ですよ。ただ、それを自覚してるからこそ、あえてハングリーさを持とうとはしてます。商売って人を抱えますからね。お客さんや仲間を守るためには、自分がいい子になってちゃダメ。彼らを守るためにもダマされちゃいけないし、儲けなきゃいけない。

● ああ、ただ食われるのはイヤだ、と。

高橋 ウチの子たち、まじめで不器用な人間を意識して採用してるんですけど、「これまでは『いい人ね』と言われて生きてこれたかもしれないが、それじゃダメだ」と常に説教してる。オマエたちがズルくて厳しい人間になろうという姿勢を持ったとき、初めて「いい人」であることに価値が生まれるんだと。いいヤツがいくら悪いヤツのふりをしても、ベースはぜったいに変わらないから、これは付加価値なんです。

● 逆に悪いヤツがいい人のフリをしても、ベースが悪い、と。

高橋 そう。だからいいヤツを選ぼうとしてるんだけど、困ったことになかなか成長しない。悪いヤツほど、1年目から活躍する。

● 悪いヤツってのは目先の利害で動くからね。っていうか、それでしか動けない。大学でも山ほどいましたよ、そういうヤツ。

高橋 ただ5年、10年のスパンで見れば、僕の判断は正しいはずなんです。悪いヤツは、すぐに結果を出すかわり、すぐ裏切るから。

● それもよくわかるなあ。当座は損したりバカ見たりしても、歩留まり的には自分のやり方が間違ってないと。

高橋 そう思います。ダマしていったヤツより、結局、僕のほうが業績伸ばしてますからね。この会社が続いているかぎり、僕は不器用に生きているヤツが最後は絶対に勝つんだと言い切れる。



  • 目先の利益が優先し商売はつまらなくなる

● いいなあ。そういうのってもう言い古されてるもの言いで陳腐なんだけど、でも、高橋さんが言うと説得力ありますよねえ。すんなり大企業に就職して、大きな組織のなかでのうのうと生きているだけだと、おそらくそういう発想って育たないと思う。

高橋 それから僕、商売は大好きだけど、商売人は大っ嫌いなんで(笑)。たとえば本田宗一郎さんとか、最近ではユニクロファーストリテイリング)の柳井正さんとかは、僕からすると新しい文化を創造したクリエイターなんです。それから流通だと、ダイエーの中内(功)さんがそう。その他、新しいものを生み出そうともしないような数多の商売人は……。

● 単なるビジネスで勝つだけでは認められないってことですね。

高橋 ビジネス云々の前に、商人として許せない。商売人は士農工商のいちばん下。モノを作りだす人、買ってくれる人のために働くのが本分なのに、何でオマエがいちばん威張ってるんだよ、と。いつの間にか、商品を右から左に流しているだけの人間が力を持ってしまった。本末転倒なんです。

● 今の世の中はこずるく立ち回って人の上前をハネるほうが偉い、みたいな風潮ですからね。それに逆らうとせっかくのモノもうまく流通してゆかないし、ほんとの意味で世の中をよくしてゆくようにならない、そんな構図ですよね。

高橋 やっかいなのは、若い人がそういう連中のことをカッコいいと捉えている。見た目は派手かもしれないが、あれは本当の商売じゃない。シゲ●とかオリ●チなんてギロチンにかけるべきです(苦笑)。

● おお、異義なし! あんな手合いは革命の暁には人民裁判公開処刑で死刑にしちまいましょう(笑)。(編集部に)さっきの名前、伏せ字にしないできっちり起こせよな。どうせこれで休刊なんだし(編集部注――すいません、これが限界です……)思うに、その手の上前をハネる商売自体は昔からあるけど、でも、そういう連中は恥を知っていたし、どこか謙虚さがあった。いくら濡れ手に粟をやらかしても、「すいません、しょせん人のフンドシで稼がせてもらってます」みたいな感覚があったはずでしょ。なのに、いまは「オレが市場を変えてやったぜ」なんてツラして偉そうに表にしゃしゃり出てくる。あの臆面のなさがほんっとにイヤなんですよ。

高橋 松下さんが「金を儲けることは正しい」と言ったのは、その背景に、”ズルいことをしないと金は儲からない”といった風潮があったから。「イヤ、そうじゃないんです。皆さんに喜んでもらえる、まっとうな商いだってあるんですよ」と訴えたかったんです。

● ええ。商売人っていうのは、かつてはそういう前提を踏まえて商いをしていたじゃないですか。それがいまは、とにかく儲けりゃいいんだ、だけになってるようですね。

高橋 アダルトの世界は奇妙でね。僕はお客様の望むことをしているだけなのに、業界の人間は「高橋は悪党だ」みたいな言い方をする。そうじゃない、と。まずはお客様が喜ぶ作品ありきでアイディアを捻り、ウチは1本に500万円の制作費をかけている。そちらが50万円で、10年前と変わらないようなビデオを作るから、「AVはつまらない」とお客様が離れていってるのに。不器用にコツコツ作っていくのが真のクリエイターみたいな姿勢がいまだ強くて。

● ああ、まだそういう貧乏サブカルノリというか、誰もわかってもらえなくてもいいものを、って宗教が根を張ってるんですねえ。でも、そういう「量より質」の宗教はそもそもビジネスの持ってる健康さとは相容れないですよ。そこまでいくとお客のニーズは関知せず、売れるのは悪だ、になっちゃうし。質と量は必ず両立する、という前向きな確信こそが市場経済の健康さだと思うんですけどねえ。

高橋 そのあげく「弱者のオレらを潰そうとするのか」なんて言う。こうなったら、徹底して彼らが認めないことをやろうと。5本に1枚当たりが出て、1本タダで進呈するスピードくじをやったり。

● わはははは、そりゃ強烈だなあ。五十枚に一枚タダの全日空より十倍男前だ。

高橋 お客さんが喜ぶことと商売敵が嫌がることをやればいい。でも、みんなつい自分の都合を言い出したり、横並びでいようとする。

● だいたい、横並びの正札販売というもの自体、昭和初期くらいになってようやく普及し始めたんですよね。その前は、八百屋さんでも何でも、売り子というプロがいて、店の主人は仕入れたモノを「これだけ渡してくれれば、あとの儲けはオマエのものだよ」と任せた。で、「奥さんキュウリ3本ね。あとトマト3個買ってくれたら、おまけにこれも付けちゃう」なんておのれの器量でさばいて、それが稼業になっていたわけですよ。そこに、どこで買おうと100円のモノは100円という均質な正札販売が浸透して、現在の小売り業がある、と。もちろん、これって露店のテキヤさんの感覚に近くて、組織的なビジネス展開とどこかで絶対齟齬をきたすし、また、その間には百貨店の普及とか卸売りの近代化とか、流通業自体の構造的な変化が大きいんですけど、でも、一番ミニマムなところで、等身大の商売としてどっちがおもしろいかってところで考えると、おのれの器量で儲ける、という感覚を手離さなかった昔の方だったんじゃないかなあ、と思います。

高橋 映像ビジネスなんて、いまもそういう一面ありますよ。どれくらい制作費をかけて、本数と売価でどうやって帳尻あわせればいいかさえ読めれば、誰でも商売ができる。ただ、みんなリスクを背負いたがらない。僕は凡人であることを自覚してるから、たいてい間違った発想をすると。凡人は私欲にも走りやすい。なら、自分がイヤだなと思うことをやれば、お客さんは支持してくれる。みんな目先の利益しか見てないから、商売がつまらなくなるんです。

● ああ、テキヤさんの感覚が悪い方に出ると、つまりそういうボッタクリの発想になってくるんですよね。どうせこの客には2度と会わないんだから、今ここで儲けられたら騙そうが何しようがいいや、ってことになる。高橋さんが戦ってる映像ビジネス業界の守旧派抵抗勢力の側は、未だにそういう感覚なんですね。

高橋 でも、そういう連中のほうが欲深いから努力もする。ヤツらが10努力するなら、オレたちは20努力しなきゃダメだな、と一方では自戒してるんですよ。



  • 己を負け犬と認めよ、さすれば道は開ける

● お話をうかがっていると、高橋さんの「商売」感覚って、半径50メートルくらいのなかにいる数十人の範囲での具体的な手ざわりの確かさから離れないようにしながら世界を見ていく――そんな印象ですよね。でも、「商売」って本来はそういう身の丈のリアリティを構築することから、まず始まっていくんだと思うんですよ。

高橋 要は、客を喜ばせることだけ考えていればいいんです。僕ね、前からウチの子に言ってるんだけど、ある作品の儲けが100万円になったとして、これは「また、いいものを作ってくれ」とお客様が預けてくれたものなんだよって。それでもっといいものを作れば、200万円、さらに面白いものを作ると400万円……という具合に、売れたというのはお客様のお金をお預かりしてるだけなんだ。だから、それは作品に還元する義務がある。守りに入ったり、欲を出したりして、自分たちのために使うなんて言語道断なんだと。我ながらいいこと言ったを思ってて、この前、松下さんの本を読み返したら、同じようなこと書いてあった(笑)。

● っていうか、高橋さんの話って、もしかしたら江戸時代の近江商人の家訓、商売訓なんかにすでに書かれてるようなことだったりする気がする(笑)。それくらい当たり前の、変わらない「商売」感覚なのかも知れないなあ。実はあたしゃビット系の連中ってのが大嫌いなんですけど、ああいう顔つきの連中はどうもその辺のことがわかってないような気がするんですよ。IT系のネットビジネスって、そういう「商売」本来の皮膚感覚をきちんと持ちながら商売してる気がしない。確かに今、彼らは時流に乗ってはいるんだろうけど、ああいうビジネスの仕方こそ正しいんだ、カッコいいんだ、なんて風潮は、絶対に認めたくないですねえ。おめえら早く滅びちまえ、っていつも呪ってます(笑)。

高橋 僕はけっこう楽観してますよ。ウチの若い子たち、「信用していいんですかねぇ」とか言うし。

● ああ、そりゃ健康ですね。ダテに「いい子」を意識的に揃えてない(笑)。

高橋 だけど、まだまだ僕の求めるレベルには達してない。ただの「いい人」から脱却できてないのが多い。それって、僕から言わせればまだ「負け犬」なんです。他人の嫌がる意見を言えない、限界を超えようともせず諦める、「頑張ったから認めてください」とか言うヤツは、みんな負け犬。自分が頭を垂れてしっぽを丸めていることに気づいてない。だから、僕は「失敗してもいいから、負けてもいいから、言い訳しないでやれ!」って、何でもやらせる。

● 実際、いまはたまたま勝ち組にいるけど、ホントは負け組って輩も多いでしょうね。

高橋 世の中には、上には上が絶対いるんですよ。それを自覚すること。それで謙虚にならないと。その上で、間違っていることには、きちんと「間違っている」といえるかどうかは大事だと思う。

● 分を知る、ってことですね。でも、分を知るためにはまわりといい関係を築けないといけない。それがないとただの思い込みだけになりますからね。でも、それさえあれば、自らの価値観を信じて会社を辞めちゃう、なんて無茶も立派に肥やしになる。

高橋 そう。損なことのように見えるけど、自分を信じて成した行動は、長い目でみると絶対いい結果につながる。もちろん、自分を負け犬と認めて、相応の努力をすることは不可欠だけど。

● あたしも38歳で大学の助教授職を放り出して、まわりからさんざんアホか、馬鹿か、と(笑)。まあ、バカは重々自覚してますが、でもね、裸で飛び出してみても、実はそんなに大したことって起こらないんですよ。苦労っていってもたかだかこんなもんかよ、みたいな感じですかね。ビジネスもきっと一緒なんじゃないかなあ。失敗するとか、頓挫することを必要以上に恐れて、そのくせ根拠のない、思い込みだけのプライドだけは捨てられないから及び腰になる。そんな奴が勝ち組になるような世の中はこの際、ひっくり返っちまえばいいと、これはマジ思ってます。

高橋 結局のところ、常識を疑えってことだと思う。いわゆるビジネス社会での常識って、支配階級にいるダメなヤツが三角形を崩さんがために、都合よく作り上げたものでしかないですからね。

*1:毎週土曜深夜、日本テレビで放送の番組。時代をリードする成功者(=マネーの虎。社長ばかり)たちを前に、夢や野望を持つ者が希望金額を提示。厳しいプレゼンでのやり取りを経て、投資に見合うとされた者がマネーの虎から出資を受ける。高橋氏も出演