『SIGHT』の濃いダシ

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 雑誌界隈で今、書評に限らず活字関係のページを奮発してるのは、さて、どこだと思います?

 『ダヴィンチ』なんて万年提灯持ちがお約束の広告系ベタベタの外道は別ですぜ。そうするってえと、案外これが『SIGHT』だったりするんじゃないかいな、と。

 『ROCKIN’ ON』増刊扱いの季刊誌で、かの渋谷陽一編集長肝入り、新しい総合雑誌をめざす気鋭のメディア、てなところで、いまどきこんなコンセプトの雑誌を出せるのも儲かっているからこそ。それはそれで善哉ですが、アタマからブルガリだのプラダだのの広告をバンバン入れておきながら、構造改革ネタに例のテロ事件特集、ボブ・ディランやたけしのインタヴュー、さらにはいまどき何を考えてるのかホイチョイを起用してのグルメものや外国誌発のハイソなクルマ記事までごっちゃに盛り込む始末で、雑誌としてはほとんどもう何が何やら。サブカル出自のクオリティマガジン『ローリングストーン』を日本で、てな心意気だったんでしょうが、フタを開けたら『03』と『マルコポーロ』と『NAVI』の消化不良なバッタもんに、というお粗末。季刊でも大苦戦と聞きます。

 でも、大文字の「文化」ってもの言いに未だ忠誠心があるのが、渋谷御大みたいな団塊サブカルオヤジのかわいいところで、だからこそ活字関係の特集を組んだりする。この冬号でも「BOOK OF THE YEAR 2001」なんてやって、エンタメから文芸・評論、ビジネス・科学にコミックの四ジャンルで対談・座談会形式のレヴューをやらかしてるのは、文芸誌でさえもそんなベタな真似ができなくなってる昨今、結構男前だと思います。メンツは、順に北上次郎×大森望重松清×斎藤美奈子稲葉振一郎×山形浩生、村上和彦×荷宮和子。ふむ、カビの生えた大御所でもなし、といって場もわきまえずにところ構わず暴れる劇物でもなし、ビジュアル先行でオシャレな誌面づくりの線を守りつつなおかつ硬派な「文化」っぽく仕立てるには、まあ、このへんがギリギリなんでしょうな。

 文芸・評論のところでは、不肖あたしがタマ除け(監修)になってこさえた『腐っても文学?!』もまな板にあげられてるんですが、それはそれとして、何かと話題の(笑)田口ランディに懸命に話を振ろうとする編集部に対して、重松はさすが苦労人、ここはお仕事ってことなんでしょう、ひとまず無難に対応してるのにあなた、一方の美奈子ときたらまるでそっけなくて、「表題からして、もろに電波」(『アンテナ』のことね)、これだもん。手を入れた対談形式でさえこれだから、現場じゃ果たしてどんな会話になってたのやら。そんな深読みもさせる周回遅れのおハイソ「文化」雑誌、いいダシが出始めてるようです。

*1:本の雑誌』「書評スイカ割り」連載原稿