ネット書店のヘン

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 本の売り方、というのは昨今、ほんとに多様化しとります。街の書店以外でも、インターネットでのネット書店というのがすでに複数あって、まあ、そこそこやってゆけそうなのも、勘違いして見事に沈没するのも、いろいろ出ております。

 ところがこれ、同じ「書店」と言ってもネットのそれはどうも様子が違うところもあるようで、そのへんの違いは、こういうネット書店を考えなしに持ち上げて商売するITバカ(まだいやがるんですが、こいつら)や、それを鵜呑みにする新聞の学芸・文化欄方面などには、ほとんどまだよくわかってないらしいです。

 たとえば、昨今じゃ本単体そのものの値打ちで売れ行きが決まる、というものでもなくなって久しくて、中でもテレビとのタイアップというのは売れ筋の基本。ほら、「タレント本」てなコーナーが街の書店でもやたら増殖してますよね。なんかもう、テレビ番組のパンフかみやげもんみたいな感覚で本が売り買いされる、と。で、そういうトホホな傾向ってのが、このネット書店のバヤイ、街の書店よりもっと思いっきり極端に出るらしいのであります。

 というのも最近、某大手ネット書店の週間ベストセラーランキング眺めていたら、なんとあなた、ベスト10の上位に7冊も! 同じ著者の本が入ってました。日木流奈ってシトなんすけどね。どうも先月の28日にNHKでこのシトのことが放送されたとかで、その影響がモロに出たらしいんですが、その番組ってのは思いっきり「やらせ」疑惑が炸裂しているシロモノ。だって、その著者って実はコドモでしかも生まれつき脳に障害があるとかで、なのにおっかさんの手を介して文字盤で詩を書いたりするのがスゴい、こりゃ「奇跡の詩人」だ、ってことになってるらしいんですが、映像にしちまったらあやしいことこの上なくて、このテのネタには特に敏感なネットでまっさきにその「やらせ」疑惑がブレイクした、と。それがまた本の宣伝になっちまって、一気に7冊もベストテン入り、てなことになったようであります。

 こうなったらもう、本の「評価」もヘチマもないわけで、悪評も評判のうち、顰蹙はゼニ出しても買え、てな外道な版元までが大きなツラをし始めます。本をこさえて売る、という商売も、まるで夜店のニセブランド品ぼったくり並み、「文化産業」としての誇りも何もあったもんじゃない。宗教でもカルトでも、とにかく十万部出たらベストセラー、売れりゃ官軍、正義は我にあり、てなツラする志なき版元にばかりのさばられると、あたしゃどうにもやりきれないのでありますよ。第一、パチもんぼったくりの稼業にだって、夜店にゃ夜店の仁義、商売上のプライド、ってのも、かつてはきちんとあったんですがねえ。

                      

*1:本の雑誌』連載、掲載原稿