メディアへの不信感

*1
 マスメディアってシロモノに対する不信感は、このところもうデフォルトになっているようであります。だって、あいつらロクなこと伝えやがんないんだもん、ってわけで、新聞であれテレビであれ、そこに書かれ、映し出される“もの”や“こと”は、もうそれだけで距離を置いて接するが吉、という気分が当たり前になっている。情報化社会を健康に生きてゆく智恵という意味でも、それはそれでまあ、結構なことではあります。

 こういうメディアに対する批判力(メディアリテラシー、ってか)の醸成には、ネットの普及が結構大きな力になっているようです。たとえば、ネット出自で「これってなんぼなんでもヘンでないの?」という素朴な疑問から発して、勢いでその疑問を一冊の本にまでまとめたのが『異議あり!「奇跡の詩人」』(同時代社)。これ、前にも少し触れた、四月末にNHKで放映されたNHKスペシャル『奇跡の詩人』という番組について、おいおい、インチキじゃねえのかよ、という声があちこちからあがってきたのがきっかけ。かつてオウム真理教と真っ向から戦い続けた、滝本「あたしだって空中浮遊」太郎弁護士が『週刊文春』の石井謙一郎記者と共にひとまず表看板、編著になっていますが、実際にはネットを介して集まった「名無しさん」たちが寄ってたかって協力してできたもの。企画立案から二カ月足らずでまとめた豪腕の背景には、ネットの存在が重要な役割を果たしていたようです。

異議あり!「奇跡の詩人」

異議あり!「奇跡の詩人」

 ネットネットとひとくくりに言うけれども、パソコンの普及が進んだこと以上に、ここ一年半ほどの間にADSL等の常時接続環境が整ったことで、これまでよりもずっとフツーのシトたちが関わるようになってきています。特に主婦も含めたオンナのシトね。そのせいもあって、以前なら単なるネットの中でのネタとして笑ったりいじったりしておしまい、だったこういう表のマスメディアに対するツッコミも、ある種マジメに世間に投げ返す回路を作り出すようになってきているところが、良くも悪くもあるようです。だって、少なくともこの出版不況のご時世に、テレビ番組に対する批判・検証一発で本をこさえて、またそこそこ売れるくらいにまでもってゆくんだもん。大したもんです。

 同じように、ネット出自でずっと取り沙汰されてきていたものが、とうとう表の「事件」になったのが、かの田口ランディの「盗作」の一件でありました。こちらもこの春頃に二件連続で報道された後、音沙汰ないように見えますが、いやいやなんのなんの、やはりこの手の批判・検証本が水面下で着々と企画されているようです。人の噂の七十五日、口ぬぐってシカトしてりゃほとぼりが……なんてずるい了見は、いまどきもう通用しなくなってきているようですな。 

*1:本の雑誌』連載、掲載原稿。