Oさん 家畜商

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 なんだかんだ言っても馬の世界じゃ殺しってまずないんだよね。扱う額は不動産と変わらないような単位なんだけど、夜逃げしたとか監禁されたとかって聞いても、殺されたって話は聞いたことない。また殺したらカネ戻ってこないしね。

 昔の道営競馬はノミがすごかったんですよね。旭川のファンは帯広で競馬やってる時はノミで買うしかない。で、開催終盤には太く買う。

 オーストラリアで見たら、ビール飲みながらワイワイ言って五百円とか千円賭けるのが競馬だったんですよ。そういうのがいいと言ったら、馬鹿野郎、と言われました。いかに賭ける金額をおさえるのが競馬だ、と叱られたんだよ。競馬なんかできればやんない方がいいんだ、余ったカネをハコモノのカネにつくったりしてたんだよ。

 主催者が土建業とか政治家と結託して立派なハコモノ作ったり競馬場作ったりしてカネバラまいて、それでもまだ余るから出張旅費水増ししたり、全てそうやってた。

 そのうちそれが払えなくなって、年間五億くらいの賃貸料も支払えなくなった。それからずっと赤字に転落するんだけど、その赤字になる手前にぼくはもう辞めたんだけどね。厩務員会作ろうとして頑張ったんだけど話になんなかったんだ。

 中津に行ったのは道営辞めてからね。それからいい仕事がなかったのと、やっぱり馬離れができなかったんでビッグレッドの岡田さんが四年後に今のマイネルをつくるんで、その時手伝ってくれって言われて、それまで時間つぶしてくれって言われて、中津行ったり大井行ったりしてたんだ。大井は渥美厩舎だったよ。最高の頃だった。中津は杉本さんのところ。自分で持ってった馬で競馬して、それが中津で上までかけあがったらチクられて、あいつは厩務員なのに馬持ってる、ってチクられた。ああいう競馬もたのしかったよ。

 道営競馬まだ新聞もないしテレビもない頃だけど、結構オヤジたちに熱心なファンがいたんですよ。今はばんえいに少しそういうのがいるけど、今は情報になってるのは中央の競馬ばっかりでしょるそういうの見てたら道営の泥臭い乗り方とか見なくなるんですよ。おもしろくない、って。だからどんなに悪あがきしても時世だから、魅力のないところはどんどんつぶれてる。日本だけじゃない世界的にそうですよ。だからホッカイドウだけじゃなくて大井だってこんなことやってたらつぶれると思うんだけど。

 それにしてもいい加減なところだったねえ(笑)仕事の途中で朝メシの時間になるんですけど、みんなで食べてまた仕事する。のんびりしてるんよ。それに出てこないやつもいるわけ、今日は稲刈りで忙しいから、とか言って。そいつの馬は厩に入れっぱなしで夕方ちょこちょこ寝藁あげたりとか。80年になってからかなあ。寝藁から草から全部自分の家から持ってくるんですよ。道営なんかでエビでどうもならんやつ持ってきて、一年か一年半くらいその牛小屋かなんかに投げといてそれで競馬場持ってきて使う。賞金がその前二年間の加算だから一番下から使えるんだよ。道営のオープンだったのが下から走るんだからそりゃ強いよ。ほんとは半分八百長みたいなのが走ってた。みんな馬券買ってるしね。装鞍所で絶対運動しない。馬をくくりつけてみんなで馬券の相談してたもんね。食えないから馬券やってるんじゃなくて、好きなんだよね。馬券じゃ儲かるわけないんだもん。朝になったら馬主で自転車で情報集めてまわるんですよ。またその手下で働く若いやつなんかもいる。いちばんおもしろかったし、楽しかったね。

 でもやっぱり地方競馬はそれに継ぐのは難しいと思うんだけど、やっぱりいろいろ不条理なのは、お上の競馬というのが一番問題だと思うんですよ。主催者にプロが出てこない。その岩手ですら今、えらいことになってる。八十億もスタンドに使って不自然でしょ。

 アメリカなんか国籍すらいい加減なメキシカンとかチカノの厩務員もいるしね。飼料も天下りだったりするでしょ。そういうのでどんどん高くなってる。それと輸送も利権でしょ。欧米じゃ自分ちの馬運車で運べるのに公正競馬って言いながら規制規制でみんな参加できないようにしてる。馬主資格だって年収二千万で資産が一億とかってハードル設けてるでしょ。日本だけですよ、こんなの。

 調教師が馬集めたらマージンもらえるし、セリで落としてもマージンくれるわけ、日本は商行為が禁じられてるんだけど現にそれやってない人はまずいないんだから。いらんと言っても生産者はアンコ詰めてくれるんだから。

 地方も中央もひとつになって民営化、これが理想だと思うんだけどね。

 調教師が牧場持ったっていいし、誰が馬主になってもいいんだよね。公務員みたいに思ってるから窮屈になってる。

 道営に入れたとたん貧乏神みたいなもんで、生産者は損なんだから。確かに付加価値はついて転売できるかも知れんけどそれは氷山の一角で、そういう悪い夢を道営が与えているわけだよ。それを行ったら勝巳さんは顔くもっちゃって、そんなこと行ったらいかん、そんなことになったらうちの種馬は商売にならなくなるって言われたんだけど、九割が借金地獄で必要頭数は五千頭だと思うよ。悪い夢見させてるのが道営なんだからさ。

 それでも余るんだから過剰生産だから当たり前でしょ。もっといいものを海外から求めるならばもっと少なくともいいと思うよ。日本は社台グループもいいこと言ってるようで、実は自分のところの商売が第一で。社台の種付け頭数が三千頭って言われてますが、生産頭数の半分じやないですか、それ。

 関税の三百五十万(という制度)だって未だに残ってるわけでしょ。ふざけてるよね。関税でいい馬が一頭買えますよ。


*1:画像は原稿内容と特に関係ありません、為念。