ライブドアでもいいから、この際、やらせてみろっての

 プロ野球新規参入で春以来、話題をまいたライブドアが、今度は地方競馬への参入を表明しています。舞台は群馬県高崎競馬。この九月に小寺県知事が今年度いっぱいの「廃止」を表明した直後に参入を表明。これは年明けから施行される改正競馬法(第一次)を想定してのことで、その眼のつけどころと動きのすばやさには競馬サークルのみならず、経済界などからもうなる声が出ています。

  この競馬法改正は、郵政民営化道路公団の問題などと同じく、一連の「構造改革」の流れにあるものです。ただし、郵政その他と違い、報道でもあまり取り上げられてこなかったのも事実で、一般の人はもちろん、当の競馬関係者でさえも、果たして何がどう変わったのかについて正確に知らなかったりします。

  改正の最大のポイントは「規制緩和」です。これによって、「私人」への馬券の販売委託や競馬運営に関わる事務作業を委託できるようになりました。ライブドアの参入もそこを狙ってのことですが、これはもっとはっきり言えば、「お役所競馬ではもう限界」ということでもあります。

  実際、ライブドアに対しては、高崎だけでなく、岩手県競馬組合からも馬券の販売委託について打診があった旨、報道されていますし、また、このところ存廃論議相次ぐその他の地方競馬からも水面下ですでに複数、接触があるようです。ライブドア自身、「全国を視野に入れている」「地方競馬はいまが底値」と明言しているように、単に高崎競馬だけでなく、「廃止」のドミノ倒しが始まりつつある地方競馬全体に対する新たな戦略が想定されているらしい。「野球は仮に参入できても赤字覚悟だったが、競馬は違う。民間が手伝えば少なくとも赤字になるわけがない」と、自信満々です。

  なのに、「規制緩和」の趣旨の下、「民間活力導入」で法改正に一歩踏み出したはずの当の農水省が、このライブドア参入に対しては、表面上平静を装いながら、裏では不快感をあらわにしています。改正競馬法によって「私人」が競馬に関与できるようになったのは事実だけれども、その「私人」の中味を法令によって細かく規定して縛りをかけようとしていた矢先に、ライブドアのような「想定外の事態」(農水省)の民間企業が手をあげたことで、自分たちの思惑に沿った「民営化」に横やりがはいった、気に入らねえ、ということのようです。

  一見普通の会社、しかし実体は元官僚の天下り天国、といった「なんちゃって民間企業」の参入だけを容易にするようなお手盛りの「規制緩和」は、何も競馬界に限ったことでなく、わがニッポンの官僚支配の構造的手癖なのは周知のとおりです。いい時は儲けを吸い上げるばかりで、赤字経営に転落するとその責任を自分たちは全くとらず、ひたすら現場の厩舎関係者と馬たちにだけ“痛み”を押しつけて平然としている地方競馬主催者も、多くはそんな農水省の「大本営発表」に追随。実際、渦中の群馬県などは担当者以下、参入報道が出て以来、右往左往しています。

  「お役所競馬ではもうダメ」というのは、大方の競馬ファンもうなずくところでしょう。廃止相次ぐ地方競馬どころか、バブル期には年間四兆円近くを売り上げ、我が世の春を謳歌してきたJRAでさえも、いまや売り上げ低下が続いて今年度の三億円割れは確実、一部では近い将来、二兆五千億まで落ち込むことを覚悟している、とまで言われています。その構造を変えてゆくための新競馬法であり、その趣旨に沿った新たな民間参入。10日に予定されている小寺群馬県知事とライブドア堀江社長との会談は、高崎競馬だけでなく、JRAや馬産地まで含めたニッポン競馬全体の将来を左右する重大なできごとになるはずです。