勝手に生きろ、という希望

 競馬法がこの一月一日づけで改正されたことは、すでにご存じの向きも多いでしょう。。

けれども、この競馬法のどこがどのように改正されたのか、具体的に理解している人は、競馬関係者でも実はそれほど多くないのではないでしょうか。

 「しょせん大した改正じゃない」「瀕死の地方競馬にとっては“使えない”ものだ」といったネガティヴな声が、各競馬場の主催者から去年の夏頃からお約束のように聞こえてきていましたし、また、それら「お上の声」を現場の厩舎関係者は鵜呑みにするしかないという、わが競馬サークルにおける情報流通自体の構造的な問題もありました。何より、新聞や雑誌など競馬に関わるメディア自体、果たして今、何が起ころうとしているのか、自分の足と眼で確かめようという姿勢に乏しい。同時に、当の競馬議連なり農水省なり、競馬法改正を進めているはずの界隈からの情報発信が信じられないほど少なかった。ともあれ、それらが相互に複合して、結果として「法律なんか変えたって役に立たない」「あいつら地方競馬はほったらかしとけば勝手につぶれると思ってる」といった捨て鉢な気分が現場を中心に蔓延し、ドミノ倒しが加速される、という悪循環に陥ってきました。

 昨年秋以来、高崎や高知などを舞台に物議を醸したあのライブドアの「地方競馬参入」の一件にしても、こういう競馬サークル固有の“気分”が前提にあったところに、閉じた上意下達の「情報操作」システムを使って自分たちの都合のいいように改正競馬法をコントロールしようとしていた農水省以下「お上」の鼻先で、“異物”であるライブドアが例によっての“奇襲”をかけたことによる右往左往、というところがあります。このあたりのニッポン社会の既得権益とからんだ「構造」のゆらぎ方は、最近さらに大きな騒ぎになっているフジ・サンケイグループに対する「買収」沙汰においても、ことの本質として同じですが、それはともかく。



 そんな中、今週3月7日発売の『競馬ブック』に、競馬議連の中心的人物と目されている鈴木政二参院議員の、「地方競馬再構築への緊急提言」と題されたインタビューが掲載されました。もっとも、これは競馬議連全体の意向ではなく、あくまでも鈴木議員個人の私案だ、という断り書きがついてはいますが、にしても、これまで競馬法改正をすすめている勢力と目されていながら、ならばニッポン競馬全体をどのように変えてゆくのか、その具体的なプランをまとまった形で表に出してこなかった競馬議連サイドからの、初の意思表明だと言っていいでしょう。

 限られた誌面で、それも編集部側の手でまとめられたものですから大枠でしかないですが、ざっと見る限り、大きなポイントがふたつ、あげられています。

1.ニッポン競馬の組織を、中央1つ、地方2つ(南関東とそれ以外)の計3系統に整理・統合する。

2.人も馬も、競馬場間での交流は原則自由にする。

要するにこれは、中央と地方の「一国二制度」をどう乗り越えるか、という問題です。

理想としては一本化であることは議連側も認識しているようですが、しかし、それはこれまでの歴史的経緯などから一気に進めるのは難しい。とすれば、ひとまずこういう形にしようじゃないか、ということのようです。これまでも、やれブロック化だ、主催者間協力だ、とさまざまな提案がされてきたけれども、現実には何も動いてこなかったことに鑑み、ここはまず馬券の発売方式の違いに則して整理・統合してみよう、SPAT-4を擁する南関東は売り上げ規模などから現状を尊重して維持、それ以外の地方競馬についてはとりあえずD-Netを活用できないか、ということのようです。NRSのD-Netの使いにくさはすでにファンはもちろん、主催者筋でも「定評」があるところで、南関東のSPAT-4にシェアを奪われている現状では、相当抜本的に手を入れないと苦しいでしょうが、まあ、プランとしてはわからないではない。

 南関東四場以外の具体的な競馬場としては、北海道(門別)、岩手(盛岡・水沢)、名古屋、園田、九州(佐賀・荒尾)、という五地区七場の名前があげられています。ええっ、じゃあそれ以外はつぶす気かよ、という声があがりそうですが、さて、どうなんでしょう。記事ではこんなことも言っています。

「現時点で笠松、金沢、福山、高知の各競馬場については、この案に組み込んでいませんが、それはシステム統合の技術面で問題があったり、主催者が単独での施行に意欲的だったりといったさまざまな理由があります。しかし(…)、システム構築時でのタイミング次第、あるいは構築後のブロックへの参加は十分にあり得ると思います」

 あたし的には、これは「おまえら、生き残りたければとりあえず勝手に生きろ」、と前向きに翻訳しました。どっちにしてもさらなる競馬法改正にはまだ時間がかかる。来年春には特殊法人改革も迫っていて、地全協はもちろん、JRAも人ごとではない。ならば、向こう二、三年の間、とにかく死に物狂いで生き残ろうとしてみろ、大枠の整理・統合はその間、進めるから、生き残ってたらその時にどうするか、改めて考える――そんな感じでしょうか。

一年間の「執行猶予」を獲得した笠松競馬では、高崎その他、廃止になって行き先のない調教師や騎手を積極的に受け入れる方向で動き始めています。競馬で食う、やる気のある人材をできる限り集めて、一緒に競馬を盛り上げよう――現場にこういう気概が宿る限り、「勝手に生きろ」もまた、実は明るい響きに聞こえるはずです。