アラブ競馬最後の聖地、福山競馬場がちょっぴり勝負に出た。
ちょうど十年前、JRAがアラブ番組を廃止して以降、大井以下の南関東四場、岩手、東海と地方競馬もさみだれ式にアラブをやめてゆき、かつては「アラブのメッカ」とまで呼ばれ、強豪を輩出した兵庫でもサラを導入、とうとう昨年度からはアラブ番組自体が姿を消した。いまやサラブレッドと別立ての番組でアラブ競馬をまだやっているのは福山の他は、高知と荒尾くらい。その他の競馬場にもまだいくらかアラブは残っているが、現役を続けたければ不利を承知でサラブレッドと同じレースを走るしかない。
そんな中、前市長が「アラブ馬の生産が続く限りアラブ競馬の灯は消さない」と議会で表明、今もなお全馬アラブで競馬を続ける福山競馬は、ほとんどドンキホーテ扱い、競馬ジャーナリズムでも、まずまともに取り上げられない。馬はもちろん、騎手にしたところで乗り馬がアラブしかいないのだから、他の競馬場に遠征する機会もほとんどない。
そんな競馬場がサラブレッドを招待した。中央から? いやいやとんでもない、高知からだ。そう、ハルウララの高知、あの日本一安い賞金で頑張っているあの高知競馬である。もう交流すらままならないうちのアラブをひとつおたくのサラブレッドと腕試しさせてやってもらえませんか、と、高知や荒尾、佐賀に声をかけた。とりあえず高知が快諾、A級選抜で四頭が遠征してくることになった。苦しい予算から一着賞金100万円も捻出、地元福山ダービーでさえ200万しか出なくなっている現状で、主催者福山市としてもかなり頑張ったと言える。
あまり知られていないことだが、経営状態だけなら福山競馬はいずれ不振にあえぐ地方競馬の中ではまだましな方で、今でも開催日に一億ちょっとは売り上げている。賞金もこの三月までは最低でも一着30万円ほど確保できていた。さすがにこのご時世のこと、予算削減でこの四月から一気に半減したのだが、それでもサラで知られる笠松や名古屋でさえ同程度でしのがざるを得ない現状、まして一着10万の高知よりはまだ恵まれている。「アラブカネ持ち、サラ貧乏」と言われたかつての“栄華”の貯金は、やはりダテではない。
今回、高知からやってきたのはナイキアフリート、フォーバイフォー、パワフルヒッター、ニシノマキシマム。どれもかつて中央や南関東で走っていた仕事師たちだ。さすがに年齢は九歳や八歳と食っているが、それでも腐ってもサラブレッド、競走馬としての能力の違いを見せつけてくれるのでは、と地元のろくでなしたちもあれこれ取り沙汰していた。対する地元勢は、現在日本最強と言われるスイグン以下、ユキノホマレ、ヤスキノショウキなど看板馬がずらり。いつも同じようなメンバーでの競馬にならざるを得ない地方競馬のこと、こういう勝負は確かに興味をかきたてる。
かくて、一周小回りの千メートル。きついコーナーの馬場の1800m戦で勝負は行われた。結果は、地元のスイグンがアラブ現役最強馬の実力を見せつけて快勝。高知のフォーバイフォーが果敢に先行してあわや二着と健闘、場内は大いにわいた。ただ、ゴール直前でナイキアフリートが競走中止、行きは四頭だったのが帰りは三頭になった高知勢だったが、「次はほんまに勝てる馬を用意せんといかんな」と、調教師は次の対戦を期する口ぶりだった。
*1:週刊朝日id:king-biscuit:20050719と併発の二本同時進行で。客層とメディアの性質の違いで力点や芸風の違いを出さねばならないのは、いまさら稼業とは言え、それなりに厳しいです。写真も同様に……