ソフトバンク、岩手競馬と提携へ

 岩手競馬ソフトバンクが業務提携をする、というニュースが、話題になっています。

 インターネットを介した馬券販売業務を軸に、ブロードバンドでの実況放送なども、ということですが、これは今年の一月から施行された改正競馬法の趣旨を受けてのもの。競馬開催に関わる業務の一部を民間に委託することが可能になった、ということで、要は「競馬の民営化」なわけですが、ちょうど一年前の今頃、話題になった高崎競馬へのライブドアの参入表明から始まった一連の流れの上にある動きと言っていいでしょう。実際、当時も岩手競馬の側からライブドア接触していましたし、何より、額面だけでもホッカイドウ競馬に次ぐ膨大な累積赤字で身動きのとれなくなった岩手県競馬をこの先、本気で何とかしようとするにはこういう方向しかないのは明らかだったわけで、個人的にも主催者側の動きの鈍さをかなり心配していたのですが、そうか、ここにきてようやく少しだけ動き出したか、という感じです。

 高崎に始まったライブドア地方競馬参入の方は、その後ライブドア自身が社長の堀江氏以下、ニッポン放送の「買収」から今回の衆院選出馬に至るまで、とにかくメディアをひきずりまわすお騒がせぶりばかりが拡大して話題になったせいもあり、競馬のことはもう忘れちまったんじゃないのか、といった声もありましたが、実は水面下ではその後も少しずつ動いています。高崎については群馬県側の頑なな“廃止”確定路線と不誠実から頓挫したものの、その後、高知競馬と業務提携を発表、笠松や名古屋などもそれに同伴しながら、現在、ネットを介した馬券販売の枠組みについて、ジャパンネットバンクと手を組んだ決済システムの導入を決めたJRAの動きもにらみながら、農水省その他関係各組織と相談しながら作業をすすめている最中のようですから、今回新たに明らかにされた岩手とソフトバンクの提携も、やはりそういう大きな流れに沿ってゆくものと思われます。

 インターネットを介した競馬のライブ中継も、地方競馬でもかなりの数の競馬場が手がけるようになってきてはいます。ブロードバンド環境が普及し、動画の配信も一般家庭でそれほどストレスなく行えるようになった現在、ネットで競馬が見られないのは確かに不自由で、その程度のサーヴィスすら積極的に行ったこなかったのが、これまでの地方競馬主催者だったわけです。

 ソフトバンクのプレスリリースを眺めると、パソコンだけでなく携帯からも馬券を買えるようにする、ということもはっきり盛り込まれていました。ワンコインで競馬を楽しみたい新しい競馬ファンのニーズに応えてゆくために、この仕掛けは不可欠でしょう。

 導入が進んでいる三連単が典型的だと思うのですが、正直、あれは狙って取れる馬券じゃない。ワンコインの100円単位でボックスでからめて買う買い方が一般的でしょうし、万一当たったところでその資金を次に転がして、といった方向にもちょっと行きにくい。配当は確かに高いし、一攫千金は夢見られますが、万が一にも当たったとしてもそこまで。ならば、ワンコインで、それもできれば携帯電話からでも気軽に馬券を買えるようにする、というのはひとまず時代の流れで、そういう新しい競馬ファンのすそ野を広げようとしなければ競馬に未来はないでしょう。

 と同時に、昔からの競馬ファン、コテコテの馬券オヤジたちに対するサーヴィスにも、まだやれることがある、それを忘れてはなりません。彼らはやはり単勝枠連馬連の数点勝負で馬券を楽しむわけで、だからこそ「転がし勝負」の妙味も出てきます。若い世代に増えてきたワンコイン&三連単の馬券ファンとはまた別に、彼らオールドタイプのファンも大事にしなければ客商売は成り立ちません。

 たとえば、馬券の種類によって控除率を変えてみる、というのはいかがでしょうか。早い話、三連単などは控除率が四割くらいでもそんなに配当に割安感が出るものでもないはずで、逆に単勝枠連馬連控除率を一割くらいまで下げたらかなり配当が高くなって、続けてゆくうちに馬券オヤジたちの「勝負」ゴコロもグッと高まるでしょう。以前から一部で言われていたことですが、しかし、これも実は一月の改正競馬法の施行で事実上可能になったこと、のはずなのですが、どういうわけか、農水省のアナウンスメントなどを見てもそのへんはっきりわかるように説明したものはありませんし、何より、各競馬場の主催者がそういう事情を理解している風にもあまり見えない。

 高知では、先日から五頭だて、三頭だてのレースも始まっています。在籍頭数の減少と夏場の出走頭数確保、など、いろいろと追い詰められた上での苦肉の策というのは確かなのですが、五頭だての三連単も荒れれば案外結構な配当になるし、単勝しか売らない三頭だても案外ファンの興味を引いているようで、「ドッグレースみたいやなあ」と苦笑しながらも、みんなそこそこ楽しんでいるようです。

 とにかく馬券を当てたい、当たる、という体験をまずしてもらいたい、これはそういう方向でのファンサーヴィスです。配当が150円でも当たりは当たり、特にビギナーはその楽しさから次にまた競馬場に来てもらえることにもつながる。万馬券、十万馬券で夢を見ることと同時に、三分の一の確率で「当たる」ことも楽しめる、こういう網の広げ方もこれからの競馬、特に地方の小さな競馬は小回りがきく分、大いに試してみる価値があると思います。とにかく、それぞれの競馬場、それぞれの主催者でできることの範囲というのは、以前よりずっと広がっています。あとは現場でそれをどう活かすか、自分たちの競馬場のウリは何か、お客さんは何を求めているのか、について、民間のあたりまえの商売と同じように考え、工夫をしてゆく――言ってしまえばそれだけのことです。その、それだけのこと、をしない、しなくてもよかったのがこれまでの競馬場、「お役所競馬」だったわけで、自らその不自由をかなぐり捨てる覚悟がいま、何より求められていると思います。