株式市場活況の背後に

 株式市場が活況を呈している、らしい。特に、インターネットを介した取引が急増、証券会社もその手数料収入がバカにならず、本腰入れてそちらにシフトし始めている由。これまでシロウトには敷居の高かった株の売買が、ネットのおかげで気軽にできるようになってきた、ということらしい。

 十五年前に亡くなったうちのオヤジは、絵に描いたような高度経済成長期のサラリーマンで仕事一本、脇目もふらずに邁進し、あげくの果ては出張帰りに空港で斃れるという、いまなら「過労死」認定されかねない最期だったのだが、自社株を給料天引きで持たされてはいても塩漬けのまんま、それを売買して利ざやを稼ごうといった魂胆は見事なまでになかった。働けば働くだけ給料の上がった時代のことでもあり、株なんてしょせん濡れ手で泡の危ないもの、ないしは、まっとうでない稼ぎ方、といった感覚もあったように思う。何もうちのオヤジだけでもない。多くの日本人の感覚もおそらくそんなもの、だったはずだ。

 だが、いまやネットを介して四六時中市場に貼りつき、売買を細かく繰り返して儲けるシロウトが増えた。プロのディーラーとは違い種銭もささやかだが、それでもなけなしの貯金をはたいての自前の勝負、まして主婦層もOLも参加しているという。自分の才覚、器量で稼ぐ、という感覚が広く共有されるようになったのはまさに時代の流れ、構造改革のもたらした眼前の事実ではある。思えば、先のバブル期にはまだネットは存在していなかった。次のバブルがあるとして、これら新たなシロウト投資家たちも巻き込んで、さて、どういう様相を呈するのか。まだ見ぬ未来がこれまたひとつ、すぐ目の前に来ている、のかも知れない