これがオレたちの競馬だぜ、と言える競馬場を

 ご承知のように、競馬もまた会計年度で動いています。その意味で四月は「もうひとつの新年」。そんな中、先日、岩手県の厩舎関係者から、こんなメイルが舞い込みました。

「昨年度の競馬終了間際から、すったもんだしていた融資問題もなんとかクリアし、やっと2005年度の競馬がひと開催終わりました。年間の売り上げ目標が299億ですから、今回催だけみますと13億200万とかなり先行きが不安なスタートとなってしまいました。しかも来年度は売り上げ増を見込んでいるとか。インターネット販売やら、いろいろなイベントも良いのですが、地全協のホームページにも載っていました5000円分の外れ馬券にチャンスを、なんて企画にしても、こんなのは10年以上も前に提案したことがあったもので、いまさらという感じがします。外れ馬券のゴミ問題で提案したのですが、そのころは売り上げもあったから、法的に無理、のひとことでかたづけられた記憶があります。入厩条件を緩和するとか、他場のように能力試験を数ヶ月以内に出走した馬はなしにするとか、お金をかけずに出来ることがまだまだあるというのに、頭の固い人たちばかりです」

 少し前までは地方競馬の優等生と言われていた岩手県競馬の迷走ぶりは、去年、地方競馬の「廃止」の相次ぐ中でも大きなニュースになっていました。昨年末の段階で、経営再建案が県議会の承認が得られず、このままだと岩手競馬、つまり盛岡と水沢までもがつぶれるかも、と取り沙汰されていたものです。何とか資金融資にメドがついて競馬は存続しましたが、新年度の開催成績は相変わらず芳しくなく、関係者の不安は募っているようです。

 もうひとつ、この欄でも何度か触れてきましたが、岩手と同じく昨年度「廃止」の瀬戸際に立たされ、結果一年間の「執行猶予」がついた笠松は、新年度ひと開催が終わった時点で赤字を前年比で大幅に圧縮、という結果になったようです。昨年の九割程度で予算を編成、それに対しても現実はなお売り上げ減だったわけで、決して安心できる状況ではないのですが、それでも、ひと開催分の赤字を大幅に減らせたのはひとまず素晴らしい。もちろん、その影にはこれまでの県職員のほとんどを引き上げさせたり、現場の努力があってのことですが、こうなってみると、じゃあ今まで岐阜県はどういう経営をやってたんだ、ということになります。これは他の競馬場でも事情は同じでしょう。改めて見えた「お役所競馬」の限界。苦しくても競馬を支える手だては、まだあるんです。

 そうそう、オグリキャップがそんな笠松を応援しに行くことになりました。一部スポーツ紙などで報道されていましたが、25日の朝にはもう無事現地に到着、報道陣にお披露目があったようです。輸送に関わった関係者によると「馬はいたって元気」とのこと。当初は高齢馬の長距離輸送を懸念する向きもあったのですが、さすがにあれだけの馬、二十歳での長距離輸送でも動じないのは大したもの、という声が出ているそうです。とは言え、やはり体調を考慮して、笠松滞在は十日ほどの予定ですが、この29日、オグリキャップ記念の日と、翌30日の開催日にもファンの前に姿を現わすことになっている由。笠松時代の管理者鷲見調教師などの関係者を招いてのイベントに加え、かつての主戦ジョッキー、安藤勝巳騎手もスケジュールがあえばかけつけてくれるそうで、当のオグリキャップともども、生き残りに賭ける競馬場を盛り上げるのにひと役買ってくれるでしょう。

 経費や実務上の問題など、障害が多々あるのは承知ですが、こういうイベント、他の競馬場でももっと前向きに考えてみてはいかがでしょうか。去年の秋にも、盛岡競馬場にあのスイフトセイダイが「里帰り」し、ファンに喜ばれたことがありました。彼などは一時期「行方不明」とまで言われていたのが、地元の牧場で無事飼われているのが見つかって実現したもの。たとえ種牡馬繁殖牝馬を廃用になっても生き残っているかつての名馬、名牝はまだいるはずです。福山のローゼンホーマ、大井のイナリワンコンサートボーイ船橋アブクマポーロ……その他、各競馬場の「歴史」を刻んだ名馬たちは、地元のオールドファンならずとも、もう一度その雄姿を見たいでしょう。

 競馬が文化、と言うのなら、そうやって地元に記憶されている「歴史」をつむいでゆこうとすることもまた、競馬場が地元に果たせる大切な役割のはずです。たとえば、ケンタッキーはチャーチルダウンズのあのダービー博物館の、これがオレたちの競馬の歴史だぜ、と胸を貼る心意気を、ニッポンの小さな競馬場からも、です。