風雲急? 農水省界隈

 ニッポン競馬をめぐる大きなところでの動きが、ここにきてにわかにあわただしくなっています。個々の競馬場や主催者団体などではない、はっきりと国レベルでの話です。

 まず、先月末、小泉首相が国会の答弁で、特殊法人改革に触れた際、今後は公営競技関係の特殊法人の改革に手をつける、特に助成金補助金の流れなどについて見直してゆく、という趣旨の発言をしました。国会答弁の中の、それもわずかな言及ではありましたが、それでも総理大臣の答弁ですから重みは格別です。

 さらに、それに続いて武部幹事長が、郵政民営化の後は、NHKと公営競技特殊法人の改革、民営化を進めてゆく、という発言を記者会見の中で行いました。これで先の小泉発言を追認した形になったところに、今度は読売新聞などが、地方競馬、それも名指しで地方競馬全国協会の改革を行いたい、という政府筋の委員会のコメントを報道しました。もっとも、これは記事の内容がいまひとつわかりにくいものでしたが、おそらく書いた側がこれまでのニッポン競馬改革の経緯をよく認識していないからで、流れとしては先の小泉、武部発言の上に乗ったものなのは明らかでした。

 新聞に限らず、一般の報道現場の感覚としては、公営競技関係の特殊法人、と言われれば、まず競馬、そしてJRAを思い浮かべるのが自然のようで、その上で助成金とくれば、ああ、馬産地関連の、と考えるのがスジのようです。もちろん、これは普通は政治部だけでは脈絡のわからない話ですから、運動部の競馬担当や系列のスポーツ紙などにも背景の事情を尋ねるわけですが、そのへんの情報を加味しても、やはりJRA中心の世界観でまわっている業界のこと、解釈はおおむねそういう方向で発動されるようです。けれども、あたしなどの見るところ、これはむしろ地方競馬に焦点を絞った話、これまでもちらほらと話の出てきている地方競馬を統合して新たな経営形態にするいわゆる「第二JRA」化、の案件です。さらに深読みすれば、その「第二JRA」化をダミーにして、本体のJRAの方にはなるべく手をつけないままで、という一部農水省筋の思惑すらはっきり見え隠れし始めたな、という印象すらあるのですが、それはともかく。

 一方では、ホッカイドウ競馬の周辺でもいろいろと動きが急なようです。特に、道の財政部筋が本腰入れて競馬から手を引くことを考えて動き始めた形跡が、いくつか出てきています。累積赤字が百億円以上、今年もこのままでは単年度赤字が十億になる、と言われているホッカイドウ競馬ですから、道、特に財政部周辺ではこれまでも「廃止」を視野に入れて動いてきているのは同じく地方競馬を抱える他の県や市と同じですが、言うまでもなく、馬産地競馬という北海道固有の事情から、単に競馬単体の財政事情だけで存廃をうんぬんするわけにもいかないのも事実でしたし、またそれにあぐらをかいて「北海道が競馬をつぶせるわけないべ」とたかをくくる向きも少なくないのも正直なところでした。けれども、累積赤字分はもとより、単年度赤字にしてもこの先、改善するメドが立たず、懸案の馬産地関連の問題にしても、進行中の競馬法改正を始めとしたニッポン競馬の構造改革の流れの中で、百数十億円規模での対策資金が準備され、生産者の本格的な整理・統合の環境が整ってきたこともあって、タイミング的には道も腹をくくりやすくなってきたのも確かなようです。

 抜本的な改革としては、今の主催者の体制ではダメで、予算の削減すらままならない。だから、主催者から道が抜けて、生産者や地元の自治体などで新たな主催者団体を組んでそちらで競馬を引き受けて存続、というプランは、これまでも模索されてきてはいました。ただ、その新たな受け皿が形にならない段階で道が競馬から抜けるということを表沙汰にするわけにもいかない、という配慮が働いてきたのですが、ここにきてどうもその膠着状況を一気にどうにかしようと道の側、それも「存廃」に積極的な財政部周辺が動き始めた形跡があります。

 こういう状況では、先の小泉答弁なども官僚に逆手に取られる可能性があります。つまり、小泉首相がおっしゃることですから、と言わば「葵の印籠」のように扱われて、ほんとは何とか手助けしたいのですが仕方ありませんねえ、という方向に誘導されてしまいかねない。大きな流れとしては、競馬法改革のひとつの大きな目論見である競馬の「民営化」が本流のはずなのですし、小泉答弁の本意もそこにあるはずなのですが、「お役所競馬」の自己保存本能が介在するとそれも都合のいいように解釈されてしまう、そういう構造ははっきりあります。今月の内閣改造後、向こう半年くらいの間に、こういう国レベルの大きなところでの動きがさらに加速されるはずで、その意味でも、継続した注視が必要なのだと強く思っています。