前略、農水省競馬監督課様

 前略。農水省は競馬監督課のみなさま、いかがおすごしでしょうか。

 聞けば、この十月に異動になり、新たに競馬に携わることになった方もいらっしゃるようですが、少しは新しい仕事になじまれたでしょうか。あなたがたとは未だまともにお会いしたことも、お話しさせてもらったこともないあたしですが、JRAも地方競馬も含めたニッポン競馬を統括する責任ある立場にあるらしいあなたがたに、この場をお借りして、改めてお尋ねしたいことがあります。 

 あなたがたは、ニッポン競馬をどうなさるおつもりなのでしょうか。これがいきなり大きすぎる問いだとしたら、特にまず、地方競馬をこの先、どのようにしたいと思っているのでしょうか。

 現在、競馬法改正の流れがすでにあり、その中で最も重要な柱として、地方競馬構造改革があることは言わずもがな、もう十分ご承知のことでしょう。もう少し焦点を広げれば、かつてのジャパンカップ創設以来の「国際化」の大きな流れもあるでしょう。それらの上で、今後あるべきニッポン競馬の全体像と、その中での地方競馬のありかたについて、どのような未来を構想しようとしているのでしょうか。

 ご存じのように競馬の世界というのは妙なところで、自分たちが仕事にしている競馬そのものが果たしてどのような仕組みの上に成り立っているのか、馬に近いところにいる人たちほど知らないままできています。現場の関係者をそういうつんぼ桟敷の状態にしておくことが戦後、競馬事業を維持してゆくのに最も都合がよかった、というこれまでの経緯があるにしても、どんどん売り上げが下がり、賞金が減り、競馬場がつぶれてゆく最近のこの流れというのは、そもそもどのへんに問題があって、どういう手だてがあり得て、そしてどういう人たちが本当にこれらの問題に責任を持ってくれるのか、考えても何も見えず、ただ途方に暮れている厩舎関係者の姿は、どこの競馬場でももう当たり前に眼にします。ここ数年、あの中津競馬以来、つぶれてゆく地方競馬場をなるべく現場の眼の高さで見ようとしてきて、そして、及ばずながら何とか小さな競馬場が自立できる、自前でやってゆける可能性があるならば、と、できる限りのことをやってきたつもりのあたしですが、さすがにここにきての地方競馬切り捨て、「改革」の名の下での、もう何も手助けもしないから勝手に生きるなり死ぬなりしてください、と言わんばかりの流れには、さすがに堪忍袋の緒が切れそうです。

 競馬はとにかくJRAさえあればいい、年間三兆円を切るまでになった売り上げの低下も何となく底を打ったという楽観的な見方もちらほら出てきて、何にせよ国庫に納付する三千億円さえきちんと上納できれば競馬事業は安泰、財務省だってえびす顔だし、自分たち農水省もいい顔ができる。地方競馬はこれまで自治体主催でそれぞれにやってきた事業だし、JRAに比べれば経営努力を怠ってきたんだから赤字垂れ流しで廃止になるのも自業自得。もちろん馬産地対策の問題はあるにせよ、それら懸案も含めて一度きっちりこの機会にガラガラポンしないと、ニッポン競馬全体の先行きとしてもまずいんじゃないか。まあ、そういう趣旨でいろいろ動きが出てきた競馬法改正だけれども、でも全貌がかたまるまでにはまだ向こう二、三年ほどかかりそうだし、その間、ほっとけば地方競馬は五つくらいはまだつぶれてくれるだろうから、本格的な構造改革が動き出すのはその大勢が決してからでもいいんじゃないか――そんなことを平然と言い放つ関係者もいます。これまで地方競馬がずさんな経営をしてきたのは事実ですし、この期に及んでそれすら改善できないでいる主催者が未だほとんどというのが現状ですが、でも、今の窮状は個々の主催者の自助努力じゃもうどうしようもないことは認めておきながら、言い方は悪いですが放置プレイで自滅を待ち、ああ、残念でしたねえ、時間切れですねえ、というのは、あなたがた官僚の常套手段のようですから、申し訳ないですが、あたしははっきり疑心暗鬼の塊になっています。

 勘違いしないでください。助けてくれ、と言っているのではない。そんなことはもう言わない。いまどきまだそんなことを言う主催者をシャッポに頂いている競馬場はどの道、早晩つぶれます。まして、そんな主催者の言うことを唯々諾々と聞くだけで自ら眼を開こうとしない厩舎関係者も同様。そういう意味では、あなたがたの目線から見ていて、おそらくいらだちを覚える地方競馬の現状というのも、あたしなりにわからないではありません。

 でも、だからこそ、です。どういう条件、どういう環境でならば、まだ生き残ることのできるべき地方競馬というのがあり得るのか、そのための具体的な施策や対応方法などを、もっと現場の人間にもわかるように示してもらいたい。「上の方」は常に自分たちを抑圧して、つぶそうとするだけだから――そんな後ろ向きなあきらめの気分が厩舎関係者の間にどんよりとよどんでいる、そんな現在こそが、あたしなどには腹立たしく、そしてやりきれないものです。

 地方競馬はこうなって欲しい、だからそのために努力をして欲しい、そんな言葉、そんなビジョンをあなたがたから発してもらいたい、今、こんな状況だからこそ、そのことを強く思っています。