きっこ姐さん、大暴れの巻

かつてまだ尻の青い書生だった頃、例によって悪友らと騒ぎ疲れた夜更け、始発までとしけこんだ深夜の映画館で遭遇した座頭市の予告画面の惹句が、酔眼に鮮烈だった。その感じがよみがえった。――「どめくらひとりにこの騒ぎ」。

その伝でゆけば、髪結いひとりにこの騒ぎ、である。先月も触れた例のマンション構造設計偽装事件、年末から年始にかけてわが日の本の電網空間では、とあるブログがもっぱら話題をさらっていた。

きっこの日記」――もとは何の変哲もない、よくあるネット上の日記だった。軒先を借りていた「さるさる日記」自体、ブログが今のようにはびこる前からあった素朴な日記専門レンタルサイト。日々のアクセスがランキングになっていることもあり、ギャラリーもそこそこ集めている。2ちゃんねるで伝説のテンプレートになっている「吉野家」テンプレも五年前、ここ「さるさる日記」上の個人サイトから派生したものだった。この「きっこの日記」もその前年、二〇〇〇年の十月から始まっている。まあ、個人日記の老舗のひとつと言ってもバチは当たらない。

 プロフィールによれば、日記の主「きっこ」はテレビ局のヘアメ-ク(本人表記に従う)嬢とのこと。酒が好きでタバコも吸い、ジャニーズに眼がなく、和歌や俳句も少しばかりたしなむ。病身の母親に苦労した経験もあるらしく社民党贔屓のアンチ小泉、郵政民営化の時も強硬な反対論をぶっていたが、しかしそこはそれ、もとが電波芸人・芸者相手の今様髪結い稼業、根っから政治的人間のわけもなく、しょせんは文字通りの床屋ならぬ髪結い政談。ふだんは音楽や化粧やファッションや食べ物や、どこにでもある身辺雑記の域を出なかった。東京生まれの東京育ちで、さそり座のA型。自称、中島史恵似、他人からはプリンセス・テンコー似と言われ、浴衣で卓球が好きで、いま一番やりたいことは「小泉をグーで殴ること」というこの侠で元気な嬢さま(だと思われる)が、例のマンション構造設計偽造問題で一躍、世間の注目を浴びることになったのだ。

《MAXをこよなく愛するフリーのヘアメークです。

好きなもの 俳句、猫、モータースポーツ、期間限定のお菓子など》

【HN】きっこ

【性別】♀

【星座】さそり座

【血液型】A型

【前世】毛並みのいい黒猫

【住んでいるところ】東京

【生まれたところ】東京

【職業】ヘアメーク

【似ている芸能人】自分で思うのは、中島史恵とよた真帆稲森いずみ でも、人から言われるのは、プリンセス・テンコー(笑)

【身長】161.5cm

【体重】43kg

【足のサイズ】23.5cm

【趣味】俳句 パチンコ(新海物語)

【特技】ハイヒールダッシュ 欽ちゃん走り 木のぼり

【髪型】クレオパトラふう

【口癖】いやん!

【性格】人に厳しく自分に甘い(笑)

【タバコ】セブンスター  

【自慢なこと】虫歯ゼロ 美白 黒髪

【持っている資格】JHMAA認定ヘアメークアーティスト 美容師免許 車の免許 原チャリの免許

【使っている携帯電話】ボーダフォンのテレビつき(ブルー) ボーダフォンのカメラなし(パールホワイト) ツーカーのカメラつき(ゴールド)

【好きな男性のタイプ】頭のいい人 センスのいい人 清潔な人 えっちだけど下品じゃない人

【好きな女性のタイプ】裏表のない人 セクシーな人 個性的な人 誠実な人

【好きな言葉】よし!ここはオレのおごりだ!

【好きな芸能人】MAXの玲奈ちゃん 児島玲子ちゃん 木下あゆ美ちゃん ドラクエゼシカ

【好きな食べ物】お豆腐料理全般 お魚料理全般 お蕎麦 ガリガリ君のコーラ味

【嫌いな食べ物】ホヤ ピータン パクチー

【好きな飲み物】日本酒は銀嶺立山と仁科 焼酎は猫叉と赤猫 泡盛は久米仙と残波 第3のビールはオリオンサザンスターとのどごし生 ビールはオリオンとスーパードライ スコッチはオールドパーとティーチャーズ バーボンはワイルドターキーとフォアローゼス ジンはビーフィーターボンベイサファイア ラムはレゲエラムルリカケス

【嫌いな飲み物】甘いお酒全般 甘すぎる缶コーヒー

【好きな教科】古文 英語

【嫌いな教科】生物の解剖

【好きなテレビ番組】釣りロマンを求めて ちびまる子ちゃん タモリ倶楽部 スチーム係長

【好きな映画】スワロウテイル(岩井俊二監督) 恋する惑星(ウォン・カーウァイ監督) 男はつらいよシリーズ 釣りバカ日誌シリーズ

【好きな本】ニッセンの通販カタログ セシールの通販カタログ

【好きなスポーツ】浴衣で卓球

【好きな音楽】OPM TOO RUDE UB40

【好きなブランド】バッグ類はルイ・ヴィトン 靴はジミー・チュウ コスメはランコム

【愛用の香水】シャネル・アリュール サンローラン・ベビードール 

【好きな花】梅

【好きなゲーム】ドラゴンクエスト

【愛車】フィアット・パンダ ホンダ・ディオ プジョーのマウンテンバイク スケボー

【将来の夢】愛する人と沖縄で暮らす

【好きな動物】野良猫 黒メダカ

【休日の過ごし方】野良猫たちとマタタビパーティー

【尊敬する人】マルグリット・デュラス

【今一番欲しいもの】ヴィトンのダミエのエナメルのブーツ

【今一番行きたいところ】福島県土湯温泉

【今一番やりたいこと】コイズミをグーで殴る!

【よく遊ぶところ】バスルーム

【カラオケでよく歌う曲】カブトムシ/aiko PRIDE/今井美樹 やさしい気持ち/Chara しましまのバンビ/Chara 人魚/Nokko スカートの砂/UA ニライカナイ/MAX

【マイブーム】お風呂に温泉の素を入れて、お酒を飲みながら、音楽を聴きながら、ゆっくりと浸かる

【最近ひそかに興味があること】プチ整形

【生まれ変わったら】宝塚のトップスター(男役も女役もやってみたい)

【世界平和に必要なのは】マリファナ解禁!

【兎に角主張したい事】戦争反対! 核廃絶

【疑問に思っている事】原油原油税がかかり、精製する段階で精製税がかかり、ガソリンになるとガソリン税がかかり、車に入れる時に消費税がかかること。

【ここだけの話】テレビ朝日のドラマ班の有名なチーフディレクターが、女性タレントに対するセクハラで、6月に諭旨免職になりました。このバカの名前は‥‥そのうち日記に書きます(笑)

事件勃発後、十一月の半ばからこの事件に執着していたが、そのうち当の欠陥マンションの住人や関係者からの内部告発メイルが届き始めたようで、マスコミよりも早く、かつ「濃い」情報が軒並みアップされるようになり、あたかも報道の楽屋裏をのぞくような感覚がこちら側に喚起されていった。とは言え、ヒューザーの元営業マンからもタレコミメイルが来た、などとはしゃぎつつも、情報提供者とのやりとりをほのめかしながら流出する情報を制御しようとするする手さばきは、いやいや、とてもじゃないがただの髪結いとは思えない。

《■2005/11/23 (水) 本当の黒幕は? 2

正確に言えば、建材を規定以下に落とした欠陥マンションを売り続けること、お客様を騙し続けることに耐えられなくなり、自責の念にかられて退職した人なので、「元営業マン」ってことになるけど、今回、問題になってるマンションのうちの数棟の販売にも関わってた人だから、メールの内容は具体的でビックル飲みまくりだった。だけど、バックの広域ホニャララ団や右に偏った政治団体が恐いからって理由で、そのメールには小嶋社長からの直接の指示の言葉などが具体的に書いてあるため、残念ながら、そのメールをそのまま掲載する許可はもらえなかった。でも、これだけは書いて欲しいって言われたことがあるんだけど、それは、「会社の人間は、社長から営業マンに至るまで、全員が欠陥マンションだと言うことを知った上で販売していた」ってことだ。》

そして、このきっこ姐さん、事件の本当の黒幕は姉歯建築士でもヒューザー小嶋でもなく、総合経営研究所内河健だ、とはっきり指名するに至る。なぜ黒幕か、という理由についても懇切丁寧に解説つきで。その情報量と処理の手間ひまのかけ具合はなかなかのもので、蓮っ葉な口調やすべり気味のシャレなどはご愛敬で眼をつぶるにしても、ここは窓際出版社員が雁首そろえる当測候所としても重ねて言わせていただくが、これは単なる素人が片手間にできるようなものではない。

《悪質極まりない犯罪者のぶんざいで、浮かれてテレビに出まくって非常識な発言を繰り返す小嶋進は、まるで杉村太蔵みたいだけど、トットと会社を閉めて雲隠れしちゃった木村盛好は、国会よりもトークショーを優先したクセに、何の謝罪もなく、目立たないようにしてホトボリがさめるのを待ってる藤野真紀子みたいだ。そんな無責任な男、木村盛好の後ろで糸を引いてたのが、建設業専門のコンサルタントで「株式会社総合経営研究所」の代表取締役所長、内河健(うちかわたけし)(73)だ。ハッキリ言って、このジイサンが、すべての欠陥建築の黒幕なのだ。》

このあたりから年末にかけて、新聞から週刊誌系に至るまで、表のメディアの報道は結果としてこの姐さんの日記の後塵を拝することになった。いや、公平を期して言えば、そのように見えざるを得なかった。無理もない。本来ならば取材記者それぞれからせいぜい編集部のデスクのレベルに集約されるような、噂にタレコミ、伝聞当て込み含めた何でもありで雑多な素材情報を、この姐さんは裏など全くとらずに玉石混淆のまま飛ばしまくっておもしろおかしく書き飛ばしていいのだから、ノリと速度でマスコミ正規軍が勝てるわけがない。かくて、マスコミの鼻面引き回してマンション構造設計疑惑の究明に健気にも奮迅する無名女性のブログ、という、まるでジャンヌダルクのごときキャラクターがめでたく成立。夕刊紙からワイドショーまでが正体探しに乗り出したら、あのみのもんたも呼応して朝の自分の持ち番組で紹介、新たな情報提供を呼びかける始末。さらには、「知の巨人」立花隆までもこんなでっかい提灯をつけるに至った。

《この事件で、もうひとつ特筆しておくべきことは、この偽装事件をここまで明るみに出すことができたのは、インターネットの力だということである。これは、マスコミの世界では知れ渡っていることだが、実は、この事件の特ダネはネタのほとんどが、連日のように書き込みがある、ある女性のブログから発している。その情報ページ『きっこの日記』はこの事件のはじめから登場し、終始この事件の展開をリードしてきた。そのページは信じがたいほどに情報が豊かで、マスコミの多くが、まずそこから情報の端緒を得、それをウラ取りしてから記事にすることの繰り返しだといってもいいくらいだ。》

電網界隈では最近、おおむねトンデモ物件認定されていた「知の巨人」だが、表のメディアでは未だに神通力は残っていたから効き目はあったようで、日記のアクセスはうなぎのぼり。追い打ちをかけるように、渦中の当事者のひとり、イーホームズ社長藤田東吾からも連絡が。

《お名前:藤田東吾

E-mail:xxxxx@ehomes.co.jp

コメント:きっこ殿はじめまして、イーホームズの藤田と申します。今般の耐震偽装事件に関して、あなたが作成しているブログには、私たちでは関知し得ない、この事件の全容解明に資する重要な情報があると思います。内容において、私どもに対する一部辛辣な表現もありますが、全容解明に資する情報の存在を優先して、弊社のトピックスにてURLをリンクさせて頂きました。ご了承のほどお願い申し上げます。下記のトピックスのNo.7にリンクを張りました。

http://www.ehomes.co.jp/SITE1PUB/sun/6/news/report69.html?t=1132554453386

では宜しくお願い申し上げます。            イーホームズ株式会社 藤田東吾

いやいや、それどころではない。ついには、なんと国会議員までが釣り出されるに至った。

《今回の耐震偽装問題で、証人喚問によって大ブレイクとなった国会の現場。そして、振り返るとこれはインターネットにおける匿名情報などによって情報が先出しされ、並行して国会審議が事実を公にし、そしてそれを既存のメディアが後追いするというかつてない展開を見せてきたと言える。それは、あたかも「予告編つきの生中継」のような臨場感あふれる展開となって、PC(パソコン)の置いてある「書斎」(勉強部屋?)からテレビのある「お茶の間」に情報が流れるという新たな「ドラマ」として受け止められたと言ってよいのではないか》

《まったくの偶然である。ネットやブログとの連動で簡単に資料収集や質疑の構成が行えるわけではない。それぞれが偶然、連動しているかのような展開を見せたとしか言いようがない。確かに、驚くばかりの内部情報の網羅がなされるネット上のブログ。しかし、一方国会の現場は具体的な事実に基づいてでないと、公文書として保存される議事録に刻む発言は残せない。この、本来なら大きな溝があってもおかしくない、ブログと国会を奇しくもこの問題は結び付けてしまった。しかも、既存メディアを一歩も二歩も置き去りにして...。その意味で、メディア史においても画期的なことかもしれない。そして「ネット時代の発信者」という意味においては、新たな大衆をリードする「メディア」と「政治家」がクロスオーバーする瞬間を大衆に予感させたのである。》

自民党による証人喚問拒否をどう突き崩すか!?。この新たな命題に向かって、徹底的にメディアを使ってのアピールを展開してきたこの二日間なのだが、いよいよ新たなチャレンジを試みた。ブログとのコラボレート(協働)である。多くのメールやファックスや電話でもお知らせいただいていた、ネット上のブログ、「きっこの日記」の作者との共同作業を思い立ったのである。

国会質疑の中で、激励いただいた方々からの情報によって知ったこのブログの作者がどのような方かはまったく存じ上げない。しかし、新たな大衆の声として、大きな支持を得ていることだ

けは事実である(読め!との連絡ひっきりなし!)。》

民主党馬淵澄夫先生。今回の事件では、参考人質疑の奮闘で疑惑追及の花形である。平成十五年の秋、衆議院議員に初当選、去年の九月の選挙もくぐり抜けた二期目の代議士。所属は奈良一区。昭和三五年生まれだから、子年の四六歳。横浜国立大学工学部卒業後、数社を経て、三二歳の時、史上最年少で上場企業取締役になった由。六児の父で十一人家族だとか。以上、なにも当測候所がかぎまわって調べたのではない、ご本人がネット上に堂々と公開されている個人情報である。

 ある種の国会議員、特に民主党の議員先生方はどういうわけかネットに必要以上に秋波を送る性癖があることは、以前から当測候所も指摘している。世代的なものもからんでいるのだろうが、この馬淵先生などはその典型。ホームページには「携帯写真日記」と称して日々の活動を写真とコメントで日記風に公開して、夫婦の間の会話などもあっけらかんとさらされたり、もはやそこらの素人のブログと選ぶところはない。公人も私人も、プライベートもヘチマもないある意味剛胆、あけっぴろげ。先生、この先何かあったとしても、くれぐれも個人情報保護を!などと口にされないことを。きっこ姐さんもほら、こんな風に仲良しなのを裏付けてくれたことですし。

《今回のインチキマンション問題だけど、今までは、あたしの情報源とか裏のつながりとかに関しては、すべて伏せて書いて来た。それは当然のことで、「どこどこの誰々から聞いたんだけど」なんて書けるワケがないし、「誰々と連絡を取り合ってるんだけど」なんてのも書けるワケがなかった。だけど、ここまで追及して来た大事件なのに、建設業界との癒着議員の数が圧倒的な自民党公明党が、この問題をムリヤリに終わらせようとしてる今、そんな悠長なことも言ってられなくなった。それで、今日の日記では、もちろん先方の了解を取った上で、あたしのつながりのある人の実名を出して、そのメッセージを伝えようと思う。それは、今回の事件が発覚したもっとも早い時期から、ずっと連絡を取り合って来た民主党馬淵澄夫議員の事務所だ。》

ああ、そういうことか、という微妙な反応がさざ波のように広がった。潮目である。じきに、関係があったのは馬淵議員本人じゃなくて馬淵事務所のスタッフだ、と抗弁したが、はっきり色がついたことは拭えない。詳しい情報の背景も何となく察せられることに。そうか、永田町か、それも民主党、なるほどねえ……というわけで、ネット住民たちのきっこ姐さんへのリスペクトもいささか中和される方向に向かったのは、やはりわが電網空間、それなりに健康ではあるらしい。

誰が一番槍をつけたか、の功名争いはどうでもいい。要はネットから発してこの疑惑にさまざまな補助線が加えられてゆき、現実に還元されて何ほどかの成果が出てきたということであり、それこそが匿名性と同時多発性を共に備えたネットというメディアの特質である。背景が何であれ「きっこの日記」の果たした役割は、当測候所とて認めるにやぶさかではない。

だが、どうしても手柄を云々したがるのは人の常。疑惑解明につばをつけたのはきっこが先だ、いや、そうじゃない、といった検証合戦も起こる。現在のところ、ネット上で最も早かったと思われる書き込みはこんなところか。例によって、2ちゃんねるは建築板での書き込みという。

《109 名前:(仮称)名無し邸新築工事 メール:sage 投稿日:2005/11/20(日) 22:40:19 ID:???木村建設で解りました!真の主犯が。木村建設とかって、ローコストマンション建ててのし上がってきたんだけど、○○て言って建設コンサルタントが付いてるんだよ

全国の地場の中堅よりも小さいくらいの会社寄せ集めて海外資材購入したりして、小さい会社も集まれば大きな会社より安く資材購入できるとかやってて。。。

ま、それは良いとして、そこのやり方が○○工法とか言って荷重とかものすごくすくなくみるんだよ

266 名前:(仮称)名無し邸新築工事 メール:age 投稿日:2005/11/21(月) 23:17:46 ID:???

だれか総研スレ建てる?? コストダウンと工期短縮を柱に》

個人のブログがこのところ、猖獗を極めているのは以前にも触れた。だが、検索エンジンの充実はこのところのネット界隈の成果だが、本来行き当たるべきお目当ての情報の手前に、個人のやくたいもないよしなしごとを垂れ流すブログがそれこそ佃煮にするくらい横たわり、エチゼンクラゲのごとく行く手をさえぎるという事態が出来。なるほど、これじゃ困る、というわけで、ブログレスの設定をする検索エンジンも現われ始めた。悪貨が良貨を駆逐する、というのはネットにおいても、いや、ネットだからこそ、より一層切実である。

日記はもともと他人に見せるものではなかった。鍵つきの日記帳などという代物も以前にはあった。自分に向かって自分でつづるのが日記であり、だからこそふだん秘めている胸の内のあれこれをそっと紙の上に置いて眺めてみることもできた。そういう私的な営みとそれがもたらす「自省」が目的なのであって、その結果残される文字はある種どうでもよかったからこそ隠されていた。それらが何らかの価値を生むことがあるのだとしたら、政治家や作家、芸能人など何か社会的に名のある人間のものに限られていた。何らか「公」に資するだけの「私」であればよし、そうでないならずっとそれは無告のまま葬り去られるのが定法。

だが昨今、ブログの日記はあらかじめ公開することを前提にしている。見られたい、見て何かかまって欲しいという自意識が当然のように設定されていて、どんな醜悪で凡庸な「私」でもおかまいなし。底の抜けたような自意識の垂れ流しを日々刻々、「公」に向けて量産し続けている。

《もう世間にはニュースサイトなんて山ほどあって、プロ(なんのプロだか…)であっても、すべて巡回するのがしんどい作業になっている。RSS配信になったとしても、もう全部に目を通すのは不可能だろう。これは当たり前の話であって、だから新聞の機能の一つに「ニュースの取捨選択=編集」がある。ほぼ無限にあるニュース=siteを見やすくかつ重要度に合わせてインデックス化=編集する必要が出てくる。(…)大手ニュースサイトが、blogなどより優位に立ち多くのPVを稼げる理由の一つは、ニュースを網羅的に編集した状態で提供できるからだと思うけど、同じことをほとんただに近いコストでやられたら、勝てるわけはない。》

ごもっとも、勝てない。そのことは、もう当測候所は以前から静かに自覚している。新聞でも週刊誌でも総合誌でも、既存のマスメディアの特権性、専門性がみるみるうちに丸裸にされつつあるのが昨今の状況。マスメディアの流す情報に対してさらに二次、三次と情報を付加してゆく、きっこ姐さんのような無数の素人の群れがまさに大海となって、既存のメディアを呑み込みつつある。未来のメディアは双方向性だ、などとのんきな議論している間に、現実はもうどんどん勝手に全方向性へと変貌しつつある。改めて、そんな情報環境におけるリテラシーについて、きっこ姐さんの玄人はだしのコメントをどうぞ。

信用度につながる「ウラ取り」は、「情報源に対する信頼度によって判断する。長い付き合いで、過去の情報もほとんど間違っていないような人の場合はそのまま信用する。ただし、そのまま書くのではなく、他からの情報とつじつまの合わない部分は再確認します。場合によっては、信頼度50%の情報をわざと日記に書き、先方の反応を見る場合もあります」。》

いまどきのマスコミの現場に共有されている「空気」にうまくなじめるようななにものかを、きっこ姐さんは持っていた。フェミニズムだのジェンダーフリーだのめんどくさい理屈を真正面からこねるほど馬鹿でもなく、といって男に媚びるだけが値打ちでもなさげで、まあ、仕事のできる姐御肌、いろいろあっても一本どっこで世渡りしてゆくオンナの皮をかぶったオヤジ……いや、自立した女性と化しているだろうことは察知できる。仮にこれが秋葉原通いの三十代独身おたく、メイドとパソコンとエロゲーが大好物といった物件だったりした日には、絶対にここまで盛り上がることはなかっただろう。少なくとも、マスコミの現場がここまでちやほやすることはない。キャラクターとしてそういう興奮を誘う要素が「きっこ」にはあった。

《プロフィールを見て真っ先に、男がブログを作成するにあたって創造した仮人格っぽいと思った。バーチャル紀貫之。実際読んだら違う感想になるかもだけど。》

《これは商業誌やTVでは危険で公にできないボツネタを”プロの記者”が匿名性を利用して”きっこ”っていう架空のキャラを作って配信してるブログだ。恐らく複数名いる。こんな情報をヘアメイク(自称)が収集できるわけがない。知識や文章力も記者並みだし。》

《ここだけの話、日記のヌシは、大手マスゴミの大物記者数名です。複数人でなりたっているのに、論調が単調で続けていけるのは、仕切っているのが関係者内で一番『力』があるとされる大物だからです。》

ただ、何度も言うが、仕事ぶりからしてその道のプロの手が加わっているとしか思えない。それが新聞記者なのか、はたまた永田町の政策秘書の類なのか、そのへんはわからない。ただ、情報の整理のされ方や問題の構造を説明してゆくその手さばきは優秀なライター、というより辣腕アンカーの資質を持ったものが必ずかんでいるはず。

《面白い読み物の送り手としてきっこを支持するよ。ちょっと下品でソースも?だけど、別に報道機関じゃないしなw おっと世間で言うところの報道機関の方が下品と言えば下品か。

そんなものから火がついて国会で証人喚問まで行っちゃった所にこの話題の面白さと問題があるんだけどなw》

《きっこを相手にしている時点であいつの勝ちだよ。野暮は言いなさんな。面白がってりゃいいんだよ。隣の席にいますから、どちらさんも一緒に見物しましょうよ。きっこのあげる打ち上げ花火をさ。》