松本竜介=チャボ、逝く

*1松本竜介が逝った。享年四九歳。脳溢血で倒れて一週間ほど。あっけない死だった。いまのお笑いブームではない、かつてのMANZAIブームの頃の紳介・竜介のはじけ方を同時代で見知っている者にとっては、やはりある種の感慨がある。

漫才コンビ紳・竜の当時の姿は、逝去を機にいろいろ放映もされるだろう。だが、芸人松本竜介の本領を垣間見るには、映画『ガキ帝国』(八一年)がベスト。「在日」を等身大で描こうとした、当時としては型破りのフィルムだ。去年、『パッチギ!』で日本アカデミー賞受賞、ようやく本業が陽の目を見たとは言え、近年は単なる辛口コメンテーター化していて、世間の多くはガラの悪い関西弁のヒゲのおっちゃんとしか見ていないだろう井筒和幸監督の、おそらく映画人として最も勢いがあった頃の一本。六〇年代末、大阪の「在日」高校生を中心にした、後の井筒節の原点とも言える青春活劇。紳介もただのツッパリの地金丸出しですがすがしいし、そんな彼との対比で竜介もまた、実にいきいきと輝いている。ラスト近く、最後の大喧嘩に臨んで、「おれ、ほんまな、歌手になりたかってん、若いオンナのコにキャーキャー言われてうまいもん食うて……」と言いつつ、ザ・タイガースの「僕のマリー」をそっと歌い、でも、ふと照れて「……金魚のフンでも歌手ぐらいなれるやろ」とつぶやくシーンが、いやもう、今となっては泣ける泣ける。レンタルショップで見かけたら、ぜひ一度ご覧あれ。竜介追悼の意味でも。

思えば、横山やすし以降、破滅型の関西芸人を地でいった最後のひとり、ということになるのかも知れない。現に相方の紳助自体、その後の世渡りを見ていると、そういうなつかしい芸人のありようからすでにはるか遠い。彼らを売り出した吉本興行もいまや単なるお笑いを超えて、民放メディアを牛耳るまでになった。しかし、竜介は……

そう言えば、『ガキ帝国』でも竜介演じるチャボは、その後、袋叩きで殺される役回り。映画でも紳助は生き残っていた。

*1:「断」欄に書いたら、文化欄での追悼記事に、との返事。井筒がらみの部分その他を手直しして欲しい、とのことで、あわせて少しふくらませた。