ほんとうの仲間意識をこそ

 ニッポン競馬をめぐる「格差」の問題には、ご承知の通り、ふたつの側面があります。ひとつは、JRAと地方競馬の間にある国内「格差」の問題、もうひとつは、そういう国内「格差」をはらんだまま国際化にさらされているニッポンと海外との「格差」の問題、です。

 国内「格差」を解消しようとしない限り、本当の意味での「国際化」はあり得ない――僕はずっとそう主張してきました。外国産馬へのレース開放、外国人騎手の騎乗機会の増加、なるほど大いに結構です。ならば同様に、地方馬や地方騎手に対してもJRAのチャンスを広げることをしてゆくべきですが、残念ながらそれはまだまだ進んでいない。

 騎手については、ある程度風通しがよくなってはきました。かのアンカツ以来、小牧太、赤木、柴山、岩田、と続々とハードルを超えてJRAに移籍する地方騎手が出てきている。今後もまだ増えるでしょう。その一方で、JRAの一部騎手会で、地方騎手の騎乗条件についてハードルを高くしようとする動きがあるようです。本当だとしたら、同じプロのアスリートとして恥ずかしくないのでしょうか。仲間の生活を守るのは正義ですが、しかしその正義もひとりよがりでは本末転倒。そんな動きのターゲットがとりあえず大井の内田博幸騎手なのは、衆目の一致するところでしょうが、彼が大井以下、地元の南関東であれだけ騎乗して結果を出しつつ、さらに制約を乗り越えてJRAで騎乗、そっちでもまたリーディングのトップに顔を出すのですから、文句のつけようがない。同じ土俵で勝負するのが嫌ならば、プロ野球やJリーグのような「外人枠」をつくって外国人騎手と地方騎手は何人まで、と上限を決めればいい。あなたたちの既得権益は守られますよ。でも、間違いなくファンからそっぽを向かれるでしょうけど。

 同様に、地方同士の「格差」も深刻です。移籍はもちろん、単なる期間限定騎乗でさえもなかなか思うようにいかない。内田利雄騎手の挑戦については何度か触れましたが、よそで乗ってみたい、と思っている騎手は他にもたくさんいます。なのに、留守にしている間に自分の乗り馬がとられるんじゃないか、居場所がなくなるんじゃないか、といった目先の心配が先に立って、なかなか動けないのが現実です。厩舎関係者全体が、もっと大きな目と広い視野を持ってもらわないことには、ひとり騎手だけでどうなるものでもありません。

 そんな中、この17日から大井の本村騎手が期間限定で笠松で騎乗することになりました。賞金水準は南関東と比べても五分の一程度ですが、それでも実戦に乗れる機会が増えるならば、というチャレンジ精神は本当にすばらしい。笠松は、見習い騎手以外、基本的にオールカマー。何も地方同士だけじゃなくていい、JRAの若手騎手の中からでも、しばらく地方で武者修行してみたい、という若い衆が出てきたっていいと僕は思っています。そりゃあ収入は減るでしょうが、プロとして本当の意味で「上をめざす」というのならば、何も海外へ出かけてゆくだけが勉強ではないはず。地方ならではの競馬の技術や知恵といったものを身体で知っておくのは、これから先、騎手をやってゆく上で肥やしになるはずです。

 JRAも地方も、まず厩舎の現場からこういう風通しのよさがもっともっと当たり前になってゆくことが、何よりも必要です。ケタ違いの収入を得ているJRAの一流厩舎でも、一着賞金10万円台で歯を食いしばっている地方の小さな競馬場の厩舎でも、同じ競馬、それも同じニッポンという国の中で競馬を稼業とする仲間なんだ、という気持ちを持って欲しい。

 かつては国営も公営も、なんだかんだ言っても同じうまやもん、稼業の上での親しさというものはあったと聞いています。たまたまあいつら国営に行っただけで昔は一緒に競馬やってたんだ、あの頃は地方の方が儲かってたからなあ、俺も移籍しときゃ今頃大もうけだった、と笑う、かつての地方の名調教師たちに、これまで何人も会いました。そういう気持ち、仲間意識ならばもっと持っていい。単なる既得権益を守るためだけの内輪意識など百害あって一益なし、です。