場外発売所の設置が遅々として進みません。北は道営の琴似を始め、岩手の盛岡市内に水沢、笠松の多治見や名古屋の市内大須……パチンコ屋の開業は簡単にできても、場外馬券の発売所はどんなに小さなものでも、おもしろいくらいに「地元の反対」が立ち上がります。それも、環境の悪化、がお約束の反対理由。最近のことですから、主催者のお役人筋がいきなり交渉に乗り出してこじらす古典的なヘマばかりでもなく、民間委託のミニ場外などの新しい試みも計画に入ってはいるのですが、それでもやはり「馬券」=バクチ、のパブリックイメージをタテにした反対屋の牙城は強固で、市議県議から弁護士に市民団体まで動かれての包囲網は、これまでまともに商売をやってこなかった競馬エスタブリッシュメントたちには手に余るようです。
地方大都市圏を背景にした、できれば平日ナイター開催の可能な競馬場への集約、というのが、現在進行中の地方競馬再編計画のひとつの柱。そのためには、ミニ場外を基本にした、民営化場外ネットワークの充実が不可欠で、たとえば、ショッピングモールの一角やコンビニ、郵便局、JA……などにも券売機を設置したり、とにかくこれまでのハコもの系場外ではない、新しい場外発売所イメージでのネットワーク化で、この先、たとえ開催本場に観客が押し寄せずとも、コンテンツとしての競馬をネットワークで「売る」、という発想の転換が最優先案件なのに、このていたらく。ほんとにはたから見ていて歯ぎしりするほど鈍い。
ただ、北はばんえい、道営から岩手、金沢……これまでそのように動きの鈍かった地方競馬の主催者筋が、ここにきてにわかにジタバタし始めてはいます。収支均衡が最優先、赤字を出さない経営のために無理な増収を前提にしない予算案を、だそうで、いまさら何を、とムカっ腹立てるのはぐっと我慢して、そういう当たり前の声が主催者やその上の県庁、県議会などから普通に出るようになってきた、まずはそのことはほめておきましょう。来年度の予算案を出さねばならない時期というだけでなく、懸案の第二次競馬法改正とそれに伴うニッポン競馬の大変動がいよいよ具体的に目の前に迫った、その危機感からようやく競馬エスタブリッシュメントのお役人サマたちも動かざるを得なくなってきた、というところでしょうか。
岩手県の副管理者が「辞任」という報道が流れました。少し前、民間の三井鉱山から鳴り物入りで岩手競馬入りした人物。当初はいろいろと派手なアイデアをぶちあげていましたが、その後笛吹けど踊らずなのか、改革も鳴かず飛ばず。後釜には県から派遣されていた事務局長が就任とのこと。地元の事情の詳細はわかりませんが、一般論として言わせてもらえば、赤字経営で存廃論議まで俎上にのぼり始めている段階で、こういう風に県なら県から直接、競馬場に人が乗り込んでくる時は「最悪の事態」も選択肢として想定してのこと、というのが、これまでの競馬場のつぶされ方からの教訓です。言い方は悪いですが、とにかくあとはやるだけやってみて、ダメなら店じまいまでおまえが面倒みるんだぞ、と、上から因果を含められてきている場合が多い。もちろん、正面から問い詰めたところでそんなことは絶対に認めないのがお役人ですが、希代のバカ市長の独断専行の犠牲になった中津はともかく、それ以外のあそこも、あそこも、ああ、そう言えば最後にはだいたいそんな感じの人事をやってきてたよなあ、と、僕は遠い目をするばかりです。
第二次の競馬法改正案は来春の通常国会にが提出される、と言われています。大枠についてはこれまで漏れ聞こえてきているところでは、地方競馬については、地全協の解体と開催権も握ったJRAスタイルの新たな主催者組織の編成、大都市圏のできれば平日ナイター競馬が可能な競馬場を中核とした開催場の集約&再編、場外発売システムの充実とインターネット販売も含めた相互連携の強化、馬主資格の緩和や競走馬資源の相互利用……などなど、これまでやりたくても個々の主催者レベルではやれなかった抜本的改革のアイデアが盛り込まれていて、各論はともかく、総論としては地方のみならず、ニッポン競馬の今後を考える上でまずやらねばならない方向性というのは見えている。その具体的な中身について、いよいよこれから最終的にもんで形にするべき時期に来て、それぞれの主催者がどう腹をくくっているのか、いろいろとヒアリングや打診などがこれから暮れにかけて、盛んに行われるでしょう。
ナイター可能な大都市圏の通年開催の競馬場、大いに結構。平日アフター5の健全なレジャーへのシフトは時代の必然、地方競馬にとっては遅すぎた進路変更です。また、今の地方競馬の窮状では、お役人的合理主義からすれば、競馬の開催なんかせずとも、場外発売だけできたらいいじゃないか、という判断も出てくるでしょう。競馬場によってはそうならざるを得ないケースもあるでしょうが、ただ、ひとつ声を大にして言いたいのは、たとえ通年開催でなくてもいい、年に何ヶ月かでも、実際に競馬場で馬が走り、お祭りのにぎわいで競馬を楽しめる経験が失われた地方では、いくらきれいな場外発売施設をつくり、ネットや携帯で馬券が買えるようになっても、絶対に売り上げは伸びないし、中期的には競馬自体すたれてゆく、このことです。普段はトレセンや外厩みたいな、あるいは馬のいる場外発売所みたいな形になっていても、年に何回か、あるいはふた月に一回くらいは実際に競馬が開催される、そんな小さな競馬場がいくつかサテライトのように、大都市圏の競馬場を支えている――だからこそ、地元で支えるささやかな競馬場の必要、というのを僕はずっと言い続けてきました。今の地方競馬をもとに、そんな小さな競馬の未来像を模索する、それがおそらく世界に通用する競馬、文化としての競馬も含めたニッポン競馬の底辺を支えてゆくための最短距離だと信じています。