「地方競馬改革」のための、今がラスト・チャンス

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1. 競馬議連の活動

 私が幹事長を仰せつかっている競馬議連は、平成14年12月に地方競馬立て直しを主な目的にして、青木幹雄幹事長のもと、橋本聖子議員らとともに立ち上げたものです。その背景には、地方競馬の売り上げが平成3年度をピークに減少傾向を続ける中、平成13年の中津競馬を始めとして、各地の地方競馬の廃止が続いたため、このままでは日本競馬から地方競馬がなくなってしまうという危機感がありました。

 私たち競馬議連の最初の大きな取り組みは、平成16年6月の競馬法改正(第一次)でした。この間、競馬議連はのべ11回の会合を重ねる一方で、各地の地方競馬関係者のヒヤリングを行い、現場の要望や意見をくみあげると共に、全国の地方競馬場全てに足を運び、各地の主催者による競馬施行の実態もつぶさに検証してきました。この時の改正競馬法は17年1月から施行されていますが、その中身は、馬券の発売など競馬の開催・運営に関わる業務の民間委託の推進、各主催者間の協力・連携の推進、が大きな柱になっていました。


2.地方競馬の現状

 けれども、競馬議連が発足し、改正競馬法が施行されるまでの間に、非常に残念ながらさらに三つの地方競馬が廃止を表明しました。

 現行の競馬法は、戦後に制定されて以降、時代の変化に即した抜本的な改正を行わないまま、言わばガチガチの規制の下で、ただ「地方競馬の主催者はもっと努力すべきだ」とだけ叱咤していたところがあります。それは確かに気の毒な話ではあったわけで、そういう意味で、私たちが手がけた改正競馬法は、戦後の日本競馬において五十年ぶりの大改正であり、主催者に自ら収支改善をできるツールを用意することによって、それぞれの主催者が互いに手をとりあい、連携してゆくことに知恵を出しながら、自らの意志と意欲によって主体的に地方競馬の改革に取り組めるような環境を準備することを、意図したものでした。

 そもそも地方競馬事業は、各地方公共団体が財政収支を確保するために、それぞれの地域住民の意思を代表する議会・主張の判断により実施されているものです。ですから、その存廃についても最終的にはそれぞれの地方公共団体の判断に従わざるを得ませんが、しかし、地方競馬事業が好調の時には、その黒字分から多額の地方財政への貢献が長年にわたって行われてきたのは事実であり、ここにきて近年、単年度収支が赤字になったからという説明だけで、地方競馬事業がただ廃止されてゆくのは、誠に残念でなりません。

 いずれにしても、現在の厳しい環境の中で引き続き競馬事業を継続している各主催者は、それぞれよく頑張っている、と思います。と同時に、改正競馬法を活用してさまざまな取り組みも行っている。また、現場の厩舎関係者もそのような主催者に、賞典費や出走手当の削減などに応じて、血の出るような努力で協力しています。これらの点については深く敬意を表するところです。

 最近の地方競馬の状況を見ると、平成16年度は全ての主催者が赤字で推移していたのが、17年度には三主催者が黒字に転換しています。これは、場間場外発売の拡大、電話投票方式へのネットバンクシステム(馬券のいわゆるネット販売)の導入、不採算日の削減や再編など、いろいろな経営改善の取り組みが行われた結果だと察します。



3.課 題

 地方競馬事業の改善のためには、売り上げの拡大が必要なことは言うまでもありません。しかし、ファンのふところ具合を無視して、ただレース数を増やして売り上げ増を目指すといっても限界があります。その一方で、競馬場によっては一着賞金が10万円から15万円程度にまで減ってしまっている現状では、現場の厩舎関係者――調教師や騎手、厩務員など、競馬を仕事として生活している人たちがこの先、安心して食べてゆけるか、という深刻な問題もあります。このような現状ですから、地方競馬の主催者には、さらにいまいちど冷静な眼で自らの経費構造を厳しく見直し、慣習的に放置されてきた無駄な経費の削減や、不採算レースの縮小、再編などを行い、1レースあたりの売り上げに努力し、賞金や手当を引き上げる努力を強く求めるところです。

 いずれにしても、現在の地方競馬の状況を見ますと、一昨年に半世紀ぶりに競馬法を改正した時にイメージしたような収支改善の効果が見られておらず、当初考えていた地方競馬の抜本的な構造改革からは正直、ほど遠い現状だ、と言わざるを得ません。

 地方競馬をそれぞれ個別の主催者、競馬場ごとの単発の興行として見るのでなく、16主催者全体でトータルの地方競馬としてとらえて、これを振興・発展させてゆける環境を整える諸施策――

1.開催日程を調整してレースの供給過剰を解消する、


2.限られた商圏(縄張り)の殻を破り、場間場外発売を相互に推進して地方競馬の全国的な発売網を整備する、


3.そのために、現行複数のシステムが併存している勝馬投票集計システム(トータリゼータシステム)を、全国的に共通のものに一本化する、


4.競走馬、騎手など、競馬を運営してゆく上での基本的な競走資源も、これまでの枠組みや慣習にとらわれずに全国で共通化する、


5.これらにより地方競馬全体として、馬齢、牡牝、距離に応じた、統一的でストーリー性に富んだ魅力ある競馬番組の提供を包括的に行う

――このような抜本的な取り組みを私たち競馬議連は期待していたのですが、残念ながら、依然として進んでいないのが現状です。前回の改正競馬法施行後二年弱を経た現在でも、地方競馬は未だに個別の主催者ごとの旧態依然の開催携帯から脱却できておらず、地方競馬全体の構造改革という取り組みは空振りに終わっていると言わざるを得ません。その結果、多くの主催者で事業収支の改善が進まず、さらに厳しくなっている経営環境の中で四苦八苦している、というのが現実ではないでしょうか。

 前回の競馬法改正で、私たち競馬議連としては、主催者の収支改善を図るためのツールはある程度用意できた、と自負していたのですが、なぜ、このような停滞した状況が続いているのでしょうか。

 ひとつ、私たちに盲点があったとすれば、それは結局、主催者まかせでは改革は進まなかった、ということでしょう。それぞれの主催者は、自らの競馬事業というそれまでの狭い視点や枠組みから自分の力で脱皮することができかなった。もちろん、それは地方競馬の宿命として、施行権開催権が独立していて、収支決算も基本的にそれぞれの主催者に帰属し、さらに主催者ごとに競馬議会や委員会、厩舎関係者から馬主会などを独自に抱える形になっていて、加えて構成団体の議会も控え、ひとつの主催者が独自に機動的に動けなかったという事情はあるでしょう。けれども、全ての主催者がそれら関係者を説得してでも、先の競馬法改正の理念である地方競馬相互の連携、競馬資源の共有に努力し、何よりもファンが望むおもしろい地方競馬の実現に向けて、真に努力してきたと言えるでしょうか。結局のところ、現状に甘んじてはいなかったでしょうか。
 たとえば、開催日程ひとつをとっても、競馬運営の根幹ということでその決定は各主催者が自己中心的・自己完結的に行い、議論すること自体がタブー視され、自らの開催による目先の利益だけを優先する傾向はなかったでしょうか。個別に厩舎関係者を抱えていることで、開催日数削減に反発が強く、自開催にことさら固執する傾向はなかったでしょうか。
 地方競馬の主催者はもちろん、厩舎関係者、馬主等、関係各方面には猛省を促したいと思います。



4.改革の方向は?

 このような地方競馬の再生のためには、競馬サークル全体で関係者が一丸となって自ら改革を断行すること、これしかありません。また、それを促すのが前回の競馬法改正の目的でした。

 けれども、現状はどうでしょうか。先に述べた通り、競馬法改正時に私たちが想定したような方向に事態が展開しなかったのは、なぜか。いま、競馬の構造改革の動きが鈍い状況を見るにつけ、次の新たな改革を目指す上でも、いまいちど、現在の地方競馬の置かれている状況を大局的にしっかり認識し、課題を整理する必要があると思います。

 改めて繰り返しますが、いまの地方競馬の抱えるている課題は、おおむね次の三点に集約できると思われます。

1.主催者ごとに旧態依然として自己完結型の開催形態のままで、開催日程が競馬事業経営の根幹であるという硬直した考え方を背景に、自己中心的・自己完結的でかつ、自らの開催による利益だけを優先する傾向にあったこと。



2.このような個別の主催者の利害を乗り越えて、地方競馬のサークル全体があたかもひとつの有機体、経営体として大局的な見地から総合的な戦略を練り上げ、中長期的な将来の展望を持って競馬事業を展開してゆくためのヘッドクォーター(司令部)的な機能が欠如していたこと。


3.そして、このような方向に向かって各地方競馬主催者を誘導・支援してゆくツールも、使い勝手が悪く、結局のところ各主催者がバラバラに、個別的に孤立したまま競馬事業を続けてゆかざるを得なくなっていたこと。

 したがって、これら三つの大きな課題を早急に克服し、真に抜本的な地方競馬改革を実現するための環境整備を行うことが、次なる競馬法改正に課された使命であると、私たちは認識しています。



5.地方競馬改革の基本的視点

 私は、競馬議連の事務局長である橋本聖子議員と共に全国の地方競馬場を訪れ、現場の皆さんと意見交換を重ねてきました。これらを通して私は、前編で述べたような、今、地方競馬が抱えている三つの課題の解決のためには、次のことが必要であるとの結論に至りました。

1.主催者ごとの障壁を破るための地方競馬関係者の意識改革、特に地方競馬全体を視野に入れながら自分たちの競馬を考える、という視点の確立と共有。


2.地方競馬サークル全体わ望ましい将来方向に導くための、地方競馬関係者全体からなる、ヘッドクォーター(司令部)機能を持った協力な指導推進機関の創設。


3.そして、これらを誘導・支援するツールとしての地方競馬連携・活性化事業の立案と実現化。

 一方で、政府は昨年末、特殊法人改革の一環として、地方競馬全国協会(NAR)の改革の方向を明らかにしました。これは、現在のNARを解体して、全ての地方競馬主催者が参画して主体的に運営する新たな法人(地方共同法人)を立ち上げることによって、現在の地方競馬に最も不足しており、前回の改正競馬法(第一次)がうまくその本来の趣旨を活かせるようにならなかった要因のひとつである「強いリーダーシップ」を、この新たな法人に与えようとする意図を持ったものです。

 言うまでもなく、NARは地方競馬の馬主、調教師や騎手の登録、免許などの公正確保に携わる組織ですが、これが国の特殊法人であるために、お上の眼が常に光っていて、各主催者がこうして欲しいと思うことや、地方競馬全体にとってこうした方がいいと思うこと、などを機動的に実施に移すことができませんでした。

 そこで、各主催者が自ら集まって、競馬サークルやジャーナリズムなど各方面に有識者などの意見も聞きながら、この新しい法人を運営してゆくようにしたいと思います。これにはもろちん、主催者としての責任もつきまといますし、そもそも誰がリーダーシップをとるのか、という問題もあります。そこで、主催者の代表・責任者が集まって地方競馬についての方針の根本を決められるような責任ある機関をその新法人の内部に設けて、その機関のトップは、それぞれの競馬事業の利害にとらわれず、常に地方競馬全体の利益を考えて決断できるようにしたい。言わば、地方競馬コミッショナー、チェアマンといったものにしてゆく必要があります。この機関の構成員は首長を中心とした政治家であり、政治家として責任をもって、地方競馬全体の視点から判断をくだしてもらうようにしていただきたい。もしも、ここでも今までのようにそれぞれの主催者の利害にもとづいた我田引水の議論ばかりが行われ、何も決まらないままの状況がズルズル続くようならば、申し訳ないけれども日本競馬の中で地方競馬の将来はないと言っていいでしょう。

 これら主催者側からの真剣な努力が行われるのであれば、国としても、これまでのような地方競馬連携事業の支援策では不十分であり、またこれまでの制度の使い勝手の悪い部分をさらに拡充・改善し、地方競馬全体としての連携・活性化を実現する上で必要てなる困難な利害調整に見合うだけの支援策も、具体的かつ早急に準備しようと思っています。



6.「支援」は「努力」に報いるためのもの

 ただし、この支援策も慈善事業ではありません。その原資は、競馬ファンの投じてくれる尊い馬券発売収入の一部であり、ファンへの説明責任を果たすためにも、地方競馬関係者の自助努力が大前提になります。そういう意味では、やる気のない者やこれまで通りの現状維持を望む者、既得権益固執するような者にとっては、相当な“痛み”を伴うものになるでしょう。

 もちろん、この改革とそれに伴う支援策は、一生懸命に競馬事業をやろう、競馬を仕事として生きてゆこうとする人たちを裏切るようなものであってはなりません。これは私の政治信条でもあります。必死になって競馬をよくしよう、競馬で生活を立ててゆこう、という気持ちで努力をする人が報われる改革を――これが私たち議連の考える地方競馬改革の原点であり、ゴールでもあります。

 この構造改革が進んでゆく中で、いわゆる「負け組」が固定化され、新たなチャレンジが認められないということだけは避けねばなりません。地方競馬の世界で言えば、この構造改革が進む中、頑張っている主催者や厩舎関係者にはできるだけ手を伸ばして存続や連携のための自助努力を支援する、しかし、そのようなやる気のない、ぶらさがっているだけの主催者にまで配る資金はない、ということです。主催者だけではない、現場の厩舎関係者や馬主、関連業者など、競馬を仕事として生活を立ててゆく全ての人たち、サークル全体の必死の自助努力が必要なのです。

 したがって、「累積赤字を議連が、国が何とかしてくれるならば、競馬事業を継続してもいいよ」などと開き直っている主催者がいるとしたら、そのような人々には今すぐ、即時に競馬事業から退場してもらった方がいいでしよう。累積赤字は地方競馬地方財政に長年にわたって貢献してきた時代も含めた、これまでの地方競馬事業の結果です。それを誰かが肩代わりすることはあり得ないし、もしも今なおそう思っている者がいるとしたら、それは政治を甘く見ている、と言わざるを得ません。第三者による累積赤字処理は、モラルハザードの極みであり、放漫経営へのインセンティヴを与えること以外の何物でもありません。これは何も競馬に限ったことではない。こういう意識改革を自らしない、できない者には、どのような形であれ、新たな支援は絶対にないもの、と思っていただきたいところです。




7.競馬サークル全体の意識改革が不可欠

 私は、これまで何度も、競馬サークル全体で協力して自助努力する体制が必要だ、と言ってきました。競馬事業を行ってゆく上で必要な連携・強調体制を作るためには、これまでの慣習や関係いかんを問わず即座に検討のテーブルにつき、具体的な方策を模索し、どんどん協力してゆける体制を作ることが必要です。「いずれどこかの主催者が、公正団体が、国が、そして政治が何とかしてくれるんじゃないか」などという考え方は、この際きれいに捨てていただきたい。何より、地方競馬の主催者は立場としては公務員ですが、競馬事業という興行、ビジネスを経営する経営者であるという自覚を強く持って、そのために必要な改革をすみやかに行うべきでしょう。

 また、主催者以外の地方競馬関係者には、地方競馬主催者が施行権・開催権を持ち、刑法の特例として競馬を行っているからこそ、馬主も調教師も騎手も厩務員も、合法的に競馬ができるのであり、もしも主催者が競馬事業を廃止すればそこでは二度と競馬ができなくなるのだ、という当然のことに、改めて深く思いを致していただきたい。厩舎関係者、馬主等の関係者も、これまでの既得権益やならわし通りの縄張り意識にとらわれていては、結局地盤沈下してゆくだけということに、そろそろ本当に気づいてもらわねばなりません。

 主催者だけでなく、厩舎関係者も馬主も周辺の業者もマスコミも、地方競馬に携わる者全てが協力して、地方競馬そのものの質を高め、レベルをあげてゆくことです。それができないのならば、何よりもまずファンに、お客さんに見捨てられてしまうでしょう。ファンに見捨てられるということは、売り上げがさらにどんどん落ち込んでゆくということです。「地方財政への寄与ができないのならば、競馬事業の役割は終わったのだからただちに競馬から撤退すべき」という厳しい声が世間には一方で存在する、そのことを忘れてはいけません。私自身は必ずしもそうは思いませんが、しかし納税者である住民、特に競馬場のある地元の地域住民にそれなりに納得してもらう、競馬場があってもいいじゃないか、競馬をやっててもいいじゃないか、と思ってもらえるようになる努力も必要です。少なくとも、競馬というのは独立採算が基本の事業であるという原点にもう一度立ち戻って考えるべきであり、どんな支援策もその原点を補助するものでしかない、と腹をくくって覚悟するところから、関係者全体が再出発する必要があると考えます。



8.地方競馬の再チャレンジ

 さて、これまで述べてきたことで、私たちの次の競馬法改正に向けての基本的な心構え、意識改革の必要性などついては理解していただけたと思うので、次に、どのような施策をどのように展開してゆくべきか、について、少し述べてみたいと思いまする

 まず第一に、「競馬番組面での取り組み」についてです。
 地方競馬の連携のためには、競走馬、騎手などの交流が不可欠ですが、そのためには、1.「競走馬の格付け」の共通化、2.「重賞競走格付け」の共通化、の二点が何としても必要になります。いま、そこで行われているレースが、一体どんなレベルの馬により、どの程度の格付けのレースであるのか、日本競馬全体の中でわからないままでは、ファンにとっては馬券の買いようもないし、何よりスポーツとしての愉しみも半減します。

 また、楽しく話題性のある、ストーリー性のある競馬を実現するために、

1. 競走馬に着目すれば、たとえば「二歳新馬」「三歳クラシック」「古馬最強」など、年齢、牡牝などに着目した勝ち上がり方式や、ストーリー性の付与(各場→東西広域→全国、というステップの確立、また、各重賞の勝馬から人気投票により選抜した馬で全国のグランプリレースを実施、など)、交流競走(東西広域交流、全国交流、JRAとの交流、など)などのアイデアが、いくつも考えられます。


2.騎手に着目すれば、たとえば「新人騎手戦」「女性騎手戦」「シニア騎手戦」「各場リーディングジョッキー戦」などが、また騎手同士の交流器用そう(東西交流、全国交流、JRAとの交流など)などのアイデアも考えられます。いずれにしても、前例がない、これまでやっていない、などと言わずにとにかくアイデアを出してみる、ファンの立場に立った番組づくりはそこから始まります。

 何よりも、現状のような、各主催者ごとの自己中心的・自己完結的な競走体系を打破すること、それが必要です。そのために大きく「連携」「共催」が必要になってきます。

 「連携」としては、1.自場の競走馬、騎手のみでのレース編成を改め、連携他場から競走馬、騎手を招聘しやすくする体制に変えてゆく、2.冬季非開催場の馬を三大都市圏の競馬場の競走に積極的に出走させる(たとえば、必要に応じて在厩させる、など)、ことにより、馬の認知度とレースへの関心度の向上を図る、ことなどが考えられます。もちろん、これらを実現するためには競走馬の輸送システムの再編成、コスト削減のための施策が不可欠でしょうが、これらもまた、支援策の中で考慮できる案件だと思います。

 「共催」としては、競艇や競輪など他の公営競技では常識となっていることですが、あるひとつの主催者単独での開催を改め、複数の主催者が共催により競馬を実施したり、集客面、施設面などから見ても、より効率的な競馬施行が可能な競馬場で他の主催者が競馬を実施すること、などが考えられます。これはまだ試案としてイメージにとどまりますが、たとえば、

1.周辺住民との関係などでナイター開催が困難な船橋、浦和での開催数を縮小し、集客が見込める大井、川崎のナイター開催分を増加させる、


2.笠松、荒尾での開催数を縮小し、名古屋・笠松共催競馬を名古屋競馬場で、佐賀・荒尾共催競馬を佐賀競馬場で実施する、といった試みもあり得るのではないでしょうか。


3.これらをさらに推し進めれば、全国の16主催者が共催しての競馬を開催することも可能になるでしょう。

全主催者の共催競馬をある競馬場で開催し、主催場以外の主催者の競馬場、場外発売所などで全国発売を行うわけです。これなどは、現行のJBCをもう少し工夫すれば、すぐにでも実現できそうな気がします。また、今後全ての主催者の参加を求めて、「全国ダービー馬選手権」「全国リーディングジョッキー選手権」「全国女性騎手選手権」などを、全主催者による共催競馬として、全国的なコンテンツとして大々的に発売することも可能になるでしょう。

 第三に、「賭け式、馬券面での取り組み」です。

 競馬における「商品」は馬券です。ひとまず、それ以外の何物でもない。その意味で、ファンに喜んで買ってもらえるような馬券を新規開発して発売することが必要です。まずは、早急に全ての地方競馬主催者に、三連単を導入してもらいたいと思います。

 次に、前回の改正競馬法で可能になった「重勝式の導入」です。いろいろ問題はあるでしょうが、これは射幸心の高いファンのとりこみにきわめて有効であり、当面は全場、全場外での導入は無理だとしても、たとえばネットでだけ発売する、などの案も検討に値するものと思われます。

 さらに、他場で発売された馬券の払い戻しの拡大も大至急、やらねばならない課題でしょう。将来的には全国どこでも発売、払い戻しを行えるようにすることが必要ですが、その前提として、新たな法人による日程調整後の集約化された開催場(おそらく四、五場程度になるでしょうか)の全てのレースを発売、払い戻しできる共同場外を全国に展開してゆくことが考えられます。

 これ以外にも、民営化された郵便局でATM方式により馬券の発売を可能にする、など、アイデア次第ではさまざまなことが可能なはずです。ここでも、前例がない、という言い訳は封印して、自由闊達におもしろい競馬のために何でも提案してゆける雰囲気づくりが何より大切です。

 第四に、「ファンサービス面での取り扱い」、についてです。
 地方競馬で最も遅れているのが、映像情報の提供だと思います。日程を調整して番組の格付けの共通化などが実現すれば、新たな地方競馬によるGⅠレースや全国共催レース、地方競馬グランプリなどを積極的に一般の地上波でテレビ放送してゆくべきです。何より、馬券を全国発売し、ファンに買ってもらうためには映像はもちろん、その他の情報提供と発信は不可欠なこと、言うまでもありません。

 この他にも、地元の民間企業をスポンサーとしたレースの実施やいわゆる冠レースの導入、競馬場施設自体の広告媒体としての活用、競馬非開催日における会議場や展示場、パーティ会場などとしての競馬場施設の活用、などを通じて、競馬と競馬場の認知度をまず地元から高めてゆくことが求められます。もちろん、地元の観光とタイアップできるような、地域の特色を生かした競馬場づくり、地元の産業界、経済界との連携によるイベント開催、なども有効ですし、場合によっては競馬場施設そのものを地域の再開発計画と連動させて、ショッピングモールや総合レジャー施設などとの複合化、といった計画を立案することも歓迎されるでしょう。競馬と競馬場は貴重な文化資産であり、地域に活力を取り戻す重要な媒体であり資産である、という認識が、何よりも競馬関係者から率先して持つことが必要です。

 ここで述べてきたようなことは、私の個人的なアイディアに過ぎないものもありますが、地方競馬サークルの関係者全てが、根本的な意識改革をして、このワンチャンスの「地方競馬再チャレンジ」のために、どんどん声をあげて、百花斉放、さまざまな知恵とアイディアを出し合っていただきたいと思います。

 繰り返しになりますが、このような地方競馬の連携・活性化のアイディアに真剣に取り組もうという主催者、関係者には、従来以上の支援策を用意する準備があります。つまり、先ほどからのようないろいろなアイディアについて、新たに編成される法人を中心としてしっかりとして議論を行ってもらい、全主催者のコンセンサスが得られるならば、そのコンセンサスの実現のために必要な日程調整、番組編成、各種施設の整備などに大胆な支援策を準備するつもりです。また、これまでのように各主催者任せにせず、新法人自らがリーダーシップをとり、民間活力を存分に活用しながら共同利用施設を先導的に整備したり、同じく民間活力を活用した新法人による競馬の受託などについても、支援の対象にしてゆきたいと考えています。

 このような、効率的な競馬の施行・運営を促進する各種支援の拡充、競馬の実施の効率化を通じて地方競馬を大胆に再編してゆくための条件整備を、議連としては今後、精力的に進めてゆきたいと考えています。



9.競馬関係者は今回の地方競馬改革のチャンスを逃すな!
 競馬議連としては、来年の通常国会競馬法改正法案を提出するつもりで、その準備をいま、進めています。今回の改革は、それぞれの主催者が待ったなしの経営改善を余儀なくされる中で、単なる組織の改革や組み替えにとどまらず、日本競馬の今後を見通した中で地方競馬を本当の意味で改革する、できる、その最後のチャンスと位置づけています。

 売り上げが右肩上がりの時代とは違い、競馬を仕事として生きてゆこうと志す関係者が将来の地方競馬を見通して、果たして何を最も重要な課題として掲げるのか。現状を維持して座して死を待つのか、それとも、たとえどのような形になろうとも自らの意志と決断で競馬事業の存続を目指すのか、重点の置き方によってその取り得る手法も変わってきますし、その選択肢は以前よりも広がっているはずです。

 いずれにせよ、現状維持では先細りとなるのは、他ならぬ関係者自身が一番よく、身にしみてご存じのことでしょう。だとすれば、地方競馬の灯を消すまい、仕事の場としての競馬場をむざむざ潰さない、という視点に立てば、おのずと答えは引き出せるはずです。今回の競馬法改正は、まさに最後の、地方競馬改革のチャンスです。競馬に携わる皆さんは、この最後のチャンスを逃さず、地方競馬の、そしてひいては日本競馬の再生へ向けて今こそ一枚岩となって、死に物狂いで頑張っていただきたい。私たち競馬議連はそんな皆さんの頑張りと努力、熱意に対して、全面的に後押しし、支援してゆくことを約束します。

*1:参議院自民党競馬推進議員連盟幹事長」名で出された文書、というか立派なマニフェスト。原本は前後編に分かれていたが、一本化してある。