馬に罪はないのだから…

政財界巻き込んでのライブドアショック、は、余波もなかなかすさまじいようで、未だおさまる気配もありません。ご本尊のホリエモン堀江貴文元社長はもとより、少し前までJRA所属で、今は高知競馬所属の競走馬ホリエモンの去就も、スポーツ紙などにおもしろおかしくとりあげられています。ちょうど、ライブドア本社の強制捜査から逮捕に至る時期には、事前に出走回避したことまでがニュースになりました。JRAでは未勝利ながらも高知移籍後は3勝、その開催でも馬はよく仕上がって、厩舎側でも「勝ち負けやと思う」と言っていたのに諸般の事情で取り消し、というのは、馬にも厩舎にも責任のないことですからちょっと納得いきません。
実は、その高知のホリエモン騒動の直前に、同じ堀江元社長が馬主名義(共同馬主のようですが)に加わっていた川崎競馬所属の馬が二頭、出走取り消し処分を食らっていました。高知の方ばかり大きくとりあげられたのでかすんでしまっていますが、この川崎の二頭は事前の回避でなく、当日いきなりの出走取り消しで、しかもその理由が「公正確保のため」というあまり見慣れない漠然としたものだったので、「あれ? なんなんだろ」と訝っていました。
別に杓子定規な理屈を振り回すつもりはありませんが、あの時点で堀江元社長は容疑者であり、まだ起訴もされておらず、ましてや刑の確定などまだ先のこと。確か起訴されて、裁判で禁固刑以上の刑が確定した時点で馬主資格は剥奪されると聞いていますが、そのものさしに従うならば、「公正確保のため」などというとってつけたような理由であわてて出走取り消し処分を出したのは釈然としない。
仮に、堀江貴文の名前が馬主欄にある馬が出走していたとして、それだけでどうして公正確保上問題になるのでしょうか。そりゃあ、馬主名義から詮索して一般のファンがいらぬ思惑を抱いたりすることはあるかも知れませんが、それはふだんの競馬からいくらでもあること。なにせJRAのテレビCMやポスターのコピーから勝ち馬の「サイン」を読み取るような豪傑が佃煮にするほどひしめくのがいまのニッポン競馬。その程度で公正確保に問題があるというのなら、いまみたいな情報競馬のあり方自体がアウトでしょう。何か他に公正確保に支障があるような理由が具体的にあったのならともかく、少なくとも公表されている情報だけでは、いったい何がいけなかったのか、よくわからないというのが正直なところです。
あとで事情を尋ねてみると、当日、地全協の幹部がじきじきに川崎に赴いて主催者を説得していたとか。さすがに高知までは出張ってこなかったようですが、それでも水面下で何らかの連絡というか関与はあった様子。まあ、高知の方は川崎と違い、厩舎の判断で出走回避という形をとる程度の理性とタテマエはあったようですが、はあ、そうですか、坊主憎けりゃ何とやら、あんたらここぞとばかりに一昨年、ライブドア地方競馬への参入騒動で鼻づら引き回されて右往左往させられた意趣返しですか。さすがにお役人サマはすばらしい、そしてまた、そのすばらしいお役人サマの能書きをそのまま考えなしに垂れ流して紙面をこさえるスポーツ紙以下、わがニッポンの競馬ジャーナリズムってやつも、いや、ほんとにすばらしすぎます。ありがとうございました。
その後ホリエモンは無事に出走、勝利をおさめています。*1堀江元社長は共同馬主名義から抜けたとのことですが、残った名義の馬主さんが「場合によっては(馬の)処分も考える」といった発言をした旨、一部で報道されていたのが気がかりです。彼ホリエモンは今後、競走馬でいる限り「ホリエモン」という名前を背負って走るしかないわけですが、それが果たして競馬にどういう支障を与えるというのでしょうか。仮に堀江元社長の刑が確定して、「ホリエモン」が犯罪者の名前となったとしても、そのことと競走馬の彼ホリエモンの生とはひとまず別のはず。それを言うなら、言わば社長の売名に等しいこの馬名が競走馬名として許可されたことまで、問題にしなければならなくなる。
ハルウララの騒動の時もそうでしたが、ほんとに馬に罪はない。そして、馬は馬主も、厩舎も選べない。だからこそ、競馬を走れる限りは走らせてやる、その気持ちと心意気があってこその競馬なんだ、という最低限の認識を、厩舎はもちろんのこと、主催者も、そしてその上の競馬エスタブリッシュメントのエラいさんたちにも、等しく持ってもらわねばならない、強くそう思います。

*1:脚もとをケアできるようになったことと、ウマ自体やっと固まってきたという感じです。まあ、中央時代はロクにカラダができてなかったようですし、トレーニングセールでそこそこの値段で売買されただけのことはあるな、と。あたしの持ち馬スルガジェントがホリエモンを負かして全国区ワイドショーの映像に映り込んだ、という後日談もありますが(苦笑)