生原稿がまだ売れる?

いまどき、生原稿がまだ売れるとは……そのことの方にまず驚いた。明治大正の文豪ならいざ知らず、現役の現代作家の生原稿、である。ワープロ執筆、ファイル入稿が当たり前になっている昨今、自筆の生原稿にもっともらしく値がつくなんて。ううむ、やはりブンガク幻想とそれに立脚した商売の世界、根深く、かつおそるべし。
村上春樹の生原稿が古書市場に流出、編集者の故安原顕が流出元というので騒ぎになっている一件である。ヤスケンさん自身すでに亡くなっていて、事実関係がいまひとつはっきりしないのだが、もしも編集者が生原稿を売り飛ばしたのならまるでシャレにならない。持ち込まれた方の古書店だってこのご時世、商売厳しいのは言わずもがな。もちろん悪事は悪事で言い訳できないが、ただ、そんなこんなの事情も透けて見えるだけに、ことの善悪とはまた別に、「なぜそんなことをしなくてはならなかったのか、僕にはその理由がわからない」などと猫かぶってみせた村上春樹ってのも、あたし的にはかなり、いけ好かない。そんなもん、誰が考えたってわかるだろ、っての。
かつては映画のフィルムも、コマごとにばらして駄菓子屋などに流す商売があったし、マンガの生原稿もコマにばらしてさばかれた例もある。そのへん、文字原稿とは違う来歴もあるようだが、マンガの生原稿の流出もまた、以前から大問題になっている。メモリやメディアに入ったデータ原稿も、これから先は「生原稿」になるんでしょうか。っていうか、そもそもこういう場合の「生」ってなに?…ああ、ほんとにブンガク、この先タイヘンだわ。