伊藤正徳『太平洋海戦史』

こう見えても昭和三十年代の生まれだぜ、というタンカは、『気分はもう戦争』の好漢ハチマキのもの。同じ心意気はいつも胸の内に秘めている。
戦後民主主義の安定期、あれだけ平和が一番、戦争はいけない、と言っておきながら、一方でわれらガキ共の間じゃ「戦争」は平然と身近だった。少年雑誌の口絵(このもの言いももう懐かしい)じゃ戦艦大和零戦は定番だったし、マンガもアニメも「戦争」が舞台で当たり前。『零戦はやと』や『紫電改のタカ』や『あかつき戦闘隊』や、そんなこんなの“おはなし”と共に、われらガキ共は日々「戦争」を生きていた。ついでに言えばもうひとつは「野球」。オンナのコはいざ知らず、半ズボンのわれらにとってそれらはまさに「教養」ですらあった。
ようやく郊外化し始めていた、しかしまだまわりに肥だめのある小学校のプレハブ校舎の図書館ですり切れるほど読んだのが、伊藤正徳『太平洋海戦史』。いまは光人社MF文庫に入ってる名著の子供向けリメイク版。青い箱入りのシリーズの一冊だったが、その版元ももう忘却の彼方。その後の古本道楽の道行きでもあいにく出会えずじまい。どなたか心当たりのある方がいらっしゃるならこの元本、ご教示いただければありがたい。
小遣いためて初めて買った本が『巨人の星』第八巻と、福井静夫編の写真集『日本の軍艦』。単縦陣で仰角の主砲一斉射の写真にしびれた。不器用が災いしてプラモデルにははまれなかったが、連合艦隊贔屓の戦艦好きは今も変わらない。その他、日下英明『星座の話』と、まだ正方形の妙な版型だった頃の『優駿』(中央競馬会の機関誌だが、今とはまるで別物)とがかわるがわるカバンの中に入ってるという、まあ、けったいな小学生ではありました。
いま、地方競馬に自腹で関わり続けているのも、伊藤さんのように「現場」に誠実に寄り添い続ける「記者」という立場に影響された部分もあったのかな、と思ったりする。「連合艦隊は葬式を出していない」というあの冒頭の一節、紙碑の志が、同じことを近い将来、地方競馬について言わねばならない役回りになりつつあるらしい今、改めて身にしみる。