心意気の大切さ――ばんえい競馬、踏みとどまる

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 ばんえい競馬、土壇場で踏みとどまることができそうです。帯広市長が単独開催を検討と表明、資金面等もソフトバンクの支援が得られる見込み、などが明らかになり、この記事が出る頃にはその具体的内容も少しははっきりしているはずです。

 このばんえい競馬、先月末の岩見沢市の「撤退」宣言以来、ほとんどのメディアで、これで「廃止」確定、と煽られていて、全国紙やテレビなどもそれに同調したこともあり、よその競馬場の「危機」はとにかく鵜の眼鷹の眼で取り沙汰するのが習い性のうまやもんたちのこと、どこに行っても「ばんえい、もうダメみたいだな」と当然のように言われていました。そうでもないよ、現地じゃまだいろいろ存続の可能性が模索されているよ、といくら言っても、でも、新聞に「廃止」って書いてある、テレビでもそう言ってた、と言い返されたりで、何かこちらが脳天気な楽天家みたいに思われてみたり。そりゃまあ、かつての中津以来、「存廃」騒動の競馬場の現場につっかえ棒をして歩くような酔狂を自腹でやってきた手前、そう思われてもしょうがないんですが、それにしても、この「廃止」確定報道の雰囲気にはいささか鼻白みました。

 経緯としては、旭川、北見、帯広、岩見沢の四市による組合で運営されていたのを、累積赤字も増えたので来年度は帯広、岩見沢の二市に縮小、経費を削減して赤字を出さないような経営体制にしよう、と動いていたところ、帯広が提案した来年度の予算案を岩見沢がいきなり拒否して「撤退」表明、一市での存続は難しい、と帯広があらかじめ表明していたこともあって、ならばこれでもう事実上「廃止」、という報道になったということなのでしょうが、一歩踏み込んだところでは、市や組合側から出される公式発表だけをソースにして横並び報道に安心してしまういまどきのメディアの現場の性癖が、今回、ばんえい「廃止」確定報道が蔓延してしまった最大の原因だったと思います。逆に言えば、それほどまでに「廃止」させたい勢力が、一部の市や組合の中に強かった、ということでもあるんでしょうが。

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 岩見沢が「撤退」発言をするのは帯広側も事前に察知していて、実は、岩見沢市の記者会見当日から水面下で単独開催へ向けての動きが具体的に始まっていたようです。最大の問題であるカネについては、来年度最悪で三億程度の赤字が見込まれると言われていたその赤字分をあらかじめ積んだら文句はないんだろう、というわけで、まず馬主会が一億、調騎会も数千万「寄付」する、ということを表明。それ以外にも民間企業からの出資を画策しながら、競馬法改正の流れもにらんだ民間委託も含めた新たな主催者組織の検討など、存続のための条件を洗い出しながら、市長に「単独開催」を言わせるための環境を整えてゆきました。これらの動きの中心にいたのは調騎会。そこに帯広市の農政部や十勝の農協連など地元が協力し、もちろん地域住民からの支援もお願いしながら、とにかくできることは何でもやる姿勢で奔走、「廃止」確定の雰囲気から何とか土俵際で状況をひっくり返せそうなところまで押し戻してきたわけです。

 去年の笠松競馬の「廃止」騒動では、存続に奔走する厩舎関係者に呼応して日高の某牧場主が一億を拠出すると申し出たこともありました。また、二年前の高崎競馬では、まず「廃止」ありきの群馬県側の動きのあまりに鈍いのに業を煮やして、調騎会側が独自に赤字を減らした予算案を作成、最後の土壇場ではなんと「賞金ゼロ」の案まで出したことも。さすがにこれは県側が受け取りを拒否した形でしたが、いずれにせよ、たとえ賞金なんかなくても自分たちで競馬をやってみせるわ、といった現場のうまやもんたちの競馬に賭ける心意気が本当にあるのかどうか、というのは、具体的なゼニカネの算段や各方面への請願や根回しなどとは別に、こういう「存廃」騒動の中で案外大きなファクターになったりするものです。要は現場のやる気、とにかくここで競馬をやって食ってゆきたいんだ、という気持ちを厩舎関係者がどれだけ結集して外へ訴えてゆく態勢になれるかどうか、です。もういいわ、とっとと見舞金もらって廃業するわ、という気持ちの人が多数派になると、どんなにいい条件で支援されてもダメ。どこか「上の方」が助けてくれるんじゃないか、という他力本願もいけません。何もしてくれない主催者や「上の方」なんかなくてもいい、自分たちの競馬は自分たちで何とかやってくんだ、というやんちゃな“熱さ”がまず宿るかどうか、が、絶望的な状況をひっくり返せるかどうかの最初のカギ、なんだとつくづく思います。

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 それに対して、主催者側は、とにかくもう仕事をしたくない、場合によっては年度内で開催打ち切り、自分たちは有給休暇消化して知らぬ顔、を目論んでるフシがありありで、先日、帯広開催が始まった最初の三日間の開催でも、折からの「廃止」確定報道で入場者が増えているのにもかかわらず、馬券の発売窓口を普段から減らして閉じてしまう始末。お客さんから文句が出ていました。「人手がいない」という言い訳だったようですが、その前の北見開催の最後でもかなりの人出で、この帯広開催でもそういう事態は容易に予想できたのに何の手も打っていない。主催者職員の中にも頑張ろうとする人がいたりするのですが、そんなやる気のある人も組織の中では押さえつけられて身動きとれないのがお約束。

 「もうふた月ほど、まともに眠れてないんだよ。厩舎は若い衆に任せっきり。“センセイ、今は競馬より競馬場残す仕事の方が大事だから、馬は自分たちに任せて頑張って”って言ってくれるから、こうやって走り回ってるけど、ああ、ほんとに存続が決まって馬のことだけ考えられるように早くなりたいわ」

 やつれた顔でそう言う調教師の競馬に賭ける心意気の何分の一かでも、主催者にも共に宿るような競馬と競馬場を早く、現実のものにしないと、です。

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