「国際化」の待ったなし

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 暮れににわかに勃発した、大井の「カク外」導入問題、日を追うにつれて大きな反響というか、反発を呼んでいるようです。

 まず、当の大井の主催者側自体、生産者団体がこうまで強硬に反対を表明してくるとは思ってなかったフシがあります。南関東四場の他の主催者、船橋や川崎、浦和なども、事前に連絡や相談など受けていなかったようで、正直困惑気味。まあ、ふだんから番組の細かな改変なども、結構大井の独断専行気味のところはあったわけですが、それでも今回のこの一件はほぼ寝耳に水、しかも四場揃ってでなくとりあえず大井だけ単独で、というのですから、これまでの南関東の慣例からしてもちょっとヘン、です。

 未確認ですが、すでに「カク外」を何頭か購入してしまっている馬主もいるとか。ということは当然、売った側もいるわけで、国内で走っている競走馬ではなく海外の現役ですから、おいそれと馬主自身が出かけて物色したとも思いにくい。まず既成事実を作っておいて強引にルールを変えさせる、という手口そのものも、なんというか、あまりお行儀のいいものじゃないわけで、生産地のみならず、これはどういう背景があってのことなんだ、といった憶測がさまざまに飛び交っているのも無理のないところがあります。

 とは言え、今回の一件の是非とは別に、そもそもJRAが念願の(何のための、かよくわからないんですが)パートⅠに昇格することで、こういう事態も早晩現実の問題になってくるだろう、ということは当然、想定されたはずです。ここ数年、くすぶっているJRAの外国人馬主の認可問題も同じで、要は競馬の「国際化」とは、そういうことを全部ひっくるめて引き受ける覚悟があるのかどうか、ということでもある。自分たちが外国に出てゆく時だけ「国際化」を標榜しておきながら、逆に向こうから日本の市場に入ろうとするのは妨げる、というのではスジが通りません。水面下では、すでに海外の大手馬主の繁殖牝馬を預かる国内の牧場も出てきていて、それらの中には逆に日本の種牡馬をつけて返す動きも始まっています。当座は、生まれた馬を日本で走らせるわけではないので、大きな問題にはなっていませんが、でも今後、外国人馬主が許可されるようなことがあれば、それら大手馬主も日本の競馬市場に参入してき得る。まして、これだけ国内の牧場経営が逼迫してきていると、たとえ相手が外国人であっても、とにかく経営を安定させるためならなりふり構っていられない、という現実もあります。まなじり決して「カク外」反対、とやってみせた生産者たちの中でも、太いダンナがやってきてくれるならガイジンでも構わんべさ、というもうひとつのホンネも見え隠れしている。ことは単に大井だけの問題ではない、根深い広がりを持っていると思います。

 一方、これは幸いにしてあまり大きなニュースになっていないようですが、福山と笠松で立て続けに禁止薬物が検出されました。福山の方は、なんとモルヒネ。僕の知る限り、これまでこの手の禁止薬物事件でモルヒネが出たことはほとんどないはず。笠松のケースも市販の風邪薬に入っているような成分とかで、どちらも厩舎関係者は全く覚えなし。このタイミングでのこういう事件に、地元でも正直、首をかしげています。かのディープインパクトの例を引き合いに出すのはおこがましいですが、国内でもこの種の事件は混入経路などはっきりしないまま、というのがお約束。結局、「また、クスリが出た」ということ自体がニュースとしてひとり歩きして、やっぱり(地方)競馬はあやしい、ダーティーな競馬だ、といった未だ世間の側に根強くある「八百長」がらみのイメージを自動的に補強してゆくように働くのがせいぜいです。

 どちらも、他場に比べて、再生立て直しの努力をまだ頑張ってやってきている競馬場ですが、競馬エスタブリッシュメントの側からは、「もっと早くつぶれると思ってたのに、しぶとく残ってるんですよねえ」などと心ない陰口を叩かれてもいる、言わば「整理対象銘柄」。何とか黒字を出した分、年度内でも賞金や手当てをわずかながら上積みしたり、と、図体の小さい分小回りのきく利点を生かして綱渡りしている最中に、こんな事件が飛び出すのは、いやもう、ほんとにあやしいです、いろんな意味で。

 大真面目な話、競馬にとって重要なはずの「公正確保」というタテマエが、「戦後」のニッポン競馬において果たして何によって担保されてきたのか、について、いま、こういう状況だからこそ、もう一度静かに考えてみる必要があると、僕は思っています。

 たとえば、どの地方競馬でも競馬事業を監査する委員会がある。多くの場合、県や市の議員さんや「有識者」(これが実に曲者なんですが)によって構成される。でも、その中に競馬についてよく知る人はあまりいない。いや、はっきり言って皆無の場合すらある。預託料と賞金、出走手当の関係、厩務員と騎手、調教師の関係、などなど、競馬を実際に運営しまわしてゆく仕組みについてごく基本的な理解すらないまま議事だけが進んでゆく。帳簿上赤字が出ていなければ、誰もその数字の背後を詮索しようとしない。だから、売り上げから控除率25%でぶんどった、その経費の中身が果たして妥当なのか、「健全な競馬運営」がされているのか、野放しにされてきたところがあります。だから、自治体の裏ガネその他の財源にされたり、いまこういう状況になっても自分たちの手で経営改善ができない、と。

 それほどまでに競馬事業は儲かった、ということです。当たり前です。25%のテラ銭かっぱらってきたんですから。かつてのヤクザのシノギはテラ銭三分。それでも蔵が建つ、と言われたのが胴元です。その八倍以上とっていながら赤字でござい、と居直り、その責任をとろうとしない、そんな主催者はもういらない。何かというと悪者にされてきた、そんな構造の中で生きている厩舎の側から、そういう認識をしっかり持とうとすることが求められている。でないと、妙な「禁止薬物」はまだいくらでも出てくるかも知れませんよ。

*1:*差し替えた原稿です。後半イタリック部分は前の草稿を生かしてますが。元原稿はid:king-biscuit20070212