岩手競馬への「提言」

 周知の通り、岩手競馬が年度末になって大騒ぎになりました。

 とにかく、地方競馬でもケタ違いの累積三百億になんなんとする赤字をどうするか、岩手県奥州市盛岡市で分担するという案を議会が否決、増田知事も「万策尽きた」と吐露して万事休す、だったのを、奥州市盛岡市の有志議員が中心になって、がさらに十億ずつ積んで県の負担分を何とか面倒見るからもう一度審議を、という流れに持ち込んで、いわば土俵際、徳俵に足かけたところで何とか踏ん張った、という形です。

 とは言え、新年度に向けて具体的にどうしてゆくのか、単年度で赤字が続く経営をどういう風に変えてゆくのか、その具体案が何も出ていないのでは、早晩数ヶ月でまた「存廃」議論になるのは必定。何より、この年度末にきての大騒ぎのさなかに、肝心の競馬組合の姿がほとんど見えなかったのが不審でしたし、さらに言わせてもらえば、厩舎関係者の声さえももあまり聞こえてこないままだった。これは一体どういうことでしょうか。

 地元紙の岩手日報が全面的に敵にまわっている、民主党の牙城と言われていながら、その民主党の県連内部でも競馬については温度差があってまとまらなかった、さらに増田知事が今度の選挙に不出馬を早くから宣言していた「死に体」だった……などなど、悪条件が重なっていたのはわかりますし、またそんな逆風の中で、いろいろ奔走した人たちも地元にいる、もちろんそれらもよく知っています。けれども、結局は問題先送りのまま、形だけ「存続」になった今、ここは敢えてそんな岩手競馬に、僭越ながら提言を。

1.まず、組合職員の数を減らし、残った職員の給与も大幅に、わかりやすく削減すること。売り上げが下がったとは言いながら、それでもまだ開催日ごとに二億程度は売っているのが岩手競馬。せめて他の競馬場並みの経営努力をすれば、少なくとも赤字になることはないのは明らかです。お手軽に賞金や手当てだけ削るのでなく、人件費その他、周辺業者との契約条件など、良くも悪くも不透明なままやってきた部分をこの際、全部徹底的に見直しましょう。自ら血を流して競馬をもう一度儲かるようにしてゆく覚悟、それをまず、主催者自ら見せてください。

 

2.開催については、盛岡と水沢の二場開催体制をひとまず見直す。売り上げや輸送経費などを考慮すれば、ここはとりあえず水沢だけに絞って経費を削減するのが合理的だと思いますが、いかがでしょう。

 

3.その上で、向こう半年、できれば三ヶ月単位でこれだけ赤字を減らせます、という具体的な数字を含んだ独自の予算案を示す。それがないままでは、土壇場で二十億も追加負担することで何とか存続に持ち込んだ、地元奥州市盛岡市の市民が納得しない。競馬に関わる人間はみんなこれだけ頑張って辛抱しますから、今は何とか競馬をやらせて欲しい、という姿勢を、まず地元に対して具体的に見せることです。

 

4.あわせて、まず夏場に向けて何か目新しい施策を打ち出す。いきなりナイターとまで言いませんが、せめて薄暮競馬くらいはさっそくぶちあげないことには「一度つぶれかかった競馬」にファンをつなぎとめるのは困難です。どんな些細なアイデアでもいい、「前例がない」などと言う暇があれば、前向きにやろうとしてみることですし、そういう姿勢こそが最大の宣伝になります。

 

5.南部杯その他、「カネ食い虫」の交流重賞の見直しも必要です。JRAとの交流重賞がいまや経費ばかりかかって実質儲けが出ないのは、どこの地方競馬も同じこと。高知の黒船賞が三億六千万も売って、なお単年度赤字にしかならなかったのを始め、苦しい台所事情からなお持ち出しで馬場を貸すだけ、という「交流」など、意義はともかく、今のこの状況ではぜひとも見直すべきです。岩手の場合、GⅠが複数ありますから難しいかも知れませんが、それでも賞金その他、採算をしっかり見直した上でやらないとただの無駄使い。多少お客さんが入ってメディアに取りざたされたところで、何の意味もありません。

 

6.そして、全般的な方針として、「若者と女性」にばかり眼を向けてメディアや広告代理店に丸投げの広報宣伝に偏った、イベント性重視のうわついた経営風土を改めましょう。何も岩手に限ったことではない。水沢のように、とにかく開催日になれば軽トラックや自転車でかけつけてくれるおおむね年配の、古くからの地元のオヤジさんたちをまず固定客=「お得意さん」として大事にしなくなった、その姿勢が近年の地方競馬の衰退の、実は隠れた原因のひとつだと僕は見ています。大井など大都市圏の競馬場は別にして、多くの地方競馬はなんだかんだ言っても結局、今でもそんな「お得意さん」が中核。新しいファン層の開拓はもちろん重要ですが、しかしそれもそういう「お得意さん」を大切にしてしのぎながらやってゆくべきことのはずです。苦しい台所事情からタレントを呼んだり、派手な宣伝のイベント競馬で煽ったところで、どだい基礎体力もなければ、そのためのスキルの蓄積もないままでは、ただの田舎の文化祭にしかならない。これは一時期、地方競馬がみんな、誰もがJRAみたいになれると勘違いしてしまった、その弊害です。いま、こういう状況だからこそ、自分たちの経営基盤を見直して身の丈にあったやり方でこの激動期を乗り切ろうとすること、道はそこにしかありません。

 

7.それらを実行するためには、いまの組合による経営ではダメです。それこそ馬主から現場の厩舎関係者、装蹄師や獣医その他、関連の業者を始め、地元の競馬議員や民間の第三者なども広く含めた幅広い人材が同じテーブルについた、「開かれた」経営体制に改める。奇しくもばんえい競馬も苦しみながら何とかやろうとしている「民営化競馬」の方向ですが、今回のこの騒動を逆手にとってそちらへ一気に舵を切ることができるのならば、かつて言われたような「地方競馬の優等生」の名前もまた復活すること、間違いありません。

 以上、勝手な提言ですが、もしもいいと思えばどんどん、死にもの狂いでやってみてください。かつての寿賞みたいなイキなレースを組んでくれる、そんな岩手競馬がまた見られるならば、それが何より一番うれしいことです。