草ばん馬の愉快

 ばんえい競馬、頑張ってるようです。全体の売り上げはともかく、ネットや携帯での売り上げ比率は伸びているようですし、入場人員は間違いなく増えている。これまでは地元に住んでいてもおそらく競馬場に足向けることのなかったような若いカップルやおばさんたちが眼立ちます。何より、一日平均一億近く売り上げて帳簿上は黒字にしているのも、いまどきの地方競馬の気息奄々の中では、やはりお手柄です。

 また、競馬場を地元に認知してもらおうという努力も、「民営化」の効果もあり、身軽にいろいろやっています。先日などは、藤田や安藤勝、横山典、四位などJRAの現役騎手六人が帯広競馬場に来場、アトラクションとしてばん馬に騎乗してやんやの喝采を浴びていました。同じ馬とは言え、平地のサラブレッドとはまるで違うばん馬にパドックからまたがり、実際にそりに乗って(現役のばんえい騎手が同乗はしていましたが)レースまでやってのけたわけで、馬券を売れないので売り上げには関係ないものの、ファンが素直に喜び、それ以上に乗っていた当の騎手たちがまるで子どもみたいな顔で「いやあ、楽しかったなあ」「また来年もやりたいですね」などと口々に言い合っている、そういう「楽しさ」が全身から伝わってくる、それこそが競馬の原点、身近な運動会のような賑わいと歓声とが開けた視界に響き合う、いい風景でした。思えば、こういう「楽しさ」をふだんの競馬場で味わえなくなった久しいかも、です。

f:id:king-biscuit:20070716175040j:image

 同じく、草ばん馬にも行ってきました。帯広の西北あたり、日勝峠を下りて清水からまっすぐ走って約十キロってところにある鹿追町。道東の草ばん馬は、中標津だの士幌だの別海だの、あちこちで夏場から秋口にかけてやられてるってのは聞いてましたが、中でもここ鹿追のものは賑やかで参加馬も多いという評判だったので、一度は見ておきたいな、と思っていました。

 これまたとてもいい感じでしたねえ。ちょっぴり感動すらした。いや、暮らしの中に馬がいる、ってことを改めて実感したわけで。日常生活からの支持がなくなったことがニッポン競馬衰退の実は隠れた原因だと、僕はかねがね思っていますが、確かにここ北海道のばん馬は未だにそういう暮らしの側からの素朴な支持があるってことを再確認。

 繋駕速歩を眼前で見ることができたのも眼福でした。騎乗技術の維持保存もさることながら、そのソルキー(繋駕の二輪馬車)がちゃんとまだあるのにも最敬礼。トロッター自体、混血含めて国内では珍しくなってるはずで、その体型やソルキーに乗った騎手のカッコよさになんか昔の白黒写真の競馬を見ているような、それこそ『フィールド・オブ・ドリームス』的な、妙な既視感があったりしました。

f:id:king-biscuit:20070722153920j:image

 ポニーの出走馬が多かったのが今年の特徴とか。例年5~60頭程度で推移してたのが今年は80頭以上の出走申し込みがあり、主催者側は対応に忙殺されたようです。ペット的に飼養しやすいというので、それまで重種を飼っていた人とはまた別に新規に参入してきた人が結構いるような話で、確かに言われてみれば、ポニーやミニチュアホースは全国的にも増えているようですし、実際、競馬場でもそれら小型馬の展示やアトラクションなどが急に目立ってきてますし、このへん、何か他にも理由があるのかも、です。

f:id:king-biscuit:20070722135202j:image

 それでも、メインはやっぱり重種の重量曳き。今年は現役の帯広のばんえい馬が参戦して、このへん他地区の平地の草競馬なんかとは違う、道東ならではの鷹揚さかも。やっぱり現役馬は違いました。とにかく大差の圧勝。そりゃあ障害ったってひとつっきりで、それもホンモノのばんえい競馬に比べたら低いものですから、いったん乗り越えたらそのままぶっちぎりでゴールイン。逆に二頭ばかり障害手前で競走中止(リタイア)したのがいたくらいですから、やはり腐っても現役競走馬と草ばん馬の違い、ということでしょう。 良くも悪くも競馬の原点、なわけで、公正確保も何も、全部地元の人たちが手分けしてのてづくり。もちろん、そんなオフィシャル側に文句を言いまくるのは勝負のお約束、どなったりすかしたりいろいろ言われる中で、それでも何とかレースとして、おおかたの納得する「公正」を保つことができるのは「場」として成熟している証拠。「おれたちがいなければ競馬なんかできない」とうそぶきながら、競馬の経営改善のためにろくに動こうともしないそこらの役人根性丸出しな主催者職員などは、一度この「場」のありようを、その「楽しさ」の成り立ちをつぶさに見聞きすることを強くおすすめします。

f:id:king-biscuit:20070722155651j:image

f:id:king-biscuit:20070722155429j:image