馬インフルエンザ騒動、私見

 時ならぬ馬インフルエンザ騒動でこの夏、競馬界は振り回されました。事態は沈静化に向かっているとは言うもの、JRAに限らず地方競馬や馬産地も含めた広がりの中では、まだまだ完全に解決したとは言い難いところがあります。

 専門的なことは獣医さんやそれぞれ担当の専門家に任せるとして、そもそも今回のこのインフルエンザ騒動、言いたくないですが各種メディアがちょっと騒ぎ過ぎ、だと感じています。まして、さかしらに「すみやかに情報を開示せよ」「JRAの民主化を求める」などと聞いた風なことを言うにわか評論家ぶりっこな手合いまで出てくるに至っては、噴飯もの。そんな連中に限って、ふだんからJRAの周辺でおこぼれもらって歩いているわけで、なのにこういう時だけ正義の味方ヅラする厚顔ぶり。JRAに限らず、競馬エスタブリッシュメントの官僚的体質とそれにまつわる不誠実については、辟易すること人後に落ちないこの僕ですら、こと今回のこのインフルエンザ騒動に限れば、マスコミが言いつのったほどJRAの対応に落ち度があるとはちょっと思えません。

 要するにカゼなわけで、ほっといても普通は一週間ほどでおさまるもののはず。もちろん、感染馬が拡大すれば競馬の開催に影響が出るわけですが、でも、熱発がはっきりしていれば厩舎側は出走させないわけですし、主催者だって事前に措置はできる。それを何か禁止薬物でも検出されたり、伝貧のような深刻な伝染病であるかのような報道の仕方でマスコミが煽ってまわったのには、どうも納得いきません。「インフルエンザで予後不良になった馬はいねえよ」とは厩舎の悪態ですが、それでもマスコミであれだけ大々的に報じられれば、ファンはもちろんのこと、他でもない馬主だって不安になる。風評被害とまで言わずとも、競馬のイメージ低下になったことは確かでしょう。

 「こういう言い方したら誤解を招くだろうけど……」と前置きしながら、ある獣医さんが言ってました。

 「マジメくさって全頭検査なんかするから陽性馬が出るんだよ。予防接種はちゃんとしてても、保菌馬がいるのは当たり前なんだから」

 確かに、JRAもさることながら、冗談にならないのは地方競馬です。ただでさえ在籍馬が減ってきて、ということは馬主自体がいなくなって、競馬を継続的に運営してゆくのに必要な頭数が確保できなくなっている。この夏は番組が成り立たなくなる競馬場が出てくるぞ、と以前から警告していましたが、そこへこの猛暑でインフルエンザ騒動です。金沢競馬などは在籍馬の二割ほどに感染が「発覚」、その他の競馬場でもJRAに追随してあわてて検査をしたところには必ずそれなりに陽性馬が出ています。当初、疑惑馬が出た段階で開催中止を速攻で判断した大井は、この手の対応が果敢な主催者なのでそれ自体別段驚きもしなかったのですが、その後この馬は陰性と判明、なのにさらに改めて全頭検査をやったものだから本当に感染陽性馬が結構出てきて結局すったもんだ。さらに、ここは外厩制度を導入してますから、それもからんで後始末はまだ手間取りそうです。

 そんな地方競馬の、ある調教師の言。

 「今年の夏はこの暑さだろ、基礎体力が落ちて発症しちゃう馬がいるのはある意味、しょうがないんだよ。そういう馬は例年いるし、それでも何とか出走できるようにいろいろ努力するのがこっちの仕事で、それじゃないと今の地方競馬じゃ開催そのものが成り立たなくなるだろ。第一、ほんとに具合悪かったら理由が何であれ、競馬使わないんだからさ。そういう、こっちが日常やってる仕事の機微っていうか、現場の事情を主催者がちゃんとわかって動いてくれないと、全部厩舎の管理不行き届きみたいなイメージにされちゃうのは、なんかおかしいよね」

 当初はJRAの問題だったのが、その後、必要以上に地方競馬にまで騒動が波及してしまった。その理由のひとつには、地方の主催者などの「お上に右ならえ」志向が強かったこともあるように、僕は感じています。当初、インフルエンザの検査キットが在庫払底、JRAが全部買い占めたからだ、などと言われて、現に鼻汁をそのままガラス板に塗布して送っていたりしたところもあったようですが、その後すぐに地方競馬や馬産地にもキットが流通し始めた。業者の対応が早かったと言えば、なるほどそうですが、ただ、この種の検査キットはふだんからそんなにたくさん在庫を用意しておくようなものでもないそうで、だとすれば、地方競馬や馬産地に検査を推奨する動きがあったのかも、と勘ぐる向きだって出てきます。

 何より、あまり長引くとそろそろ、馬の移動の季節にもかかってきます。馬産地も他人ごとではない。休養馬でそろそろ競馬場に入る馬などならばともかく、まだ育成途上の若馬などまで検査をするなど普通は思案の外のはず。もっと言えば、競走馬だけでなく乗馬やばん馬、ポニーなどまで馬ならば感染する可能性があるわけで、だとしたら裾野はさらに広がります。競馬法改正にからんだ動きも本格化し始め、ニッポン競馬にとって大事な時期にさしかかっているからなおのこと、競馬マスコミにも共に競馬を支えるだけの「見識」が強く求められています。