ファンの望みはイベントじゃない

 新年度を迎えて、いよいよ本当に瀬戸際の各地方競馬主催者も、さすがに以前よりはジタバタを始めているいるようです。まあ、ことここまで追い込まれないと何か動こうとしているふりのひとつもまともにできないというのは、本当に「お役所競馬」の弊害ここに極まれり、ですが、まず総論としては前向きに見守りたいと思います。

 本紙でも既報の通り、あのホッカイドウ競馬が長年懸案だった新しい主催者体制への移行が正式に決定、来年度からのスタートをめざして今年はその準備に全力を投入するべき大事な時期。なにしろ岩手に次ぐ巨額、百億円以上の累積赤字を抱えているだけに、全てを一気に解決というわけにはいかないのは当然ですが、それでも、これまで各方面から問題点を山ほど指摘されていながら現実的にはほとんど何も動かなかった道庁とそこにからんださまざまな地元のしがらみなどが、今回のこのワンチャンスで本当に変わらざるを得なくなっているのは事実。そして、以前から言っているように、これを全国の地方競馬にとってのひとつの雛型にして、それぞれの地域、主催者ごとに「民営化」の趣旨を最大限活用してゆくことしか、いま、地方競馬にとってできることはありません。

 なのに、というか、それでも、というか、やっぱり長年やってきた手癖というのは一朝一夕で変わるものでもないらしく、個々の主催者の取り組みなどを見聞きするなり、現場で取材したりしていると、ああ、やっぱり「お役所」の気風というのはおいそれと抜けないんだなあ、と嘆息してしまうことも、ままある。

 たとえば、具体的にどことは言いませんが、競馬場のイメージキャラクターにどこぞのタレントをもってきたり、あるいは、一応は客寄せのつもりなのでしょうが、何やらお笑いタレントの「ライブ」と称するイベントを言い訳のようにでっちあげてみたり、まあ、なんというか、いずれ小手先のにぎやかしで何かやったつもりになっている程度の仕事が、ちょっと多すぎやしませんか? ということです。

 あるいは、これは昨今の「お役所」での流行りなのか、それとも「民間」に任せる、というのをどこかで勘違いしてるのか、地元の記者やトラックマンにファンなども一緒くたにした「応援団」みたいなものを立ち上げて、「情報発信」とばかりにブログやサイトをこさえて、でも主催者側の職員はそこに丸投げ、現実には何もせず「点数稼ぎ」になっているだけ、みたいな仕事も目につきます。

 要は、この競馬法改正の流れの中で、いよいよ来年度からは新たな形のふりをしなければならなくなって、だから多少は予算もつけてもらったので、その枠内で何か実績をあげた形にするのは、やっぱり「民間」にお任せするのが一番、芸能プロや広告代理店に投げちまえば予算の枠内でタレントを仕込んでくれるし、マスコミにもウケは悪くないし、何より競馬場のファンなんてその程度で喜んでくれるんじゃないの、といった感じの、上から目線がビンビン感じられる仕事ぶりです。

 目の前のファン、特にそれぞれの競馬場に、場外に実際に足を運んで馬券を買ってくれている「お客さん」のニーズが本当にどのへんにあるのか、それを身体で察知して応えよう、という真摯な気持ちがあったら、こんな横着な仕事ぶりで何かやったふりをするなんてことは、とてもできないはず。少なくとも、僕はそう思います。

 タレント呼んで、イベントやって、おちゃらけでファン参加もやって……あれ、これってどこかで見たような。そう、もうこのところずっと続いている、JRAのゼニカネ任せの広報宣伝戦略の大間違いとまるで同じ方向。キムタクだの何だの、毎年イメージキャラクターを派手に取り替えてみたところで、最近CMがインパクトも話題もなくなっちまってるのは、そういう横着な仕事ぶりで流していることを、すでにほとんどのファンが皮膚感覚で察知しているから、というのが、本当にわかっているのでしょうか。

 JRAの真似をすることで仕事をしたつもりになる、そういう横着の劣化コピーが現場の気分として蔓延している限りは、このギリギリの局面をほんとうにしのいでゆけるような知恵も、「熱さ」も、絶対に出てこないでしょう。

 毎度おなじみあの「どん底」高知競馬は、「夕焼競馬」(ゆうやけいば、と読ませるとか)を導入、要はセミナイターであくまでお試し企画ですが、すでに南国のことで気候もよく、とりあえず滑り出しは悪くない数字になっています。日本一貧乏な競馬場ゆえに、カネをかけずに手間をかけて、何より目の前のファンに応えられる企画しか結果としてできなくなっている、そのことの意味を、他の未だギョーカイ任せ、広告屋頼みの「イベント」しか知恵の出ない競馬場は、全力で反省してみるべきではないでしょうか。