「恵方巻き」考

 コンビニやスーパーの店頭に、太巻きが大きな顔をして並ぶ季節です。「恵方巻」てな名前がつけられていて、一昨年あたりからは事前に予約までとるようになって、何やらクリスマスケーキ並みの扱いに、プラスチック容器の中の太巻きもどこか面映ゆげなたたずまいに。

 バレンタインデーのチョコレートやホワイトデーのキャンディーなどと同じ、商魂たくましい商売人が新たに「発見」した、節分めがけての商戦のひとコマ。ある統計によれば、この恵方巻き市場はすでに推定150億円を超えている由。じゃあ、同じ巻きものならこれも、と一部じゃロールケーキなどにも逆流して、もう何が何やら。まあ、いずれ新しい季節の風物詩、新世紀の都市民俗、といったところではあるようです。

 でもこれ、もとは確か上方の商家の風習。「丸かぶり」といった言い方で、確かに「恵方」に向って商売繁盛、家内安全を願うものではありましたが、でも、そこから派生していわゆる“粋筋”のイベントにもなっていった経緯もあったような。きれいどころの芸者衆があの太巻きを一本丸のまま、眼を白黒させながらほおばる姿が……といった、まあその、贅六の旦那衆のなぐさみになっていた、という次第。だもんで、そんなにおおっぴらに、それもごくふつうの一般家庭の日常に入り込ませちまっていいのかなあ、と思わぬでもない。

 割り食ったのは同じ節分の行事、のはずだった豆まき。豆をばらまくのは環境破壊でエコに反するだの、大声あげるのは近所迷惑だの、いまどきの世間じゃ微妙に違和感もたれ始めていたところに「恵方巻き」は絶好の乗り換えの機会を提供したわけで。ここはひとつ、豆に関わる商売人にも一層奮励努力して欲しいところ、ではあります。