馬主の世代交代は?

 JRAの売り上げ低下に、歯止めがかからないようです。

 ここにきての原油高ももちろん大打撃。JRAの売り上げ規模だとよく見えてこないかも知れませんが、地方競馬レベルだと、原油価格の高騰が始まったあたりから売り上げがガクン、と落ちたのがはっきりわかる由。自営業だったら燃料などが上がった分、自由に使えるカネが減っているわけで、遊びに使える額にしわ寄せが来ているのは理の当然。年金の支払い月になると多少売り上げが伸びて、それで何とかひとごこちつく、そんなささやかな間尺で何とかやりくりして競馬を支えているのがいまや多くの主催者、地方競馬の現実です。

 加えて、それ以前から穀物関係の高騰も続いている。これは厩舎経営を直撃するわけで、馬主の財布にも響く度合いが大きい。さすがにもう馬どころじゃ……という気分になって競馬そのものから撤退する馬主も増えてきています。出資者がいなくなれば厩舎だって苦しくなる、という悪循環がさらに常態に。

 「競馬をめぐる環境はビジネスとして考えれば、さらに泥沼化してますね。地方競馬に限って言えば、短期的な数だけなら新規登録馬主は増えていたりするんですけど、でも、その中身が以前と違う。馬を持ってみたいと思っていただくのはありがたいんですが、安全策なのか、馬主資格を持った人向けのオーナーズクラブなんかに流れがちなのと、何より、淡泊な人が多いような気もしますね」(あるクラブ馬主関係者)

 馬主の世代交代が進んでいないことは、以前から言われています。二十代とは言わずとも、三十代四十代の世代でさえなかなか台頭してこない。どこの馬主会も高齢化が目立ち、その分やっていることは旧態依然、ひと昔前のルーティンをなぞるばかりで、いま、競馬がどのような状況に置かれているのか、その中で馬主という立場でやるべきことは何か、といった大所高所からの議論などまず出てきようがない。現場の調騎会の方はそれでも多少は改革の動きも出てきていますが、こと馬主会に関してはおおむね時間が止まったままです。

 「いま、新規に馬主になっている三十代あたりの方は、少し前、競馬がブームと言われ、若い世代を中心に盛り上がった時期に競馬に興味を持つようになった人が多い。その意味じゃ、かつての競馬ブームの最後の貴重な果実なんですね。これから先、いまの十代二十代はもうそれまでの世代のように競馬に興味を持ってくれないことは確かで、そうなると馬主になりたいと思う人たちだって今後、絶対的に少なくなってくる。その意味じゃ、今が馬主を新たに開拓してゆく最後のチャンスかも知れないんですよ」(前記、関係者)

 なのに、数年つきあってはあっさりと身を引く、そんな人が目立つと言います。一時期は熱くなって、いろいろ動き回っても、じきにさめて見向きもしなくなる。別に競馬に限らず「趣味」や「道楽」のありかた自体がそうなってきている、そういう時代なのかも知れませんが、しかし競馬という業界そのものにとっては大問題。

 何より、厩舎の側も淡泊だったりする。経営基盤そのものが揺らいでいるから、馬主を育てるという意識を持つような余裕がなくなっている。とりあえず馬を入れてくれて、カネを使ってくれるだけでも奇跡のようなもので、そこから先、長いつきあいを、などとはとても言いにくい。当座をしのいでゆくだけで精一杯。

 「だって、今の賞金や手当で、社長、馬買いましょうよ、って言える? 言えないよ。そんなの、損しましょうよ、って言うのと同じでしょ。嘘でも何か夢を見られるような材料が競馬にないと、われわれも営業ができないんだよねえ」(ある地方競馬の調教師)

 そんな状況の中、ばんえい競馬の馬たちが内地の小さな競馬場を巡回しています。オッズパークグランプリの企画のひとつで、オッズパークが経費を負担してのばんえい十勝のプロモーションの一環とか。北海道とは比べものにならない蒸し暑さの中、調教師や騎手も手分けして帯同して、平地の馬場でそりを曳いての模擬レースを披露し、その合間ではスタンドでファンとのふれあいコーナーに常駐、調教師自ら自分で馬引っ張って、もの珍しさで寄ってくるファンはもちろん、子どもや奥さんたちまでいちいち馬の背中にまたがらせて写真撮影の手伝いをし、「ばんえい、よろしくお願いします」といちいち声をかけ、ていねいに頭をさげる。地元ではずっとやってきていることとは言え、関係者自ら汗をかいて懸命にサービスこれつとめる頑張りぶりは、ふだん大きなばん馬を見たことのない内地のファンたちにも予想以上に喜ばれています。ばんえいって、案外おもしろそうじゃない? 今度馬券売ってる時に買ってみよう。応援だもの。

 「われわれ関係者が必死になってる、ってのをまず、わかってもらえないと、誰も応援なんかしてくれないよ。ほんと言うと、廃止だとかそういう悪い話が出てきてからあわてて頭さげてもダメ。ふだんからお客さんの前にもっと顔出して、競馬で食べてるってことを理解してもらう場を自分たちからこさえておかないと。」

    
 こういうことを言うのは、たいてい存廃騒動で痛いめにあった競馬場の関係者。それは今世紀に入ってからの地方競馬のドミノ倒しの中で、わずかながらでもみんなが学んだことのひとつ、ではあります。

 「なのに、自分のところだけはつぶれない、ってやっぱり思うんだよねえ、厩舎関係者って」

 自分らだってそうだったしさ、というのを苦笑いしながらつけ加えて、彼らはまた、競馬という仕事を支えるための営みに向かってゆきます。