もしテラヤマならば、のダービー

「ダービーで乗り替わった馬は勝てない」

 かつて、アローエクスプレスがそうだったように。

 若かった柴田政人が当時全盛の加賀に乗り替わられた悔しさを、テラヤマはとらえていた。大衆化の方向に大きく舵を切り始めていた競馬に「おはなし」を見い出す、しかも同時代の人々の気分との関係の中に確実に。それがテラヤマ流の競馬、だった。

 ロゴタイプ、と、エピファネイア、の勝負に、キズナコディーノ、がからむ「四強」の下馬評。関東馬関西馬二頭、だ。ヤネはロゴタイプがC.デムーロ。エピファは福永祐。キズナがユタカ。これにコディーノのウイリアムス。外人騎手を情け容赦なく擁してくる「王国」社台系に対して、ノースヒルズにキャロットクラブが日本人騎手という構図になった。もっとも、馬はどれも「貧しい血」の時代からすでに遠く、いずれ眼もくらむ良血、良家の血統図ばかり。競馬に「おはなし」を読むかつてのテラヤマ流も、この角度からはキツいだろう。

 だが、それでも競馬は未だ「おはなし」であり、ドラマであり得る。

 馬なら、ロゴタイプの叩き上げぶりがやはり好みだろう。夏の北海道デビューで函館から札幌へと休まず転戦、二歳S時は鳴かず飛ばずだったのがひと息入れた復帰後に一気に化けた。テラヤマの頃、一線級にいた河内に南井に岩元もそれぞれ調教師になり、今回管理馬をダービーに出走させている。同じ元騎手組の調教師でも、田中剛や杉浦は印象が薄いだろうが、それでもロゴの管理調教師は現役時代、障害主体で乗っていた苦労人の田中剛。父も現役時代は正直、脇役級だったローエングリンマイラー血統の距離不安もあるものの、応援したがる条件も揃っている。

 キズナに乗る武豊、を応援するテラヤマ、はどうだろう。

 かつての天才、ニッポン競馬を代表する名手、だった彼が、その後事故などいろいろあってこのところ「並みの騎手」、ないしはそれ以下のワンノブゼムでしかなくなっている。それがこの馬とめぐりあってにわかにまた注目を集めるようになった。

 バブル期以降、90年代半ばくらいまでの、ニッポン競馬が最も華やかだった時期の記憶。アベノミクスで株価も回復急上昇、インフレターゲット政策でかつて輝いていた頃のニッポンをめざす国民の気分に、あのユタカの復活、は人々の想像力としても焦点があう。

 当日、人気にはなる。おそらくはウマの実力以上に。ヤネがユタカでダービーを久し振りに勝つ、そういう「おはなし」の喚起力がそうさせるはずだ。それでも、ユタカの記憶、に賭けるファンの気持ちは大事にする、それがテラヤマだろう。

 エピファネイアシーザリオの息子。父は府中巧者を出すシンボリクリスエス。前走皐月賞ではロゴタイプに遅れをとったが、馬場と距離とで逆転もあり得る。大方もそう見ている。ヤネも福永祐。出走態勢も万全らしい。この皐月賞1、2着組で決着、という説もある。

 だが、キズナもエピファも府中は初めて。いきなりではどうか?の懸念がよぎる。ユタカもかつてのユタカではない。信頼したいがしきれぬところが正直、ある。ならば……

 穴を探してみる。

 いたぞ、一頭。虎視眈々、一発を狙うがごとき構えのウマが

 レッドレイヴン。赤い鴉。人気マンガからもらったかのごとき名前もいまどき。だが馬体は青鹿毛。黒光りするグッドルッキンホースだ。テラヤマならば、そうだな、かつてのトウショウゴッドあたりを思い出すかも知れない。しかもマル外。外国産馬ときた。母系はグラスワンダーの近親、父はミスプロ系。「殺し屋」の雰囲気がプンプンする。

 藤沢和厩舎悲願のダービー制覇を期しての三頭出しの一角。もちろんコディーノが本命でこのレイヴンとフラムドグロワールは露払いなのはわかるが、しかしコディーノが手の合っていたように見えるノリからウィリアムス起用で万全を期したつもりがアダとなるのも競馬。繰り返す。「ダービーで乗り替わった馬は勝てない」代役は、僚馬の伏兵レッドレイヴンだ。

 ヤネも内田博。言わずと知れた元大井の名手で、中央入り後も圧倒的パフォーマンスを見せている当代きっての剛腕。かつてなら郷原か。内田が追ってあそこまで動かないんだからしょうがない、ウマが悪い、と直線沈んだ天皇賞ゴールドシップの馬券もあきらめつけたファンは多かったのだ。

 確かに、今期は大一番で精彩を欠くレースが続く。落馬負傷の後遺症か、などとささやかれもしている。実際このレイヴンでも前走青葉賞で手綱を取ったものの、単勝ダントツ一番人気を裏切り11着の惨敗。おかげでそれまで高かった前評判は一気に下落。おそらく当日も人気にならないだろう。意地を見せたいところのはずだ。

 2歳時から休養させて、皐月賞も回避しての休養明けで馬体も太かったし、直線息がもたなかったのだろう、フットワークもバラバラだったのは藤沢師も認めている。パドックでも発汗がひどくイレ込みまくって本来の状態ではなかった、とも。何よりアポロソニックが自分のペースで引っ張り、各有力馬がこの馬を牽制した結果の、典型的な前残りの競馬。それでも、いやだからこそ、ダービーと同じ府中の1マイル半を一回叩いた効果は間違いなくあるはず。デビュー以来増え続けている馬体もむしろ成長分と見れば頼もしい。本格化はまだ先だろうが、ここはメイチ仕上げてみてその潜在能力を見たいはず。これまで東京でずっと使われてきて馬場慣れしているのも好材料だ。距離がネックと見る向きもあるが、現状の気性はともかく血統からはそうは思えない。

 しかも、しかもだ。馬主の勝負服は、ああ、内田博の古巣大井の名物騎手にして50代後半で未だ現役の的場文そっくりの胴赤白星散らし。あの大井の的場文二重写しの勝負服&フォームで内田博がめいっぱい追いながら直線、伸びてくるとしたら……

 脚質も現状、おあつらえ向きに待機しての後方一気。展開の不利は承知で、アポロソニック以下が今回もおそらく引っ張るゆるみない流れで先行から番手進出の人気馬たちが直線、脚をゆるませるような展開になれば、つけいるスキは十分。人気薄の気楽さ、道中控えて死んだふりしていたレッドレイヴンが、内田博の剛腕に応えて馬群を切り裂いてくるのが見える。

 馬券はいろんな種類が増えすぎてわからないかも。

 単復のレッドレイヴン。馬連なら、レッドレイヴンから人気筋にそれぞれ。3連複のレイヴン流しでも楽しめるだろう。でも、テラヤマならば敢えての枠連勝負という気もする。当日の枠順での機微も楽しみたい。