「こち亀」が愛された理由

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1.「こち亀」という漫画が、老若男女に愛された理由は何だと思われますか?

 当初から愛されたわけでもなかったんですがね。

 連載開始が1976年、当時すでに少年マンガ市場は「青年」読者を取り込みながら右肩上がりを続けて我が世の春を迎えていたとは言え、掲載誌の「少年ジャンプ」は後発誌だったこともあり、毎週の人気投票で連載打ち切りも早いという過酷なシステムを導入したのもそういう後発誌ならではの腹のくくり方のひとつだったわけで、そんな中でも「こち亀」だいぶ後になるまで、人気投票の上位に常時食い込むような、いわゆる看板連載とは言えなかったはずです。

 ただ、堅実に一定の読者を獲得して人気を確保してゆく、そういう安定感が読者の信頼を得ていったんだろう、と。もちろん、80年後半以降はマンガ市場自体のボーダーレス化というか、「少年」「少女」マンガといった枠組み自体が発展的に崩れていったこともあり、また読者も共に年を取ってゆくことで、おっしゃるような「老若男女」に愛される作品となっていったんだと思います。

 そういう意味では、定型の強みというか、決してムチャな冒険はしない、よくたとえられる「寅さんのような」という言い方に象徴的なように、少年マンガから発したギャグマンガとしての「ザ・マンガ」という、その商品としての信頼感を、世間は見ていたように感じています。


2. 1と関連しますが、人気漫画はたくさんありますが、他の作品にはない「こち亀」ならではの魅力とは何だと思われますか?

 先に言ったような「定型」の強み、違う方向から言えば「通俗性」ですね。連載開始当初はまだそういうマンガの「定型」は良くも悪くも生きていたんですが、時代が移り変わるに連れてマンガ表現の幅がさまざまに拡がり、そういう意味では「「こち亀」も明らかに「古くさい」ものになっていたはずなんですが、そんな中、生き延びてゆくことで逆に、その生き延びてゆく際に誠実に依拠していた「定型」と「通俗性」に、さらに磨きをどんどんかけてゆくことになった、それが結果的に最大の武器になっていったんでしょう。

 たとえば、昔からあるブランドのキャラメルやチョコレートみたいなもんで、店をのぞけば必ず置いてある、子どもの頃に食べていたのが大きくなって親になっても、また子どもに買ってやるようになっている、そういう大量生産大量消費の「商品」への信頼感が、いまやマンガという商品へも宿るようになったということじゃないですかね。

*1:某新聞より依頼。当初、電話取材希望だったのだが、コメント依頼は原則電話でなくしゃべった形での草稿にして送ることにしている旨伝えると了解してもらえてそのように。ただ、その後のやりとりが途絶したままなので採否含めて不明のまま