「外国人留学生ビジネス」利権の背後にある文科省

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 ごぶさたです。大月隆寛です。かつて、「つくる会」2代目事務局長をつとめさせていただいていたこともある、あの大月です。

 とは言え、いまやもう四半世紀も前のこと、今の会員には、何のことやら、という感想が大方でしょう。今回、何かのご縁でまたこのように「つくる会」の機関誌に顔を出す機会を頂戴しましたが、まずはあれこれ型通りなご挨拶などよりさっそく本題を。

 すでに報道その他で何となく耳にされている向きもあるかも知れませんが、自分は去年の6月29日付けで、2007年以来足かけ13年間、籍を置いていた北海道の札幌国際大学という大学から「懲戒解雇」という処分を受けました。

 理由は、その大学で2018年度から新たに導入した外国人留学生をめぐる入試のあり方や在籍管理等、制度の運用にさまざまなコンプライアンス違反、ガバナンスの不適切な状況が学内で生じていて、それを当時の城後豊学長以下、学内の教員有志らと共に何とか是正しようと努力していたのですが、それが大学法人側の経営陣によってことごとく阻害され、学長は手続きも不透明なまま事実上の解任に等しい仕打ちをされるまでになっていた。なので、致し方なく外部の関係諸機関、文部科学省出入国在留管理庁、労働基準監督局から札幌弁護士会などにそれら内情を訴え、各報道機関にも協力を求めて世間の眼から公正に判断してもらおうとした――まあ、単にそれだけのことだったはずなのですが、なぜか、それら一連の行動が「懲戒解雇」にあたる、という判断を、法人側お手盛りで立ち上げた賞罰委員会による強引で一方的な答申に従うという形で、弁護士でもある上野八郎理事長自らこちらに申し渡してきた、とまあ、ざっとこういう顛末でありました。

 当然、これは報復的な処分であり、解雇権の濫用、内部告発者と目した者に対する見せしめ的な恫喝、威圧でありハラスメントでもあると考えざるを得ず、地位保全等を求める仮処分の申し立てと共に、民事での訴訟も札幌地裁に提起させていただきましたが、仮処分の申し立てはなんと地裁では却下、高裁に抗告するもこれもつい先日、1月下旬に棄却されたので、現在、最高裁に特別抗告の手続きをしています。一方、本訴の方はというと、昨年10月より開始され、冒頭陳述を自分自身で行った後、現在公判が進行中、次回は3月上旬を予定していますが、まあ、向こう数年はかかるでしょうし、相手側も現状、その先まで戦う構えですから10年戦争も覚悟しています。

 なんだ、地方の小さな私大の内輪もめ、よくある内部紛争か、と思われるでしょうが、しかし、どうやら事態はそんな局地戦を越えて、「留学生30万人計画」時代の外国人留学生ビジネスを支えてきたからくりのようなものが、期せずしてうっかり見えてきてしまったようなのです。つまり、少し大げさに言えば、文科省とそのOBを介した外国人留学生ビジネスを取り仕切ってきた利権構造との戦いらしい。こう言えば、教科書採択などをめぐって文科省との丁々発止を繰返してきた「つくる会」のみなさんにとっても、ああ、そういうことか、と腑に落ちるところは、少なからずあるのではないでしょうか。


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 紙幅が限られています。もろもろ端折って骨組みだけまとめて投げておきます。

 おそらくは「留学生30万人計画」を達成する目的ともあいまって、文科省が国内の大学――要は私立大学に、留学生を実質国内の単純労働力補填という意味あいも含めて大量に受け入れやすくするための政策的なたてつけの一環として、言わば「抜け穴」を作っていたらしい。

 「大学」を憲法23条の「学問の自由」「大学の自治」を盾にして「治外法権」「聖域」化し、外国人留学生という、これまでの日本人学生と意味の違う学生を受け入れるに際して、法務省(入管)その他が直接手を入れられないようにした。そして、入学に際して当然問われるべき日本語能力について、明確な基準を極力文書化しないようにして、申し合わせ程度のやり方で慣習的・常識的な縛りとして、あいまいにしてきていた。その一方で、大学以外の日本語学校などに対しては、留学生の入学に際してN3,N4など日本語能力の基準を明示して、その入学資格を文書化していた。

 つまり、大学「だけ」は入学資格についての日本語能力をあいまいにして、それぞれの大学(つまり私学です、国公立は直接管理できますから)の「裁量範囲」がある、というたてつけにし、グレーゾーンを意図的に作ったのではないか。しかも、日本語学校から大学へ入る際の入学基準についても、日本語学校入学時と同様、日本語能力の基準を明示しているのですが、かたや海外から直接国内の大学へ入ってくる留学生について「だけ」は、ここでもまたそれら日本語能力の基準は明示せず、結果的に大学の「裁量範囲」任せにしてあります。もちろん、現場があまりワヤなことをしないよう、必要に応じて文科省は「後見的に指導助言」はするけれども、それは暗黙の裁量範囲で伸び縮みするし、何より「私立大学」のことですから、問題が顕在化しない限りはお手盛りでどうにでも、ということにもなり得ます。

 京都育英館という日本語学校が、当時の外務省の領事館を介して中国の瀋陽日本語学校をまず作って、そこから直接国内の大学に留学生送り込むシステムを確立し、現地のエリート家庭の優秀な子弟に特化したやり方で、すでにここ20年来結果を出しています。ここは最近、北海道の苫小牧駒澤大学稚内北星大学などを買収し、事実上留学生専門の大学に変貌させつつあるのですが、実は札幌国際大も同じ瀋陽にある日本語学校を「海外事務所」として看板を与えて、そこを経由して直接留学生を送り込むやり方を採用していたことなど考えあわせると、これら一連のビジネスモデルは、ある時期の文科省の政策的思惑と合致した、もうそれなりの年月、すでに稼動してきたものなのだろう、と考えざるを得ません。

 少し前、文科省天下り問題で槍玉にあげられた前川喜平という元文部次官がいます。最近も新聞や雑誌その他で盛んに政府に対する批判的なコメントなどをしてマスコミ文化人として世渡りしていますが、この前川氏の天下り利権の元締めとも言うべき番頭格だった嶋貫和男という文科省OBが、数年前から札幌国際大に関わっており、昨年4月からは理事として堂々と表に姿をあらわすようになっています。この嶋貫氏が一昨年の学内の経営戦略委員会で「留学生の入学資格については大学の裁量範囲が……」という趣旨の発言をして、そこから大学法人側の暴走が加速されてことが内部資料から確認されています。また、自分の裁判においてもここにきて大学側が「留学生の入学基準にN2など日本語能力の枠をあらかじめはめるのは、「学問の自由」「大学の自治」に反する「憲法違反」のおそれがある」などという、ちょっと見には眼を疑うような主張をし始めているのですが、これもまた、嶋貫氏や前川氏が文科省内部にいた現役時代に熟知していた留学生ビジネスを支えるからくり、当時の文科省の政策的たてつけを反映した文言ということなのでしょう。

 ざっとこのような次第で、自分の「懲戒解雇」はどうもうっかり妙なもののシッポだか小指だかを踏んでしまっていたゆえのこと、らしい。

 とは言え、このような留学生ビジネスはすでにもう、外国人に対する国際情勢の変化に伴ったより大きな国策レベルでの政策的変更が明らかになってきている昨年半ば頃から、当の文科省自身、大臣発言として「見直し」を明言もしているような、その意味では早急に清算せねばならない「過去の遺物」になっているはずです。何より、一昨年の夏に東京福祉大学という私大が留学生の在籍管理の不手際から大量の行方不明者を出して問題化し、その後も文科省と入管共同の「措置」が行われたにも拘わらず、ガバナンスの不適切が再度あらわになっていたりと、どうもこの「過去の遺物」のはずの留学生ビジネスモデルは、ちゃんと始末されないまま往生できずにのたうちまわっていて、当の文科省自身、手をつかねて枯死、自然死を待つしか打つ手がないようにすら見えます。

 文科省が管轄する「教育」「文化」「スポーツ」「アート」、さらに「宗教」「信仰」なども含めた領域が、互いに癒着しあいながら「戦後」の環境で予想以上に妙でいびつな「治外法権」「聖域」をつくってきてしまったらしいこと。それらが「大学」に限っても、自浄のしにくい構造を温存してしまっていて、たとえば先の日本学術会議をめぐる問題なども含めて、単に「教育」の問題というだけではない悪さを下支えしてきているように、自分などの場所からは見えます。自分ひとりの身分がどう回復されるか、以上にもはや、それら少し前まで稼動していた利権構造の清算を意識しないことには、この戦いの見通しはつけられないと腹をくくり始めています。

*1:あたらしい歴史教科書をつくる会、の機関誌『史』掲載原稿。

*2:表紙に高市早苗センセと並んで名前が……