マンガ評・武富 智『キャラメラ』

 惚れた腫れたのよしなしごとはこっぱずかしい。特に、ニキビ面したセイシュンにはなおのこと。だもんで、恋愛ものは「ラブコメ」というギャグ仕立てでかろうじて成立してきた。ドジでマヌケなオンナのコが、最後にやっぱり「そんなキミが好きだよ」と言ってもらえる、そんな少女マンガ発のラブコメ少年マンガに浸透し始めたのが今から二十年ほど前。さらに時は流れて新世紀、武富智『キャラメラ』(集英社)は、今様ラブコメのひとつのかたちだ。

 あ、そもそもラブコメというジャンルがありまして、ドジでマヌケな主人公が、それでもけなげさで恋愛に勝利してゆくというのが王道。もともと少女マンガで育ったものが、後には少年マンガにも浸透、一時期の少年サンデー系を席巻した、なんてもう歴史になってるな、こりゃ。

 つまり、ギャグという砂糖をまぶさないことには、こっぱずかしくて恋愛なんかまともに語れやしなかったのだが、昨今それがむしろ逆転、ひねりも何もない直球棒ダマの「恋愛」がかえって新鮮なところがあるらしい。この『キャラメラ』なんてのはまさにそういう支持を静かに得ているようだ。 ヤンジャン連載ってことはそれだけややこしい読者は薄いわけだが、それにしても、ゲームセンターで何となく見かけたオンナのコを「いいな」と思い、それがなんと八年の後に再開、それでもって……という設定。薄い、軽い、そしてはかなげというのが基本だ。目の色変えての情熱の嵐、ホルモンのなせる業」(山本夏彦)任せに突っ走る、なんてやめられない止まらない、な展開は、クスリにしたくともない。*1

 単なるヘタレなパシリだった厨房(中学生ね)時代、たまり場だったゲーセンで見かけただけの「アッ子さん」という女店員を、その後八年間ずっと忘れられないまま引きずってるのが主人公の数井クン。彼女恋しさにゲームに精進したおかげで異常な動態視力を獲得、今やスロット無宿のプー太郎だが、ひょんなことからあの「アッ子さん」と再開。さて、失われた八年間を一気に埋めることが果たしてできるのか……。

 エッチネタが当たり前にからむのはいまどきだが、大枠は陸奥A子その他の初期のラブコメそのまんま。ただ、男女の設定だけがまるっきり逆転してんだよねえ。こんな作品が、硬派なはずの『ヤンジャン』で静かに支持されているのも、う~ん、時代だなあ。

*1:このあたり、掲載原稿からは分量の関係で割愛した部分、のちほど加筆。