2024-03-01から1ヶ月間の記事一覧

解説・村上元三「ひとり狼」

*1 長谷川伸のまわりからは、戦後の中間小説から歴史小説などの新たな読みもの文芸の市場が拡がってゆく中、何人かの書き手が巣立ち、羽ばたいていった。巷間「長谷川部屋」などとも呼ばれていたという彼のまわりの勉強会だが、のちの新鷹会、もともとは雑誌…

解説・織田作之助「競馬」

*1 競馬を題材にした創作は、何も小説の類に限らずそれぞれのジャンルにすでにそれなりにあるけれども、ギャンブルとしての競馬に合焦したものが多く、また多いがゆえに定番でそれだけ陳腐な定型になってしまっているところがある。織田作のこの作品などは、…

解説・野坂昭如「骨餓身峠死人葛」

*1● およそ「文学」と正面切って掲げられているものやこと、いや、はっきり言えばそのあたりに好んでへばりついているとしか思えないような人がたそのものもだが、いずれ、そういう界隈に縁のないまま生きてきた自分にとって、それでもなお、いいよなぁ、と、…

解説・藤原審爾「安五郎出世」

*1● 小説家が儲かった時代、というのがある。いや、あった、と過去形にした方が、すでによくなっているのかもしれないのだが。 売文渡世として書きものを換金できるようになる。それが持続して「食えるようになる」というだけでなく、まさに一攫千金、常なら…

解説・富士正晴「童貞」

*1● 書き手としての富士正晴というのも、これまた、なかなかに好もしい。いや、それどころではない、すさまじく、かつ手に負えない。それでいながら、なお好もしい。そういう書き手は、いや、ほんとうに稀有なのだ。 男の側から性欲というものを言語化して記…

解説・中山正男「豚を把んだ男」

*1● 中山正男といっても、覚えている向きはこの令和の御代、まずないのだろう。ましてや「文学」の世間では、さらに輪をかけて見事になかったことにされているはず。事実、今回この企画で採る作品の版権処理をしてもらう過程で、この中山正男だけは著作権を持…

解説・長谷川伸「舶来巾着切」

伸コ、である。長谷川伸、である。 文明開化間もない頃の横浜で、若い頃をはいずりまわって過ごした見聞を肥やしにして、その後、本邦世間一般その他おおぜいの心の銀幕にいくつもの「おはなし」を、共に見る夢として描き出す作家として大成したのは長谷川伸…

鳥山明逝去、に寄す

● 今こそ、ドラゴンボールを集めに行かねばならん――わが国のみならず、世界中がそう思ったようです。 鳥山明急逝の報がweb環境を介して瞬時にかけめぐりました。享年68。急性硬膜下血腫とのことでしたが、その衝撃は国内もさることながら、むしろそれ以上に…

「掟」ということ

*1● 「掟」というと、なぜか耳もとで必ず再生される一節がある。 「光あるところに影がある…まこと、栄光の陰に数知れぬ忍者に姿があった…命を掛けて歴史を作った影の男たち…だが人よ、名を問うなかれ…闇に生まれ闇に消える…それが忍者の定めなのだ…」 むかし…