ブンガク

読み書きと「わかる」の転変

● 最近、おそらくは老化がらみでもあるだろう事案ですが、あれ、これはひょっとしたらヤバいかも、と思っていることのひとつに、「横書き」の日本語文章が読みにくくなっているかもしれないこと、があります。 いや、読むのは読めるんだけれども、腰を据えて…

「詩」とは、あたりまえに「うた」であった

● 前回、「美術」「芸術」に対して、ずっと抱いていた敷居の高さのようなものについて、少し触れました。せっかくなので、そのへんからもう少し、身近な問いをほどきながら続けてみます。 あらためて思い返してみれば、同じような敷居の高さ、距離感といったも…

「無法松の一生」のこと

*1 先日、三浦小太郎さんが、かつて自分の書いた「無法松の影」という本をとりあげて、えらくほめてくださっていたんですが、それを受ける形で、今日はその素材になった「無法松の一生」の話をしろ、ということなので、少しお話しさせていただきます。 というの…

記録する情熱と「おはなし」の関係

● わだかまっていた厄介事に、とりあえずの決着がつきました。 とは言えその間、2年9ヶ月という時間が、それもおのれの還暦60代という人生終盤、予期せぬめぐりあわせの裡に過ぎ去っていました。 大学という日々の勤めの場が、たとえ北辺のやくたいもない…

「団塊の世代」と「全共闘」㉜ ――大江健三郎、高橋和巳

●大江健三郎 ――三島なんかとは格が違うとは思うんですが、未だに朝日新聞以下、後がなくなってるリベラル陣営の守護神というか貧乏神みたいになっている、大江健三郎はどうでしたか? 大江健三郎は、私たちの頃は尊敬の対象ではなかったし、私も大江健三郎を…

「貧しさ」の語られ方について――「サムライの子」をめぐる〈リアル〉の諸相

*1 ――つねにわたしたちの論拠は〈児童文学〉という限定された、しかも複雑怪奇とまでいわれるほどに特殊な分野であって、そこに生起するさまざまの事象は文学一般の概念規定とはくい違うほどに独自の、偏狭な意味内容をもつ曖昧なことばによって表現されるこ…

「残酷物語」の時代・ノート――「鼎談・残酷ということ」から

● 今から59年前、1960年8月発行の雑誌『民話』第18号に、「残酷ということ」という「鼎談」が掲載されています。*1 出席者は岡本太郎、深沢七郎、宮本常一の3人。それぞれ芸術家、作家、そして民俗学者として、その頃それぞれ話題になっていた文化人たちで…

「不良」の共同性について――「隼おきん」を糸口に

*1 「僕はその頃十六であつた。丸く黒く、焼けすぎた食パンの頭みたいな顔をして、臙脂色のジヤケツを着て、ポケットに手を突つこんで、毎日街を歩いてゐた。」*2 「こういう、一体なにが本業だかわからないで、なんとなく喰えている男が、ひところ、浅草の…

政と桃ちゃん、寺山のつむいだ「競馬」

スシ屋の政、と、トルコの桃ちゃん。この名前にさて、そこのあなた、聞き覚えがあるだろうか。耳にした瞬間、ああ、と思わず口もとがかるくほころんじまうような感覚が、まだ身の裡に残っているだろうか。 別に映画やドラマってわけじゃない。だからどこかの…

そのまんま東、の本領

そのまんま東、あっさり宮崎県知事になっちまいました。 メディアは選挙戦開始当初、どうせ苦戦だろ、という調子でしたが、途中から彼が案外善戦しているのを見て風向きを変え、終盤では好意的な論調になっていました。ああ、こりゃ案外通っちまうかも、と思…

永沢光雄、死す

永沢光雄が亡くなりました。 それって誰? という向きには、『AV女優』の著者、とだけ言っておきましょう。いや、言っておきましょう、ったって、正味のハナシがほんとにそれだけ、としか言いようのないようなもの、なんですが。 『AV女優』というのは、…

子猫殺しの板東真砂子

雉も鳴かずば撃たれまい。生まれた子猫を野良猫対策のため自ら始末する、と公言した作家の板東真砂子が袋だたきにあっている。発端はこの夏の日経掲載のコラム。じきにネットで火がつき、よせばいいのにご本人が週刊誌その他で盛んに「反論」などしたものだ…

柳美里という“しるし”

朝鮮人と言えば、柳美里である。 とりわけ、なりふり構わず奇形な自意識全開垂れ流し、「弱者」「被害者」カードをふりかざしてわがまま押し通し、はた迷惑も全く省みない、まあ、普通に想定される「朝鮮人」のステレオタイプそのまんま、どこかで仕込んだん…

ブンガクの勝負どき

僕はまず、「二十五歳未満の者、小説を書くべからず」という規則をこしらえたい。まったく、一七、一八ないし二十歳で、小説を書いたって、しようがないと思う。 小説というものは、或る人生観を持った作家が、世の中の事象に事よせて、自分の人生観を発表し…

田口ランディ@万引きババア、に「殺された」ライターがいた――その名は塚原尚人、そいつのことを少し話したい

そもそも、であります。 なんであたしがこの万引きババアにこんなにひっかかてるか、ってえと、まず、どうしてこんなデンパ系キチガイ物書きをここまで右へならえでみんなヨイショしちまってるのか、という、しごく素朴な疑問がひとつ。だって、さすがに最近…

お立ち会い、田口ランディ、という「盗作=万引き」猿を、ご存じか?

田口ランディその「盗作=万引き」の研究鹿砦社Amazon*1 田口ランディ、という稀代のバカが一匹、ネットの居留地からうっかりとさまよい出て、ところかまわず臭い糞を垂れ流しては、世間サマに多大なご迷惑をかけております。 そりゃ何者かい、と問われれば、…

昭和文学会、コヨーテアグリー、Fast Car……

● ども。先週お伝えした昭和文学会での講演も、何とか無事にこなしてきました。 なにせ、このところ棚落ち著しい文科系のガクモンの、それも一番役立たずな近代ブンガクなんてもんの専門の学会ですから、会場にいらっしゃってたのもセンセイ方と元気なさげな…

お仕事まわりの近況

え~、あっという間に飽きられたのか、もうすっかりメディアに注目されなくなった白装束ですが、今月号の『正論』であたしゃ「白装束観察日記」を書いております。king-biscuit.hatenablog.com 【サイバッチ!】周辺の読者諸兄姉には思いっきりガイシュツのネ…

『新潮45』のトホホ

*1 安野モヨコ『美人画報ハイパー』、テリー・ケイ『白い犬とワルツを』、ジャックウェルチ『わが経営』、以上三冊並べて四ページ、それぞれ半署名の書き手による書評欄ときたら、さて、どこの雑誌でしょ。 正解は、なんと『新潮45』であります。活字文化…

猪瀬直樹というキャラ

*1 ルポだのノンフィクションだのといったジャンルのもの書きが、「全集」や「著作集」だのを出したがるようになったら、ひとつもう寿命は終わり、というのが、かねがねあたしの持論であります。 というのも、ここ十年足らずの間にそういう方面の「全集」「…

いまどきのブンガク・まえがき

いまどきの「ブンガク」―瀕死の"純文学"から"やおいノベルズ"まで (別冊宝島 (496))宝島社Amazon*1 「文学」というのはよくわからない。そもそも、何をもって「文学」と言うのか、未だにちゃんと納得のゆく説明をわかるようにしてもらったことがない。なのに…

オンナのためのポルノ・林真理子

林真理子は、オンナのためのポルノである。 出世欲、名声欲、物欲、ついでに性欲全て丸出し。どんな人間でも普通は隠しておくはずのうしろ暗い部分を、あっけらかんと世間の前に放り出す。しかも「オンナ」というキャラに用意周到くるませながら、「全てわか…

「ノンフィクション」という被差別部落

えー、なぜか誰もはっきりとは言わないんですが、おなじもの書き稼業とは言いながら、ルポルタージュとかノンフィクションという分野はブンガクのそのまた下、ほとんど被差別部落みたいなものであります。で、被差別部落であるがゆえに、ブンガク幻想はその…

田中康夫ブンガク、はこの先、生き残れるか?

田中康夫と言えば、東郷隆である。 と言っても何のことやらわからないだろうが、今や歴史小説界隈の新星として評価される東郷隆の初期作品『定吉七番』シリーズの第二作『ロッポンギよりから愛をこめて』に、ほとんど準主役級の扱いでわれらが康夫ちゃんが登…

片岡義男の本領

昨今、古本屋の軒先、ひと山いくらの文庫本の中に、片岡義男の作品は埋もれている。角川文庫だけでも無慮八十タイトル以上。それだけ出しまくったんだから一冊百円にしかならなくて当たり前、なのだが、それでもその中味は決してひと山いくらの代物ではない。…

野坂昭如・頌

野坂昭如がお手本だった。何が、って、ほれ、とにかくおのれの書きたいようにものを書いて食ってゆく、そんな夢のような世渡りの、だ。 直木賞受賞作で後にアニメにもなった『火垂るの墓』が彼の作品であることを知らない人も、もはや珍しくない。あれって宮…

中上健次はコワい

中上健次はコワい。中上健次はデカい。中上健次は乱暴者である。中上健次は喧嘩が強い。中上健次は田舎者である、中上健次は………って、もういいか。 とにかく、中上健次というヒトは、今のニッポンのブンガクの世界では稀有な「異人」として認識されている。…

岩下俊作選集、のこと

もともとそういうタチではあったのだけれども、この春に勤めを辞めてこのかた、パーティーとか宴会、果てはちょっとした呑み会の類に至るまで、とにかくそういう場に顔を出すことがとことんおっくうになってしまっている。 これではいかん、ただでさえ人から…

なぜ、「家族」がそんなに気になるの?

*1● 「今、家族はどう描かれているか」というのが、ひとまず与えられたお題であります。 もちろん、ここは『海燕』というお座敷でありますからして、これには「今の日本のブンガクにおいて」という限定条件が暗黙のうちについていたりするわけです。 ただ、…

解説 永沢光雄『AV女優』

● 声のいい男である。 低くて太い。心地良い。だが、生身の耳には心地良くても機械にはそうでもないらしく、話を聴いたテープを起こしているとかなり聞き取りにくかったりする。けれども、言葉が言葉として聞き取りにくくなる寸前のところで、じっとその響き…