原稿

「気分」と「選挙」の関係、その現在

このところ、「選挙」が立て続けに行なわれているなぁ、という印象があります。 夏の東京都知事選や自民党の総裁選、衆議員総選挙から、県議会全員一致の不信任案可決からの兵庫県知事選。なにせ国や地域、社会の行末を左右する大事な催しですから、新聞やテレ…

「高歌放吟」と「蛮声」の共同性

● 「さうだ。私達は、酒を呑むといふと、肩を怒らせものをぶッ叩きつゝ放歌高吟した高等學校時分の習慣を、再び完全に取りもどした。左翼思想に熱中すると共に、私どもの間には飲酒高吟の風が廢れ、そのかはり、眼にものを言はせたり耳語したりすることが流…

紀田純一郎について・アンケート

① 紀田先生の本で好きなものは何ですか(タイトル、ジャンルなど複数回答可)。できれば理由や感想もお答えください。 ② 紀田先生に注目したのは何からでしたか。思い出などあれば、お聞かせください。 ③ 卒寿を迎える紀田先生へ寄せて何かありましたら、お…

「コスパ」と「タイパ」、集中と持続そして反復

● 本というやつ、残念ながらやはり、時代のうしろへと繰り込まれてゆきつつあるようです。 書物といい、書籍と呼び、いずれそれら漢語の画数の多い語彙にするとなおのこと、何やら重々しさも感じる字ヅラにもなるわけですが、日常的にはまず「本」、これ一発。…

電子書籍の「眺める」と「読む」

● 具体的なブツとしての「本」、という話になっていたので、そのあたりからもう少し。 昨今、「本」もまた、これまでとはまたひとつ異なる形のブツになっています。いまどき流行りのもの言いで言えば「転生」でしょうか。そう、あの電子書籍というのが、すでに…

「あの戦争」の引き継ぎ方

「敗戦」から79年、ざっと80年という時間が経過したことになりました。1945年から2024年――なるほど、われらが生きるこの21世紀というのは、そのように淡々と、ある種冷酷なまでに〈いま・ここ〉、であります。 この時期、毎年、新聞やテレビで「あの戦争」に関…

本、も具体的なブツであった

● 「単独名義としては20年ぶり」という一節を眼にして、一瞬、息を呑んだ。 送られてきた書店向けの宣材のゲラ。いまどきのこととてメイル添付の電子媒体なのはともかく、いや、ちょっとそれはみっともないのでご勘弁を、にしてもらったんですが、でも、考え…

アクチュアリティとリアリティ、そして〈リアル〉

● 読み手であり書き手でもあるような主体、それが行なう実践としての「読む」も「書く」も、同じ生身の個体によって行なわれる営みであるがゆえに、「私」の個的なものであると同時に、「公」の社会的なものとしてもある。そして、そのような実践に際して彼なり彼…

そして「読み書き」も「上演」をはらむ

● 「うた」は、ことば抜きに成り立ち得るものか――ああ、こういう問いはいつも、おいそれとすぐに片づけて始末してしまえるものではない分、どんなに脇の見えないところに取り置いて忘れたつもりにしていても、何かの拍子にひょい、と眼の前に転がり出てきて…

「つきあう」ということの現在

歳をとって大人になるにつれて、自分以外の人間がふだんどういう暮らし方をして、どうすごしているのか、日常生活での立ち居振る舞いについて具体的に目の当たりに確かめる機会がなくなってくるものらしい。いまさら何を、でしょうが、実質無職隠居の日々に…

「上演」であること、その来歴

● 「書く」と「読む」、その同時進行の過程においてこの生身の裡に宿るものは、この場で縷々執着してきているような「うた」の本質および本願、言葉本来の意味での人間的な、生身を生きねばならぬ存在ゆえの営みにうっかり根をおろしているものでもある。「読む」…

「読む」がなければ「書く」もない、主体もない

● 使うべき言葉やもの言い、道具としてのそれらをひとつひとつ丁寧に意味と紐付けて「定義」してゆき、その上であたかも煉瓦やブロック、機械の部品を手順に沿って組み立ててゆく、そんな言葉の作法、少なくとも書き言葉において文章としてつむいでゆくことが…

定年退職、の弁

*1 この3月末日をもって、札幌国際大学を定年退職することになりました。ここ数年、裁判沙汰であれこれお騒がせもしましたが、まあ、これでひとまずの区切りということになります。*2 まず、真っ先に考えてやらねばならなかったのが、この間、大学に「拉致」…

解説・村上元三「ひとり狼」

*1 *2 長谷川伸のまわりからは、戦後の中間小説から歴史小説などの新たな読みもの文芸の市場が拡がってゆく中、何人もの書き手が巣立ち、羽ばたいていった。巷間「長谷川部屋」などとも呼ばれていたという彼のまわりの勉強会だが、のちの新鷹会、もともとは…

解説・織田作之助「競馬」

*1 *2 競馬を題材にした創作は、何も小説の類に限らずそれぞれの創作・表現ジャンルにすでにそれなりにあるけれども、ギャンブルとしての競馬に合焦したものが多く、また多いがゆえに定番でそれだけ陳腐な定型になってしまっているところがある。織田作のこ…

解説・野坂昭如「骨餓身峠死人葛」

*1 *2● およそ「文学」と正面切って掲げられているものやこと、いや、はっきり言えばそのあたりに好んでへばりついているとしか思えないような人がたそのものもだが、いずれ、そういう界隈に縁のないまま生きてきた自分にとって、それでもなお、いいよなぁ、と…

解説・富士正晴「童貞」

*1 *2● 書き手としての富士正晴というのも、これまた、なかなかに好もしい。いや、それどころではない、すさまじく、かつ手に負えない。それでいながら、なお好もしい。そういう書き手は、いや、ほんとうに稀有なのだ。 男の側から性欲というものを言語化し…

解説・藤原審爾「安五郎出世」

*1 *2● 小説家が儲かった時代、というのがある。いや、あった、と過去形にした方が、すでによくなっているのかもしれないのだが。 売文渡世として書きものを換金できるようになる。それが持続して「食えるようになる」というだけでなく、まさに一攫千金、常…

解説・中山正男「豚を把んだ男」

*1 *2● 中山正男といっても、覚えている向きはこの令和の御代、まずないのだろう。ましてや「文学」の世間では、さらに輪をかけて見事になかったことにされているはず。事実、今回この企画で採る作品の版権処理をしてもらう過程で、この中山正男だけは著作権…

解説・長谷川伸「舶来巾着切」

*1 *2 伸コ、である。長谷川伸、である。 文明開化間もない頃の横浜で、若い頃をはいずりまわって過ごした見聞を肥やしにして、その後、本邦世間一般その他おおぜいの心の銀幕にいくつもの「おはなし」を、共に見る夢として描き出す作家として大成したのは長…

鳥山明逝去、に寄す

● 今こそ、ドラゴンボールを集めに行かねばならん――わが国のみならず、世界中がそう思ったようです。 鳥山明急逝の報がweb環境を介して瞬時にかけめぐりました。享年68。急性硬膜下血腫とのことでしたが、その衝撃は国内もさることながら、むしろそれ以上に…

「掟」ということ

*1 *2 ● 「掟」というと、なぜか耳もとで必ず再生される一節がある。 「光あるところに影がある…まこと、栄光の陰に数知れぬ忍者に姿があった…命を掛けて歴史を作った影の男たち…だが人よ、名を問うなかれ…闇に生まれ闇に消える…それが忍者の定めなのだ…」 む…

「国際情勢」を語る話法、その静かな変貌

一時期、やたら取り沙汰され、とにかく理屈抜きにいいもの、正しい方向として喧伝されてきていた、あの「国際化」とか「グローバル化」といったもの言い、スローガンも、さすがにもう胡散臭いものというイメージがつきまとうようになってきたかも知れません。…

読み書きと「わかる」の転変

● 最近、おそらくは老化がらみでもあるだろう事案ですが、あれ、これはひょっとしたらヤバいかも、と思っていることのひとつに、「横書き」の日本語文章が読みにくくなっているかもしれないこと、があります。 いや、読むのは読めるんだけれども、腰を据えて…

八代亜紀「うたに感情を込めない」、のこと

*1 *2● 1月10日のスポーツ紙朝刊、八代亜紀の訃報が、まるで阪神優勝の勢いで特大の色刷り活字の見出しの乱れ打ちと共に右へならえ、横並びの潔さで躍っていました。 ああ、それほどまでに、本邦スポーツ紙の想定読者層にとっての八代亜紀、いや、より丁寧に…

和解成立に際して (記者会見リリース)

*1 2020年6月29日付けで、札幌国際大学より「懲戒解雇」を申し渡されました件について、本年2023年2月16日に札幌地方裁判所で出された一審判決を不服として大学側が提訴していた控訴審ですが、本日、大学側との和解が成立しました。 和解内容、および和解に…

「詩」とは、あたりまえに「うた」であった

● 前回、「美術」「芸術」に対して、ずっと抱いていた敷居の高さのようなものについて、少し触れました。せっかくなので、そのへんからもう少し、身近な問いをほどきながら続けてみます。 あらためて思い返してみれば、同じような敷居の高さ、距離感といったも…

池田大作 (本当に)死す

池田大作氏が、本当に亡くなったようです。 自分などはやはり、かつて「折伏」を介してさまざまに物議を醸しながら精力的に布教活動をしていた頃の創価学会の印象が、当時のさまざまな事件や挿話などと共に、未だに強くあります。その後、公明党を介して政界に…

「美術」「芸術」から「コンテンツ」へ至る道行き

● 期せずして無職隠居渡世に突然なってしまったことで、それまで気になっていてもなかなかあらたまって読むこともできなかったような分野の本――もちろん古書雑書ですが、これもまあ、ある種の怪我の功名というのか、日々の仕事にまぎれて敷居の高かったそれ…

「音楽」の転生・転変、その現在―「NOT OK」からの不思議

● 同時代のうた、眼前の〈いま・ここ〉に流れている最新の、いや、そうでなくても、ある程度いま、商業音楽として市場に流通しているいまどき流行りの楽曲に、おのれの耳もココロも反応しにくくなってしまうことは、加齢の必然と半ばあきらめてしまっていま…