映画・映像
● 大正12年の秋、というと、あの関東大震災が起きた年の、まさにちょうどその頃、ということになります。ただし、これは被災地東京ではなく大阪でのこと。当時、朝日新聞社企画部にいた高尾楓蔭が、ひとりのアメリカ人を会社に連れてきました。この高尾楓蔭…
――思想なり発言なりに何らかの抵抗値が設定されてないと、その輪郭も自覚できないままってところはありますね。あたしが年来便利に使っている「あと出しジャンケン保守」というもの言いと同じことで。福田恒存や江藤淳がかつて、ああいう論陣を張っていたの…
*1 *2●教養願望とオタク的情報量の集積 ――でも今、浅田彰や宮台真司がアニメ語るとカッコ悪いでしょ(笑)。もちろん、当人はそう思っていないんだろうけど。 それは、教養になり得ていないんだよ。 ――マンガでも一緒ですよ。浅田が岡崎京子を語ったら、ほん…
*1 ――小説を映画化するということは、その小説からエッセンスだけを抽出して、そのエッセンスをもう一度、映画として豊かに再展開して行くことですから、言ってしまえば、エッセンスが濃厚でありさえすれば、原作の小説がくだらなくたってつまらなくたって失…
*1 ――つねにわたしたちの論拠は〈児童文学〉という限定された、しかも複雑怪奇とまでいわれるほどに特殊な分野であって、そこに生起するさまざまの事象は文学一般の概念規定とはくい違うほどに独自の、偏狭な意味内容をもつ曖昧なことばによって表現されるこ…
*1 ――ぼく自身、大衆の側に立って映画を作りたい。それを忘れたから、だんだん映画というものをみんなが見なくなったのじゃないか、と思っています。ぼくは、そういう立場で映画を作り続けたい、と思っている人間だし。 ――貧乏に耐えて、歯を食いしばって一…
*1 ● ロシア、おそるべし、である。〈リアル〉を作り出すそのブンカ的腕力、未だ健在なり、だ。 社会主義リアリズム、と、かつては言った。今も言うのか? とにかく、社会主義と〈リアル〉とは手に手をとって、映画だの芝居だのブンガクだの、いずれゲージュ…
松本竜介が逝った。享年四九歳。脳溢血で倒れて一週間ほど。いまのお笑いブームではない、かつてのMANZAIブームの頃の紳助・竜介のはじけ方を同時代で知っている者にとっては、やはりある種の感慨がある。 漫才コンビ紳・竜の当時の姿は、逝去を機にい…
時代劇がいま、静かに広く、そして深く、ニッポンの同時代精神に浸透し始めています。 いまさら何を、と言われるかも知れません。けれども、嘘じゃない。小説や読み物といった活字の表現は言うに及ばず、テレビドラマからマンガや映画などに至るまで、時代劇…
どういう具合に取り上げようかと、柄にもなく逡巡していた本がある。 400字書評でやるのももったいないし、何より抱き合わせで引き立つその他の本もなかなかない。特集でやらせてもらっている民俗学概論大月流の方で、とも思ったけれども、それだと本自体の…
「人の作りだした? あの時南極で拾ったものをただコピーしただけじゃないの。オリジナルが聞いてあきれるわ」 「ただのコピーとは違うわ。人の意志が込められているものよ」 ――第20話「心のかたち、人のかたち」 ● おそらく、『新世紀エヴァンゲリオン』…
テレビのニュース番組で、キャスターが何か事件を伝えたその後にちょろっと何かコメントをつける、というスタイルがあります。それはキャスター個人のコメントであるようで、しかし実はそうでもないようで、という微妙なあたりを一発で狙い撃ちするのがまさ…
『新世紀エヴァンゲリオン』というアニメがあります。 一昨年秋から昨年にかけてテレビ東京系列で放映され、後半、物語の異様なまでの混乱も含めて爆発的な人気を呼びました。その後、ビデオやレーザーディスクになったものも驚異的な売り上げを示し、来春に…
阪神大震災の報道を見ていて思ったことはいくつかあるが、まず不思議だったのは、どうしてニュースキャスターたちが先を争って現地へ行かねばならないのだろう、ということだった。いきなり「温泉場のようです」と馬鹿な第一声をやった筑紫哲也を初めとして…
*1 思い込みのはげしい人、というのがいる。 それも自分ひとりでクラく閉じながら思い込むのでなく、他人との関係の中で明るく開きながらまっすぐ思い込んでゆく。何と言えばいいのか、そんな“全方位全天候型万能社交人”とでも言うしかないようなタチの人間…
「トスキナア」というオペラが上演されている。場所は東京、浅草は観音劇場。時は大正八年の春。遠い、しかし〈いま・ここ〉の僕たちと地続きの昔だ。 逆さに読めば「アナキスト」。スリが役所公認の稼業になり、赤い帽子に青いマント、免許を懐におおっぴら…
*1 大正の始め、夏空の広がる八月六日の昼下がり、岩手県はなだらかに広がる岩手山のふもと、松尾村というところにひとりの女の子が生まれた。名前は袴田トミ。父清吉はもともと養蚕をやっていたが、彼女が生まれた時の稼業は和菓子屋。母カメは時の村長の長…
● いきなり眼の前に現われた渡辺文樹は、入口からのっしのっしと大股で近ずいてきた。そして、大きな声でお国なまりの挨拶一発。 「いやぁ、遠いところわざわざ来てもらって、悪かったねぇ」 福島市内、小さいけれども去年建ったばかりとかでまだ真新しい映…
*1 *2 たたずまいが雄弁に表現するなにものか、というのがある。とりわけ、それが生身の生きものだったりすればなおさらだ。 忙しげにゆきかう男たちや、ある種の緊張を漂わせながらセットの裏でくつろぐ女性キヤスター、さらに、肉食動物のように電話に飛び…
))*1 ● 白状する。映画はまともに見ていない。 せいぜいテレビで放映されるフィルムか、ごくまれにレンタルショップのビデオ程度。もちろん、人並みに映画館をのぞくことくらいあるにはあるが、それもまぁ何かのはずみでというくらいのこと。情報誌をめくり…