1995-01-01から1年間の記事一覧

「男前」の存在感――解説・岡本嗣郎『男前』

山本集さんと初めて会ったのはもう何年か前、確かどこかのホテルのロビーだった。 同席していたのは、ルポライターの朝倉喬司さんと、この『男前』を最初に単行本として刊行した南風社という小さな出版社の社長Hさんのふたり。Hさんが岡本嗣郎さんの筆で山…

岡本嗣郎『男前』講談社文庫版 解説

ニッポン名物、閣僚の「失言」

えー、毎度おなじみポンニチ名物、閣僚の「失言」であります。 あんまり続くんで「またかよ」にしかならないんだけど、しかし、この「またかよ」自体問題でさ。うんざりする分、なぜ「また」なのか、ということを考える契機から根こそぎ奪われちまって、「結…

新進党党首選挙、1,000円の値打ちありや?

あの、新進党ってくらいのもんだから、それは「党」なんですよね。「党」ってことは何らかの主義主張なり立場なりを共有する集まりなわけですよね。少なくとも、そのような立場を共有することに納得した人間たちによって作られた集まりのはずですよね。で、…

パソコンとキーボードのリテラシー

パソコンが売れているという。この不景気の中ではひとまず結構な話なのだろうが、しかし、みんな本当に使いこなせているのかな、と思う。その程度に、パソコンを含めたOA機器の抑制を欠いた礼賛、とりわけ昨今耳タコに聞かされる極彩色の「マルチメディア…

銀行という商売

銀行と言えば「お堅い商売で」と紋切り型に言われるようになったのは、さて、いつ頃からなのだろう。 少なくとも、金融関係というのは、なぜか役所と同じような「堅さ」で語られているところがある。もちろん、人さまのカネを扱っているのだから堅くないと商…

【草稿】解説・岡本嗣郎『男前――岡本集の激闘流儀』

● この本の主人公である山本集さんと初めて会ったのは四、五年前、確かどこかのホテルのロビーだった。 同席していたのは、ルポライターの朝倉喬司さんと、この『男前』を最初に単行本にした南風社という小さな出版社の社長兼編集者であるHさんのふたり。毎…

書評・稲垣尚友『十七年目のトカラ・平島』(梟社)

*1 七〇年代のおわり、それまでの十数年におよぶ奄美・沖縄の島々をめぐる旅の果てにたどりついたトカラ列島の小さな島、平島。「原初」の生活にあこがれ、文明にどっぷりひたった自分から逃れようと棲みついたのだが……。 島の暮らしを記録し、本にしたこと…

週刊ポスト

競馬の国際化について

ヤクルトの日本シリーズ優勝パーティーの馬鹿騒ぎと、大相撲フランス興行の情けなさとは、今のこの国のプロ・スポーツとは「玄人」の誇りの上に自立して存在できるものでなく、下品で不作法なメディアの磁場に巻き込まれたところで成り立つ「ギョーカイ」に…

プロ・スポーツ、「玄人」なるや?

www.youtube.com ヤクルトの日本シリーズ優勝パーティーの馬鹿騒ぎと、大相撲フランス興行の情けなさとは、今のこの国のプロ・スポーツとは「玄人」の誇りの上に自立して存在できるものでなく、下品で不作法なメディアの磁場に巻き込まれたところで成り立つ…

相撲と「麻薬汚染」

相撲と「八百長」という取り合わせで組み立てられる「スクープ」の手口は、週刊誌にとってはすでにお家芸。いつ頃からこうなったのか、他に何か目を引くニュースがとぎれて誌面に派手さが少なくなると、必ず登場する今や定番の「ネタ」のひとつではある。ま…

佐高と猪瀬の泥仕合

佐高信と猪瀬直樹の喧嘩が、いよいよ泥仕合の様相を呈し始めた。 もとはと言えば、猪瀬が原作をやっていた劇画の中で、明らかに佐高とわかる人物を登場させて当てこすったのが始まりで、その後、両者共機会あるごとに悪罵の投げ合いをやっていた経緯がある。…

沖縄と基地について

「基地」というもの言いが本当に久し振りにメディアの舞台を横行している。 言うまでもなく、沖縄の米兵による幼女「暴行」(はっきり「レイプ」「強姦」って言わんかい!)事件がきっかけで地元の反対運動が盛り上がり、その後基地の土地使用許可をめぐって…

大学教師という「既得権」

まだ院生の頃、初めて学会に行った時、懇親会で東大の院生たちがいるところへ連れてゆかれた。どういう経緯でだったか、学会の年会費を払わない人間が多い、という話になった時、同席していたひとりが「そんなもの、文部省に言いつければいいじゃないですか…

書評・『ドキュメント 綾さん――小沢昭一が敬愛する接客のプロフェッショナル』(新しい芸能研究室)

ここで小沢昭一さんが話を聞いている「綾さん」は、早い話がトルコのお姉さんです。今はソープランドって言いますが、彼女が現役で売れっ子だった六〇年代は、サービスの内容がマッサージからスペシャル、そして本番へと移行してゆく時期。売防法で行先のな…

鳩よ!

「宗教」は、なぜ隠さねばならないのか

辞任した田沢法務大臣が立正佼成会をバックにしている政治家である、ということは、今回の一件で初めて知った。いや、そんなもん当の信者の方々はとうにご存じだったのだろうが、でも、こちとら世間のもんにはちっとも知らせてくれてないんだもの。へえ、そ…

テレビがどうもおかしい

この問題についてはあまりきちんとした説明が聞こえてこないので、もしもどなたか確かな事情をご存じの方があれば教えていただきたい。 このごろ、この国のテレビは少しおかしくなり始めているのではないだろうか。 いきなりこういうもの言いを、それも「お…

宗教学者と破防法の関係

昨今袋叩きにあっている宗教学者島田裕巳センセイとは小生、多少顔見知りの間柄であります。だもんで、この四面楚歌に関しては個人的にはお気の毒とは思うが、しかし、弁護するつもりは全くない。いや、良くも悪くも学者らしい、実にやんごとないお人柄で、…

書評・宮台真司『終わりなき日常を生きろ』(筑摩書房)

終わりなき日常を生きろ―オウム完全克服マニュアル (ちくま文庫)作者:宮台 真司筑摩書房Amazon*1 宮台真司は、今どきの「論壇」まわりでは福田和也と並ぶ“いじめられっ子”らしい。 だが、僕は案外買っている。しなびたお勉強屋ばかりで世間離れした言葉を弄…

ニューミュージックマガジン

捜査現場と陰謀史観

『週刊プレイボーイ』十月三日号に「現役・公安幹部の告白」という記事が載った。オウム真理教関係の事件捜査に携わる公安幹部の「独走スクープ」と銘打った派手なもので、八月十五日号に続いてこれが二回目だ。 今回は坂本弁護士事件について。オウムの単独…

オウムの冬、論壇の限界

“核の冬”という言葉がある。核戦争など大規模な核爆発の後に訪れる環境汚染について言われるもの言いだが、それに倣えば、昨今のこの国の「言論」や「思想」をめぐる状況は、もしかしたら“オウムの冬”とでも言えるものかも知れないと思う。 何を言っているん…

宮本常一

*1 昨今、宮本常一とその仕事を語ることが、すでに耐用年数を過ぎて自浄作用も見込めなくなった民俗学の、何か免罪符になっているようなところがある。いずれ狭い学問の世間でのことだが、それでも、宮本常一という名前は、この国のあちこちに埋もれた小さな…

「地球環境」という偽善

数年前、京都で国際捕鯨委員会が開かれた時、鯨捕りの本場、和歌山県太地の漁協の人たちが大挙してデモにおしかけたことがある。 もともとそのようにタバになって何かを主張する、てなことを潔しとしない根っからの漁師さんたちのこと、揃いの鉢巻にプラカー…

野口武徳『沖縄池間島民俗誌』のこと

沖縄池間島民俗誌 (1972年)Amazon 恩師とその本について述べます。 名前は野口武徳。今から一〇年前、僕が大学院最後の年に亡くなりました。享年五二歳。舌癌で下顎切除までした壮絶な死でした。 その野口先生がまだ院生の頃に行なった民俗調査をもとにまと…

毎日グラフ

火野葦平

*1 火野葦平とは、徹頭徹尾「孤独」な作家だった。 別に、厄介な自意識を持てあまして一人勝手に孤独に陥ってゆくような、俗流文学青年の自閉趣味をさして言うのではない。いや、少なくともものを書こうとするような性癖の人間である限り大なり小なりそのよ…

林 芙美子

『放浪記』が好きだ。 たとえば、女給仲間との身の上話に興じる様子を描写したこんな一節。 「こんな処に働いてゐる女達は、初めはどんなに意地悪くコチコチに用心しあってゐても、仲よくなんぞなってくれなくっても、一度何かのはずみで真心を見せ合ふと、…