マンガ評

さまざまな「いなか」が――石原苑子『祖母から聞いた不思議な話』

twitter.com*1● 主人公というか主な語り手、主な素材供給元であるおばあちゃんは、昭和7年の生まれ。主な舞台は、岡山県北西部とおぼしき土地、おそらくは今の新見市に編入されたムラでしょうが、そういう具体的な地名もまた、まず意味がない。というか、関…

書評・『マンガでわかる戦後ニッポン』 (双葉社)

マンガでわかる戦後ニッポン作者:手塚 治虫,水木 しげる,つげ 義春,はるき 悦巳,ちば てつや ほか双葉社Amazon 「歴史戦」というもの言いが飛び交い始めています。いわゆる「歴史認識」をめぐる情報戦の現在。けれども、それは何も国と国、対外的な大文字の空…

三宅乱丈『ぶっせん』

マンガ描いてるんですう、なんて言おうものなら、まずはヘンなシト扱いされるのが世の必定。ましてオンナで二十代後半となると、こりゃもうきっちりアブナい領域。同人誌まわりの泥沼にどっぷりと判断されて致し方なしで、しかもそのトシから描き始めたとな…

マンガ評・藤原カムイ・矢作俊彦『気分はもう戦争 2.1』

世は「劣化コピー」の時代、であります。リスペクトだのサンプリングだのと能書き垂れつつ、ありもの資源をコピペするばかりで自前でものをこさえる根性がなくなり、枯渇してゆく想像力と創造力。マンガとて例外じゃない。 そんな状況に敢えて一石、でしょう…

マンガ評・武富 智『キャラメラ』

惚れた腫れたのよしなしごとはこっぱずかしい。特に、ニキビ面したセイシュンにはなおのこと。だもんで、恋愛ものは「ラブコメ」というギャグ仕立てでかろうじて成立してきた。ドジでマヌケなオンナのコが、最後にやっぱり「そんなキミが好きだよ」と言って…

マンガと「伝統」

さて、いまどきのマンガはいったいどうなっておるのか! ……なあんて見栄切ってみたところで、特に何も始まらないんですが、昨今の出版不況はマンガにもよそごとでなくて、小学館、講談社、集英社と少なくともマンガでその屋台骨を支えている版元のどこもが、…

マンガ評・高橋しん『最終兵器彼女』

最終兵器彼女(1) (ビッグコミックス)作者:高橋しん小学館Amazon*1 なんでもない日常が、ある日突然、予期せぬできごとによってみるみる変貌してゆく。これは古今東西、“おはなし”の黄金律だ。 ならば、こんなのはどうだ。チビで幼くてトロい女子高校生が…

ニッポンマンガとナショナリズム――『クニミツの政』『突撃!第二少年工科学校』

*1 マンガってのはすでにエイジカルチュア、つまりある世代にとっては重要なメディアだけれどもそれ以外にはどうも……てな代物になりつつある、というのがここのところのあたしの持論。いや、だからマンガはダメだ、って言ってるわけじゃなくて、メディアのラ…

CLAMP『ちょびッ』

*1 動物を擬人化して描くのはマンガのお約束。『ジャングル大帝』や『ライオンキング』のような、およそ生態系を無視した代物ができたりするが、もはやそんなもんで驚いてちゃいけない。二一世紀はパソコンまでヒトになっちゃう。 CLAMP『ちょびっッ』…

ヤンキーマンガの〈いま・ここ〉――古沢優『東京板橋マル走自動車教習所』

東京板橋マル走自動車教習所 1 (1) (ゴマコミックス)作者:古沢 優ゴマブックスAmazon 今、日本全国のコンビニエンスストアで売られる雑誌や文庫本、マンガ本など、いずれ「本」の形をした商品の売り上げ全部をひっくるめた額は、全国の紀伊国屋書店全ての売…

つの丸『みどりのマキバオー』の断然

*1 えー、まいど、民俗学者の大月です。 このたび新しくこの『ビッグゴールド』のお座敷にお呼びがかかりました。一部では「日本一性格の悪い学者」「学者の皮をかぶったゴロツキ」、あるいは「本多勝一から中島みゆきまで、あとさき考えず噛みつく狂犬ライ…

マンガ評・唐沢なをき『電脳なをさん』(アスペクト)

唐沢なをきの新刊『電脳なをさん』(アスペクト 一六〇〇円)がいい。 もとはコンピュータ雑誌『EYE−COM』(アスキー)に連載されていた作品だが、担当編集者による巻末の解説(よくまとまっている)に「20年前の四月馬鹿に、高校の同級生ふたりが作…

岡崎京子の「受難」

「そう言えば、岡崎京子どうしちゃったんだろうね」 今どきの東京の女子高生にしてはおとなしめな制服の着こなしをしたふたりが、とある書店のマンガ売場でこんな会話を交わしていた。 九州などではどんな状況なのか知らないけれども、東京の主な大型書店で…

マンガ評・小林まこと『1・2の三四郎 2』(講談社)

歳をとる、というのは難しい。単なる年齢を加えるというだけならば、それは誰もが経験する、生き物なら逃れられぬ過程だ。しかし、うまく歳をとってゆくことは、現実はもとよりたとえ虚構の中でさえも、本当に難しい。 だが、小林まこと『1・2の三四郎2』…